第16話 末路

「クソ……なんで俺が…………」


 リンたちが遊びにいった少し前の時間帯のこと。

 一人の少年を先頭に3人組の男たちがダンジョンを歩いていた。

 特にクエストを受けていない。


 場所は12階層。

 この辺の場所なあ出てくる敵も弱い。

 安心できると考えていたのだろう。

 

「意味がわからない。この俺が…………負けるなんて」


 少年の名前はギアル・フォーゼ。

 火炎ファイアーという能力を授かった能力タレント持ちの人間だった。


「ギアルさん……」


「あれは仕方ないですよ。あの人があんな力を持っていたなんて、知るわけないんですから」


「うるさい。お前たちは黙っていろ!」


「「…………」」


 イライラが溜まっていた。

 ギアルは力を使って、炎の弾を作り出しそれを壁に何発も放出する。

 もちろんダンジョンの壁はそんなもんじゃ壊れない。

 ただ物凄い音が轟いて終わりだった。


「クソクソクソ…………」


「ギアルさんもうやめてください!」


「そうですよ。やめましょうよ。こんなの!」


「うるせぇ、荷物持ちは黙ってろ。俺に……指図するな!」


 さらに壁に向かって力を使う。

 数十回打ち込んだ時にようやく落ち着いた。

 

「クソが…………」


 ギアルはその場に座る。

 弾を打ちすぎて疲れてしまったのだ。

 他の2人はそれを見ながら、一言も話さない。

 でもきちんとギアルの方を向いていた。

 

「なんで……あんな奴に負けたんだ……俺は……俺は強いはずなのに……」


 体を地面に俯けながら言う。


「負けるはずがないと思ってた。そもそもあんな奴に能力タレントすら使わずに勝てると思ってた。それであのざまだ。あのリンとかいうガキにも本気を使っちまってた。なんて無様なんだ、俺は」


 ギアルは生まれて初めて、完膚なきまでの敗北を味わった。

 ここまでへこむのも無理はない。

 

「なにが俺には足りない。あいつの力とどこが違う。そんなの…………ただの才能じゃないか。生まれた時から違うなんて……不公平だろうが」


 そんなことを言っている時だった。


「ギアルさん危ないです! モンスターですよ!」


「モンスターか。面倒くさい」


 あれだけ大きな音を出していたのだ。

 モンスターに気づかれない方がおかしかった。


 ギアルは立ち上がり、炎の槍を作る。

 それを構えて、きたモンスターにぶつけていく。

 あっけなく近くに来ていたモンスターは死に至った。 


「はぁ……やっぱりこいつらは弱い。こんな簡単に死にやがる」


 なにごともなかったかのようにまた地面に座りだす。

 歯を食いしばって、拳に力が入っていた。

 それを見かねた2人が言う。


「ギアルさん……やっぱり帰りましょうよ。ここにいたらもっと感情が酷くなるだけです」


「そうですよ。いまの戦闘でわかったじゃないですか。ギアルさんは強いんです。12層のモンスターを一瞬でなぎはらうだけなんて。他の冒険者には……」


「うるさい。これくらいならあいつの方がもっとうまくやる」


 言葉を遮るように言う。

 いつものギアルではないと2人は思った。

 言葉遣いが弱弱しくなっていた。


「俺はいつも一番だった。家族でも生まれ育った村も、この町も。本来ならそうだった。でも違った。あいつがいた。俺はあいつに負けた。なにも抵抗できず、無様に負けたんだ」


 圧倒的な実力の差。

 それを生まれて初めて思い知った。

 精神的にギアルはダメージを受けていたのだ。

 受けた傷はどんどんと止まることなく広がっていく。

 

「俺は一番になりたい。この世のなにもかもすべて一番でいたいんだよ。だから、あいつを超えないといけない。でも……勝てないじゃないか」


「ギアルさん……」


「……一番じゃない俺には価値なんてない。もういい。このパーティーは今日をもって解散にしよう」


「「え!?」」


「お前たちも自分の人生を歩め。このまま冒険者になりたかったで他のパーティーに入ればいい。違う場所に引っ越したいならそっちに行けばいい。とにかく、このパーティーは解散にする」

 

「そんな……僕はまだギアルさんのところに居たいです!」


「聞こえなかったのか、解散と言ったんだ。俺のもとに残るだとか、残らないだとかは関係ない」


 炎の弾をつくりだし、それを発射する。

 2人の間ギリギリを通り空いていった。

 まるで、これ以上関わってくるなら容赦はしないと言わんとばかりに。


 2人はその攻撃に驚いて対処ができない。

 

