第17話 ギルド長の話

「まあ、見るからに元気だな。あのレンが女を連れるようになるとは、世界というものは本当にわからないことだらけだ」


「言い方が悪すぎます」


「悪い悪い。たしか隣の方は……リンだったかな」


「……リン・レディウスです」


「そうだった。そんな名前だった。……リンの方は最近あったばかりだからな。覚えていたよ。どうだ、冒険者は楽しいか?」


「あ、はい。おかげさまで。あの時はありがとうございました……」


 リンがギルド長にお礼を言う。

 俺は少し言葉に引っかかる。


「あのとき?」


「ああ、リンがレンが住んでいる場所を聞きたいと言うのでな。私が教えたんだ。まさかレンについて知りたいなんていう輩が出てくるとは思わなくてな、つい教えてしまった」


「…………そういえば、そうだった」


 リンが家に初めて来たときそんなことを言っていたような気がする。

 勝手に人に住所を教えるのはあまり良くないと思うが、こうしてリンと出会えたのもあの時のおかげだ。

 感謝とは言わないが、ありがたく思っていよう。


「まあ、そんな話はどうでもいい。レン、君がここに来てくれて助かった。どうしても話をしておかなくてはならない事案があってな」


「話……? あ……俺の方も話さなければいけないことがあります」


 5階層での事件を思い出す。

 あのとき起こった事件について俺も話しておかなくてはならない。


「そうか、ではその話も聞くとしよう。まずは私の部屋、所長室に案内する。ついて来たまえ」


 所長室。

 ギルドの2階にある場所でギルド長に呼ばれたゲストぐらいしか入れない幻の場所だ。


 俺は一度だけ、入ったことがある。

 それもこの町に来たその日。

 約3年も前のことなのに、とても印象に残っていた。


 俺たちはギルド長を先頭に階段を上がり、2階に行く。

 少し右の方に行くと高級そうな赤い扉がある。

 これが所長室だ。

 ギルド長がそれを開け、俺たちも中に入った。


「うわぁ……凄い場所ですね」


 キラキラと輝かしい部屋だった。

 別に部屋が非常にきれいだから光っているわけではない。

 もの自体が光っているのだ。

 高級なものばかりなのだ。 


 この部屋にかけたお金はいくらくらいなのだろう。

 間違いなく庶民ではとうてい得られない金のはずだ。


「昔と変わっていないですね」


「ああ、掃除はさせているけれど、ものそのものは変わっていない。よく覚えていたな。3年前のことを」


「まあ、印象的だったので」


「え、レンさんって所長室に入ったことあるんですか!?」


「ああ、あの時は酷かった。まだ、敬語も使えない、暴れん坊。とてつもなく大きな力を秘めたが故の行動だ」


「いまのレンさんからはまったく想像できないです」


「3年もあれば人は性格も変わるということだ。どうやら能力タレントすらも使えるくらいにな」


 ギルド長が俺を少しだけ見たような感じがする。

 実際には見ていないはずなのに、睨まれたような感覚がした。

 寒気と冷や汗が流れる。


「聞きたいか? どうして、レンがこの所長室に入ったかの経緯を」


「聞いて……見たいです!


 興味津々そうだ。

 そんなに俺の過去に興味があるらしい。

 でも、俺はそんなリンを止める。


「おい、勝手に俺の個人情報を聞こうとするな」


「いいじゃないか。もうあの時の出来事は時効だろう」


「嫌ですよ。あんまり、人に言うものでもないでしょう」


「たしかにそうだな。では、少しだけ話すとしよう」


 ダメだ、この人。

 俺の意図が伝わっていない。

 仕方ないと思いつつため息をついた。


 ここまで来たらリンにも話しておくべきだろう。

 もう、巻き込んでしまっている。

 もしリンが俺から離れてしまうなら……それまでだ。


「リンは≪ビックバン≫という事件を知っているか?」


「ビックバン? なんですか、それは……」

 

 リンは知らなかった。


「やはりそうか。では、カルラ王国については知っているか?」


「それは知ってますよ。最近、世界最大級の爆発事故があってその王国そのものが無くなった事件ですよね。なんでも、なにかしらの科学実験をしていて、それが失敗したとか。お母さんに嫌というほど聞かされました。それがさっきの……ビックバンと関係があるんですか?」


「関係するさ。そもそもカルラ王国が爆発したあれは、事件ではない。人為的に起こされた最悪の厄災と言うべきものかな。とにかく現時点で最も最悪な事件だ。死者数は推定200万人。一夜にしてそれだけの命が失われた」


「そんなことが……」


「そしてその事件を起こした張本人こそ、ここにいるレン。彼だ」


「え、…………レンさんが、やったんですか!?」


「やった、という言い方は語弊がある。間違いなくこれだけは言える。レンは被害者だと」


「…………」


 どうなるのだろう。俺は胸を抑える。

 心臓がバクバクなっているのが聞こえてくる。

 俺は胸を離してリンに言う。


「…………俺のことが怖いか?」


「正直にいえば、私は少しだけレンさんが怖くなりました。あの事件は田舎者のお母さんも知っているくらいに有名でしたから」


「…………」


 そうだろう。

 そうなって当たり前なのだ。

 これが正常の反応。

 

 だが、そんなことお構いなしにリンは言う。


「でも……そんなこと関係ないです。私は昔のレンさんなんて知りませんし、わかりません。けど、いまのレンさんは知ってます。ずっと見てます。だから、レンさんがそんなに悪い人じゃないってことわかってますから。問題ありません!」


「…………そうか」


 笑顔でリンは言ってくれる。

 少しだけ嬉しかった。

 

「さて。少しだけ話しすぎてしまった。君たちのそのなれ合いについてはもうどうでもいい。それよりも本題に入ろう」


「本題、ですか?」


「ああ、そもそも私が君たちをここに連れて来た理由だ」


 そういえば、聞いていなかった。

 何故、俺たちがここに呼ばれたのかの理由。

 

「君たちにはダンジョンの調査をして欲しい」


「調査? 俺たちがやるんですか?」


 思ってもみなかったことを言われて少し驚く。


「ああ、そうだ。もっと詳しくいえば、ダンジョンに潜っているギルドメンバーについての監視だ」


「どういう事です?」


「最近の一週間の間にギルドの死者数が多すぎてだな。調査することになった。本来ならば、あのギアルとかいう炎使いに任せるつもりだった。だが、状況が変わった。今日に昼に伝達で奴が死んだという情報が入って来た」


「死んだ……? あいつがですか」


「ああ、あっけなく真っ黒こげの状態で見つかったらしい。近くにはいつも一緒にいた2人の死体もあったようだ」


「嘘でしょ……」


 リンも驚いている。

 俺も信じられない。

 だって昨日までいたはずの人間が急に死ぬなんて、考えたくない。

 

 それにあいつには力がある。そうやすやすと負けるはずがない。

 いったいなにが起こったのだ。


「そこでだ、レン。君に調査をしてもらいたい」


 何を考えているのかまったくわからない表情でそう言われた。

 

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