第19話 調査開始
あの後、一旦家に帰った。
そして次の日の朝、俺たちはギルドに集合した。
冒険者は堕落している人が多く、昼近くにクエストに行きだすのが当たり前なのでこれくらい早くに来ていれば大丈夫だろう。
「今日の目的はわかっているな」
俺は隣にいるリンに声をかける。
リンは眠そうにしながらも答える。
「クエストを受けた人を見て、それを尾行すればいいんですよね……」
「そうだ。だから、こうしてずっと見張らなくちゃならない」
「見張るって……その辺にいる冒険者なんて山ほどいますし、ちょうどいいタイミングで適当につけていけばいいんじゃないですか」
「たしかにリンの言っていることは間違ってはいない。でも、甘い。いいか、そもそもちょうどいいタイミングなんていうのはそうやすやすと訪れるものじゃない。ずっと見ていなければ、やってこない」
「そうですかね。一日でクエストなんて受ける人大勢いますし、雑談しながらちらっと見れば全然いけると思うんですけど……」
「うるさい。いいからとりあえずは見張っておけばいい」
「やけに本気なのが意味わかりません……」
本気も本気だ。
今回の件に関して、俺は少し憤りを感じている。
もしも、本当に犯人がいるのなら必ず成敗しなくてはならない。
奴もやられたというし、放っておけばさらに被害は広がるばかりだ。
早急に対処したい。
「ていうか、なんでここでそんな話をするんですか。受付の前とかじゃなくて、酒場なんかで……」
俺たちはいまギルド内にある酒場で話していた。
酒場といっても酒だけを飲む場所ではない。
食事やワイワイ騒ぐために場所だ。居酒屋のようなもの。
俺とリンは4人席のところに向かい合うように座っている。
周りに人はいない。店長が奥の方に居て、頼めば商品を持ってきてくれるようだ。
「特に理由はない。座る所があったからいるだけだ。それに一度入ってみたかったからな」
ギルドに付属してあるこの酒場は夜に馬鹿みたいに騒ぐことで有名だった。
俺も前から興味はあったが、俺が入ってしまえば空気も最悪になること間違いない。
だからやめておいたのだが、朝ならば関係ない。
それに、最近は嫌そうな感じを出されるよりも避けられてばかりいる。
ギアルを倒した強さと前の仕打ちに対してと恐怖だろう。
俺がいるとしれても喧嘩とかには発展しないはずだ。
「私……お酒飲める年齢じゃないんですけど……」
「酒はたしか16歳からだったな。リンには早かったか」
「いや、今年で16なのですぐに飲めます! 誕生日はあと……3か月後ぐらいですね」
「リンって……俺の一個下だったのか!?」
「驚きすぎでしょ。ていうか、レンさんって17歳なんですか!? もっと上だと思ってました」
「ああ、だが酒は飲まない。動きが鈍る」
「あくまでも戦闘が理由なんですね……レンさんらしいです」
酒なんかの話よりもリンの年齢が16歳だとは思わなかった。
子供っぽいところとか見てみるとどうも16歳には見えない。
12歳くらいだ。
「なんですか、ずっと見つめてきたりして。……なんか恥ずかしいです」
俺は疑ってもしょうがないので聞いてみる。
「なあ、リンは本当に16歳なのか。どうみても16歳には見えないんだが」
「だから私は16歳です! 子供じゃないんですって!」
「そうか、本当なのか……」
「なんでレンさんってクエストとかじゃ頼りになる人なのに、日常生活だと変人になるんです。女の子に子供っぽいは禁句だっていつも言ってるじゃないですか!」
「…………悪い、次思っても口に出さないようにする」
「そもそも思わないでください!」
リンが深くため息をついた。
俺はそれを見て、言う。
「まあ、とりあえずなにか頼むか。まだクエストを受けに来るのは時間かかるだろうしな」
「そうですね。そうしますか」
適当に飲み物とつまみを頼んで、ずっと受付の方を見続ける。
なかなかやってこない。
ギルドに入ってくる人はいるのだが、クエストを受けようとしない。
待ち合わせか、酒場に入り、俺たちのように適当に頼んで遊んでいる。
そして、俺たちがいると気づくと一瞬たじろぐが、前ほど嫌な視線は向けられなくなった。
思っていた通りの反応だった。
そして飲み物3杯目に入ろうとした時に。
「あ、来ました! あの人たちクエストを受けようとしてます」
「やっとか……」
3人組の冒険者。
2人が女性で、残り1人が男性。
装備も充実していなさそうで見るからに弱そうだった。
「もう行きますか!」
「いや……あれはダメだ。次の奴にしよう」
「なんでです!?」
「考えてみろ。ギアルがやられたんだ。犯人の目的は強い奴の可能性がある。あんな弱そうな奴をつけたところでなにも出て来やしない」
ギアルが倒された。
ここからわかることは2つだけ。
狙われているのが
そして、ある程度知名度のある強い冒険者かどうかだ。
前者はこの町に力がある人が少ないので可能性としてはほぼない。
つまり後者の可能性が高い。
そう、俺はにらんでいる。
「う~、酷い言い方なのに説得力があるからどうしようもないですね。せっかく待ち時間が終わると思ったのに……」
「そんなに待つのが嫌なのか」
「別に嫌じゃありませんけど……早くダンジョンに行きたいんですよ!」
「やけに好戦的だな……変わったことでもあったのか?」
「変わったっていうか……まあ、見ていてください!」
「ああ……よくわからないが……わかった」
適当に返事をしておく。
リンにもリンなりの考えがあるのだろう。
とりあえず、見ておけばいいらしい。
「あ、あれはどうです!」
そんなことを考えていると、次のパーティーが来る。昼に近いからすぐにきた。
4人パーティーだった。
男女比が1対1で強そうな防具と武器を持っている。
あれなら大丈夫そうだ。
「よし、あれにする。リン、俺は外に出て見張っているから会計しておいてくれ」
「え、私がですか!? お金って半々なんじゃ……」
「悪いが、一昨日町を出ようとして金欠なんだ。ほぼない。頼む。このクエストが終わったら金は返すから」
「だから、こんなに食べて飲んでいたんですね……」
リンは泣く泣く払いに行く。
俺はそんなリンをよそに奴らの行動を監視する。
遠くから耳を澄ませて話を聞いていると、どうやら17階層に行くらしい。
見立ては間違いではなさそうだ。
「よし、あれについて行く。リン、早く行くぞ。置いて行かれる」
「えー! 待ってください。まだお会計が……」
「じゃあ、先に行くからな」
「う……え、ちょ、待ってください!」
リンはすぐに会計を終わらせ、俺と一緒に急ぎ足で奴らの後へと向かった。
調査、開始だ。
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