「ふ、勝手に出て行ってくれ。お前らがいれば、12階層くらいなら帰れるだろ」


 ギアルは体育座りをして顔を伏せる。

 もう、なにかする気力はなかった。


 少し経った頃、かさかさと足音が遠くなっていくのが聞こえた。

 どうやらわかってくれたらしい。

 そう思っていた。

 だが。


「痛! なんだ……」


 なにか足に物が当たる。

 顔をあげてみてみると。


「い、石……?」


「このギアルさんの馬鹿あああああああああああ!」


 叫んでいる方に焦点を当てると、石をもった二人組がいた。

 思いっきり俺の方に投げて来る。

 よけようとするが、普通に命中した。

 石をあいつに投げ続けていたからうまくなっているのだろう。


「い、痛い……なにしやがるお前ら!」


「馬鹿ですかあなたは! どこかに行くとかそうじゃないんです。ギアルさんについて行きたいんです!」


「そうですよ、あまり僕たちの忠誠心を舐めないでください!」


 2人は当たりまえのように言った。

 自信と誇りをもってそう言った。


「なんでだ……なんで、お前たちは俺に着いて来てくれる。こんなにも酷く突き放したのに、どうして……俺なんかと……」


「そんなのギアルさんが好きだからに決まってるでしょう!」


「好きだからずっと一緒に居るんです。そんなこともわからなかったんですか!」


「お前ら…………」


 ギアルのまぶたに涙が少しだけ流れて来る。

 バレないように上を向きながら言った。


「わかった。……今日から新パーティーとして正式に登録した。今度こそ…………天下とるぞ」


「「おお!」」


 そんな時だった。

 前からモンスターが現れる。


「……おい、早速初仕事だ。元気出してやるぞ!」


「「はい!」」


 2人は剣を構え、ギアルは炎を手に出す。

 やってきているのは狼系のモンスター【ウルフガンド】の群れで数十匹いた。

 ギアルは1匹の力は弱いが数でおしきられるとマズイと判断する。

 注意を怠らない。


「来る!」


 どんどんと迫ってくる。

 緊張感が漂う。

 攻撃される、そう思った。


「は?」


 しかし、思惑とは違い奴らはなにもしてこなかった。

 その【ウルフガンド】の群れは俺たちの近くを通り過ぎてどこかに行ってしまった。


「なんだ……今の……」

 

 初めて見たことに違和感を抱く。

 嫌な予感がした。

 冷や汗が身体中に出てくる。


「俺たちにびびって逃げたんですかね!」


「違う……そんなはずはない。まだ、なにもしてないんだぞ」


「じゃあ、いったい……」


「例えばそうだな……他に俺たちよりも強そうな冒険者かモンスターは居て、それから逃げて……いるって……!? マズイ、いますぐにここから離れるぞ」


 ギアルはそこで気づく。

 2人はギアルについて行こうとするが。


「…………遅かったか」


 後ろから爆音とともに巨大な影が現れる。


「な、なんですか、あれ!」


「ドラゴンみたいですけど……」


「俺も見たことないぞ。いったい、どこから来たんだ、こいつ」


 虹色に光った巨体。【レインボードラゴン】というべきか。

 そのモンスターはギアルたちを見つけ、近くにやってくる。


「逃げろ! 今すぐに! あれは俺たちじゃ倒せない」


 すぐに逃げることを選択する。

 体を動かし、その場から離れた。

 だが、奴のスピードはすさまじく一瞬にして追い付かれる。


「クソ……こんなところで終わってたまるか。業火の弓矢フレイムアロー!」


 弓矢で攻撃してみるものの矢は内側にもいかず、跳ね返される。


「硬すぎる……なんだよこいつ」


 そいて奴の攻撃が口から放出される。

 俺と同じ炎だった。

 だが、威力が違う。それも桁違いに違う。

 青白い炎だった。

 

「逃げろ……こんなの……かなうはずが」


 ギアルの声も虚しく、奴の攻撃によって2人はひとたまりもなく焼かれる。

 黒焦げになった。


「は? 嘘……だろ……」


 ギアルにとって目の前の光景が信じられない。

 せっかく立ち直れたというのに、2人が死んでしまったのならどうしようもない。

 足が動かず、その場に立ち尽くす。 


 そして、最後にギアルも。


 同じ青い炎に焼かれて死んだ。

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