第23話 帰還

「それよりもさっきのちょっとだけちらっと見たけどよ、お前凄いな。クソ強い相手に戦ってたしよ、俺がやってたら即死だったぜ」


「あ、ああ。ありがとう」


「ふ~ん、よし! とりあえずせっかくだし自己紹介でもしとくか」


「は、自己紹介?」


「そうだ。俺たち会ったんだからもう友達みたいなもんなんだからな。じゃあ俺から。……俺の名前はシンヤ。よろしくな!」


「ああ…………俺はレンだ。……よろしく」


 赤髪がいきなり自己紹介をしてくる。

 勢いでよろしくと言ってしまった。

 肩をバンバンと叩かれる。


 すぐ内側に入ってこようとしてきて鬱陶しい。

 俺が苦手なタイプだ。


 リンの方を見ていると、ちゃんと挨拶できるんですね!みたいな目で見つめてきた。

 リンも俺と同じように自己紹介をする。


「あ、私はリンです。最近こっちに引っ越してきました。仲良くしてください!」


「リンちゃんか。可愛い名前だな! いい子だ」


「この馬鹿! あんた会って早々いう事じゃないでしょ」


「いってぇ……なんだよ……別にそれくらいいいだろうが……」


 シンヤは青髪のツインテールに殴られる。

 俺は小さくため息をついた。

 他のメンバーは3人いて、それぞれが自己紹介していく。


「次は私ですね。私の名前はフェリルです。私の隣にいるのが…………」


「ランよ。よろしくね」


「……よろしく」


 ピンク色の優しそうな女の子がフェリル。

 青髪のツインテールはランだった。


「…………」


 女の子2人は名前を言ってくるが、最後の一人、メガネをかけた男だけは無言でその場に立っていた。

 俺は無心でそれを見つめていると、女の子の一人、フェリルが注意をかける。


「ねぇ、なんで自己紹介しないの!この人あんたの自己紹介を待ってるのよ」


「何故そうも簡単に自己紹介をする。これは俺のプライバシーだぞ。会ったばかりの奴にそんな事をバラスわけないだろ」


「いや……別にそんなつもりは……」


「はぁ……またこのパターンか。もういいや。私は言うよ。この人はライオネル。見ての通り、面倒くさい男です。ライとも呼ばれてます」


「おい、俺の情報をぺらぺらとしゃべりやがって! もしこいつらに俺の名前を悪用なんかされたら……」


「見ていたらわかるでしょ。あの仮面の女の子を追い払ってくれたのよ。そんなことする人じゃないでしょ!」


「いいや、俺は悪いが信用できない。力は凄いのは認めているが……」


「しかも上から目線だし……もう面倒くさい!」


「君たちもしかして……いつもこうなのか?」


 見かねた俺が聞く。


「はい……ライオネルって前向きで強そうな名前をしているくせにこんな性格なんですよね……」


「名前で判断だって……そんなので人の事をはかるなんて最低の人間がすることだ。取り消してもらおう」


「…………大変そうだな」


「あはは……わかってもらえて光栄ですよ」


 見るからに面倒くさそうだ。

 リンよりも扱いが難しそう。

 

 でも、少しだけこの性格が全く違う感じのこのパーティーになじんでいるような気がする。

 見るからに喧嘩しかしていなさそうだが、それが逆にそれが合っている。


「まあ、とにかくこれで俺たちの自己紹介は終わりだな。よし、さっきのことは切り替えてクエストに戻るか!」


「そんなことするわけないじゃない。今の奴ら完全にヤバいし、普通にクエストなんかしている場合じゃないわ。一旦、帰ってギルドに報告するのが先よ。レンさんたちも一緒に帰りましょう。なにが起こるかわかりませんし」


「ギルド……そのことだが、ギルドの受付にではなく、ギルド長直々に報告しに行く」


「ギルド長に? ……俺たちがか?」


「ああ、少し調査を頼まれているんだ。仮面の少女との因果性もあるかもしれない。だから、6人全員で話に行こう」


「……わかりました。私は構いませんけど……シンヤはどう思う?」


「俺も問題ないな。ランもライも問題ないだろ?」


「大丈夫よ」


「問題ない」


「じゃあ、そういうわけで頼む」


 そして、6人で行動を共にする。

 最初に来た道を戻っていく。

 モンスターは異常にいなくて、ほぼほぼ会わない。

 いつの間にか7階層まで上がっていた。


「ちょっと待て……」


「どうしたの? なにか思いつめた顔して……」


 歩いていると急にシンヤが言いだす。

 俺はなにか思い出したりしたのかと思って気を張る。

 しかし。


「ってことは今日の給料はなしかよ。最悪だ。飯も……食う金がねぇ!」


「……上げないわよ。聞いてて損した」


「なあ頼むよ、ラン! もしくはフェリルでもライオネルでもいいからさ!」


「シンヤがいつも酒飲んでばっかだからですよね。あなたにあげる人なんか誰もいませんよ」


「そ、そんな…………」


 残念そうにしながら俯くシンヤ。

 俺はそんな奴らを見てみるとふと頭に浮かんだ。


 まるであの、幼馴染と一緒にいた日々。

 このパーティーの雰囲気が少しだけ子供の頃のようだった。


「そろそろ、地上ですね」


「だな! ふぅ……やっと帰ったきたあ」


 そんなことを思っていると、光が見えてくる。

 もう1階層らしい。モンスターにも襲われず、話していたらあっという間だった。


「ほんとね。あのモンスターに襲われたときは死んだかと思ったわ」


「リンがこなかったら俺たちは死んでいたかもな。君には感謝を送るよ」


「あ、ありがとうございます……」


「もう、ライってそういうところがダメだよね。女の子に対して失礼とかないの?」


「ないな」


「そう、ここまでくるとすがすがしいわね。リンちゃん……大丈夫?」


「別にそれくらいなら大丈夫ですよ。どっちかといえばレンさんの方が酷いこと言ってきますし」


「おい、急にヘイトを俺に向けるな」


「ふふ、つい。ごめんなさい!」


「こら、2人ともいちゃついてないでさっさと行きますよ。早く報告しないと、大変なことになるかもですから!」


「そうだな。行くぞ、リン」


「はい!」


 そうして俺たち6人はようやく絶望的だったダンジョンから帰還した。

 少し歩き、ギルドに到着する。


 仮面の少女とあのモンスター。

 この事実をいますぐにでもギルド長に報告しなければならない。

 俺たち6人はギルド長の部屋の前まで行く。


 部屋のドアノブを握り、ドアを開けるとギルド長の姿があった。

 いつも通りのなんでも知っていそうな感じに少したじろぐ。

 緊張感がただよった。

 しかし、ちゃんと向き合った。


「ギルド長、報告があります」


「なんだ? そんな大勢なんかで押しかけて来て……進展はあったか?」


 そして、俺は報告を開始する。

 

 その時はまだ、俺……いいや、俺たちは気づいていなかった。

 これから起こる最悪な事件に。

 


 

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