第21話 仮面の少女

「クソ……なにが起こっていやがる!」


「敵が…………多すぎますね」


「ああ、これはヤバいかもしれない。逃げる方が正しい選択なんじゃないか?」


「こんな状況で逃げれるかよ。そもそもそんな隙すらねぇーよ!」


 4人がモンスターと交戦している様子を俺はながめていた。

 会話から察するにきつそうに見える。

 こんだけのモンスターを相手に出来ているのは凄いと言わざるを得ない。

 それにしても。


「なにがあるっていうんだ。……いったい」


 モンスターの量が明らかにおかしい。

 ギルド長が言っていたことを思いだす。


 誰かによる計画的な犯行。

 これがその一部かもしれない。

 推測ではなく、本当にその可能性が出てきた。


「どうします、私たちもあのモンスターたち倒しに行きますか?」


「いや、ダメだ。ここでバレたら意味がない。だったらここでずっと様子見をしていた方がいい」


「でもこのままじゃ……」


「わかっている。もし、こいつらが対処しきれなくなった場合には俺がどうにかする。調査は他のパーティーでまた試せばいい」


 俺は調査の進行を選択する。

 本当にこのパーティーの人には申し訳ない。


 なんどもなんども倒しても倒しても現れるモンスター。

 それと交戦する4人組。

 最初は一方的だったはずがだんだんと4人の方が追い込まれて行っていた。

 ダンジョンとは恐ろしいと思いつつ、流石に対処しないとマズイなと思い始める。


 そんな時、ふと隣が気になった。

 振り向いてみると。

 

「ねぇ、あなたたちは……いったい何者?」


「…………は?」


 そこには黒色のマントと不気味な仮面をかぶった人がいた。話しかけてくる。

 身長と声から察するに女の子。それも少女だろう。


 俺はあまりの出来事に驚愕してしまう。

 無意識のうちに言葉が出ていた。

 俺は驚愕の心を必死で抑え、一歩後ずさる。

 リンも俺と同じく目の前の存在に気付いたようだった。


「おい、リン。知り合いだったりするか」


「……知りませんよ。こんな変な人」


「だよな。そうだよな」


「倒した方がいいですか」


「いや……こいつがただ警戒はしておけ」


 こそこそと小声で話す。

 すると仮面の少女は無邪気な声で話しかけてきた。

 

「もしかして、私と同じ同業者なの?」


「…………どういう意味だ。というか、いつからそこにいた……」


 気配を全く感じ取れなかった。

 気づいた時にはそこにいた。

 そのまま刀とかで首をはねられていたら死んでいたかもしれない。


「意味が伝わらないのね。残念…………」


「俺の質問には答えてくれないのか」


「だってそんなの必要ないもん。いまのではっきりしたから」


「……なにがだ」


「あなたは……私の敵だって」


「マジか……」


 すると、一瞬にして少女の姿が消える。

 

「後ろか!」


 感覚的に後ろを振り向く。

 宙に舞いながら小さな鎌を振りかぶった少女がいた。


「危ねぇ……」


 ギリギリ寸前のところで攻撃を避ける。

 体を大きく揺らしたおかげだ。

 

「……避けられましたか。まあまあ良かった攻撃だったんですけど。あなた……相当強い方ですね」


 少女は鎌使いだった。

 それも特殊の片手剣のような2つで対になっている片手鎌の使い手。

 鎌の尖り方は異常で触っただけでも皮膚が破けそうだった。


「君の方こそ、当たったら即死級の攻撃をしてくるなんて……いったい何者なんだ」


「私はただの収集係。何者だとかそんなことはどうでもいいでしょ」


 全く話が見えてこない。

 この少女の正体はなんだ。

 このモンスターたちと関係があるのか。

 ……わからない。わからないことだらけだ。


 でも一つだけわかっていることがある。

 この少女はなにかヤバいオーラをかもしだしている。

 俺がいまここで倒さなくちゃいけない気がする。

 俺はごくりと固唾を飲んだ。


「私も戦います!」


 すると、それを見ていたリンが言ってくる。

 どうやらこの少女と戦う気でいるようだ。


「……いいや、ダメだ。リンじゃこいつとは……分が悪い。俺が相手をする」


「でも…………」


「でもじゃない。ここは引け。……殺されるぞ」


「そんなに強い相手なんですね……」


「ああ、こいつは間違いなく強い。気配を消す技術にあの速さ。ただ者じゃない」


 俺はちらりと横を向いて4人組の方を向く。

 そっちはほぼほぼ追い詰められていて絶対絶命の状況だった。

 はぁとため息をつく。仕方ない。やるしかない。


「行くぞ、リン」


「え、はい!」


 俺は瞬間移動テレポーテーションを使う。

 場所は4人組がいるちょうど真ん中。

 そこに飛んだ。


「え、なんですか!?」


「急に誰かが現れたぞ!」


「しかもこの人たしか、あの炎使いを倒した能力タレント持ちの奴じゃないか。何故ここに」


 4人組はすぐさま俺たちの存在に気が付く。

 調査とか、もう気にしている場合じゃない。

 どうにかしてここにいる6人で、この場を切り抜けなくてはならない。

 

「……悪いが君たちを巻き込ませてもらう」


「巻き込む!? これでも限界だっていうのにか!?」


「違う、巻き込むといってもただの手伝いだ。君たちにしてもらうのは先ほどと変わらずモンスター退治。まあ、ただ一人助っ人が増えて少しだけ楽になるってだけだ」


「それって……」


「ああ、リン。こいつらを手伝ってして、上手くやってくれ。相手をするのはこのモンスターたちだ。俺があいつを倒すまでどうにか耐えていてくれると助かる」


「! はい、もちろんです。任せてください!」


「だが、力を貸す代わりにお前たちには条件がある」


「……なんだ」


「俺があいつを倒すまで命に変えてもリンを守れ。それだけだ」


「……お安い御用よ」


「元々3人を守っていたんだ。戦力が増えるなら1人増えようと問題ない」


「やってやりますよ!」


「頑張るわよ」


 4人もやる気になる。

 やっと追い風が俺に吹いてきた。


「レンさん、見ててくださいよ、私強くなったんですから!」


 リンが動きだし、近くにいたモンスターを仕留める。

 剣の使い方とフォームが綺麗だった。

 この前まで一般人だとは思えないほど強くなっている。

 理由はわからないが、この際そんなことはどうでもいい。

 活躍してくれるに越したことはない。


 どうやらダンジョンに入る前、俺に見せたいといっていたのはこれらしい。

 俺は安心して仮面の少女の方を向く。

 リンの方はあいつらに任せておけば死にはしないだろう。技術も力も上がっているようだし、活躍できそうでよかった。


 そんあことを考えていると、少女は俺の方に近づいてくる。


「いまの凄いね。あなた能力タレント持ちだったんだ。少し驚いたよ」


「それはどうも。これでも俺と戦うっていうのか?」


「もちろん、目的のためだしね」


「目的……?」


「うん、私たちの目的。……一応聞いておくよ。【極玉】って知ってる?」


「極……玉? なんだそれ……聞いたこともない」


「そう…………本当かどうかの審議はわからないけどね」


「それ言ったら全部そうだろうが」


「だから、倒して確認するよ。脅せば嘘はつけないでしょ」


「……血生臭いガキだな」


 こうして俺と仮面の少女のにらみ合いが始まった。

 

 

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