第18話 調査へ向けて
「それを俺に…………」
話の内容が読めない。
どうして俺なんだろう。
俺のような奴に調査を頼む必要があるのだろうか。
採取クエストしか受けていないような、俺に。
いや、待てよ。
そこで気づいた。
いまの俺はもう前とは違うということに。
「そうだ、昔ならできないかもしれないが、いまのレンにならできるだろう?」
「…………その目付き、怖いんですけど」
「悪い悪い、睨んだつもりはなかったよ。ただ、面白いと思ってな」
「面白い?」
「だって、そうだろう。3年間も力をひた隠しにしていた人間がたった一人の少女を守るために使うなんて。普通は考えられない。…………これだから人間は面白い」
「ほんと……情報が早いですね」
力を使ったことも。
リンを守るために戦ったことも知っている。
それも昨日のことだ。
本当に情報が早い。
これだからギルド長は怖いのだ。
みんなからも恐れられている。
「まあ、そう怯えた表情をするな。私は君をおどかしているわけではない。頼みに来ている立場なのだ。どちらかといえ君の方が強い態度をとるべきだろう」
「そう言われても……俺にはこれぐらいしか出来ませんよ」
「昔のような態度になればいいだけだ。あの時の威勢はどこに行ったんだか」
「……昔は昔。今は今です。流石にあの時のようにはなれませんよ」
「ふ、それもそうか」
「って、なんで二人だけで過去の話なんかしてるんですか!? 私、全然ついていけなくて一人だけ仲間外れじゃないですか!」
俺とギルド長の会話にリンが割り込んでくる。
どうやら全く話について行けなかったようだ。
それもそうか。俺とリンがあったのは本当に最近なのだから。
「そうだった。忘れていたよ。本題から話がそれすぎているな。……話を戻そうか」
「最初からそうしてくださいよ……」
少しだけため息をつく。
ギルド長がこういう人だということは知っていた。
無駄話が多いことも、皮肉が強いことも。
話しているだけで疲れる。
そんなことを考えていると、ギルド長が言う。
「では、なぜそもそも調査しなければならない、すなわち死者数が多いのか。私なりの見解を話そう」
やっと本筋の話になった。
俺たちが頼まれた調査。
ギルドメンバーが襲われている理由。
それをギルド長が話し出す。
「私が思うに、モンスターの活発化……ではなく、何者かによる計画的に組まれた犯行だと思う」
「何者かって…………そんなことあるんですか!?」
「これはあくまで推測だ。誰かがやったとかは確定していない。だから正確には全くわからない。だが、根拠はある」
「根拠…………あるんですね」
俺もリンも驚愕していた。
こんなことをする輩がいるとはにわかに信じられないのだ。
「まず、ギアルが死んだことだ。奴が死ぬということはつまりそれ以上の強いものがいたという事。奴はそう簡単に死ぬようなたまじゃない。あいつはそういう人間だ。だから、そこら辺のダンジョンにいるモンスターではありえない」
裏付けるように続けて言う。
「そして2つ目。モンスターの活発化だったならなにかしらの理由があるはずだ。しかし、今回に関しては理由がない。時期も環境も関係がない。これが大きな要因だ。この2つから人為的な計画殺害だと考える」
「…………たしかに、その理由なら誰かがやったと考えられますね」
「だろう? だが、まだわからないことだらけだ。そもそも主犯も動機もわからない。そこでレン、君だ。君がギルド仲間の誰かを尾行しろ。そして、なにが起こったのか確認し、対処するんだ」
そう聞いて少しだけ手に入れる力が強くなる。
人を殺す。
それがどれくらいの罪で悪なのかがわかっているのだろうか。
わかっていない。だから、やるのだろう。
もしギルド長のいうことがあっていて、本当に誰かが意図的に仕込んだことなのだとしたら俺は絶対に許さない。
罪を経験した俺が罰をくださないといけない気がする。
だから決心した。
「…………わかりました。受けますよ。その依頼」
目をかっと見開いてそう言った。
「……でも一つだけいいですか。俺自身が向かうとかじゃなく、尾行なんですか?」
「もちろん普通ならレン自身が行く方が楽だろう。しかし、今回はそれじゃあダメだ。確認されているやられた奴らは全部で34人。その全員が3人以上のパーティー持ちだった」
「……そうですか。では見つけて尾行します」
「え、レンさん受けるんですか!?」
「もちろんだ。こんなこと見過ごすことは……出来ない」
「ふ、聞き訳が良くて助かるよ。報酬も用意しておこう。なにせ初めて採取クエスト以外のクエストをこなすんだからな。肉体的にも精神的にも疲れるだろう」
「一言余計ですよ……」
「あはは、私がこういう性格なのはずっと前からだ」
「はいはい、知ってますよ」
「適当にあしらうな。私はこれでもギルド長なんだぞ」
「なんで急にそこで威張ってくるんですか。意味がわかりません……」
この人の考えだけはわからないし、全く読めない。
絶対に敵にしてはいけないような人間な気がする。
気を付けておこう。
「そういえば、レン。ここに来る前に私に話したいことがあると言っていたが、どんなことだったんだ?」
「ああ、そうでした。ギルド長に話しがあったんです」
「ほう、どんな話だ?」
俺はギルド長に聞いてみることにする。
あの時クレタさんはわからなかったが、ギルド長なら知っているかもしれない。
「率直に聞きます。ダンジョンのボスは他の階層に現れることはあるんですか?」
「他の階層? その階層のボスとしてではなくということか」
「……そういう事です」
「なら私は、聞いたことはない。ダンジョンのボスはその階層に1体ずついるもので、時間差で復活する。それくらいしか知らないな」
ギルド長でも知らないのか。
ということはあの事案は普通では起こらないようだ。
「なにか……あったのか?」
「はい、俺とリンが5階層でクエストをしていた時、10階層のボスであるはずの【竜蛇】が現れたんです」
「5階層に……10階層のボスが……なるほど、本当に全く聞いたことのない事案だな。もしかしてこの件と関係があるかもしれない。私の方から直々に聞き込み調査をしておこう」
「ありがとうございます」
「では、明日から頼んだ。なにかあったらすぐに報告してくれ」
それを最後に所長室を後にする。
出るときに失礼しましたとリンが言ったので、俺も一応言っておく。
「あの調査……怖いですね。
「ああ、だから俺が調査する。リンはここにいてくれ」
「え、私、お留守番何ですか!?」
「…………行く気だったのか」
「当たり前じゃないですか! 私とレンさんでパーティーを組んでるんですよ!?」
どうやら行く気しかなかったらしい。
リンにはお留守番してもらおうと思っていたんだが。
「相手は間違いなく強い。それでも……本当に来るつもりなのか? 勝てる、自信はあるのか?」
俺はリンの目を見て聞いてみる。
「自身は…………ないです。……けど、私も強くなってるんです。足手まといには絶対になりません。なにかしら役に立って見せます!」
真剣なまなざしだった。
少しでも目を逸らしたらやめようと思ったが、ここまで意志がかたいのならなにを言っても無駄だろう。
「わかった。じゃあ2人で行こう。明日の朝、ここに集合だ。そこでダンジョンに行きそうなパーティーを適当に見つけて、尾行する」
「わかりました!」
こうして2人でダンジョンの調査に行くことになった。
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