第13話 守るために
「リン…………」
目の前の出来事が理解できない。
頭がパニックを起こしていた。
リンの体が傷ついていて、血が出ている。
ありえないくらいの血の量だ。
早く止血をしないと死ぬレベルの。
回復薬なら持っているが、そんなものじゃ多分治らない。
近寄ろうとするが、怖くて足が動かない。
いったいどうしたらいいのかまったくわからなかった。
そんな俺の姿を見た奴が言う。
「おお、やっと来たか。雑魚野郎」
「これは……いったいどういうことだ……」
「どうもこうもあるか。お前のところの女が勝手に俺に喧嘩を売って来たから返り討ちにした。それだけのことだ」
「それだけのこと……だって……」
体に力が入る。
こいつにこんな気分が出てくるなんて初めてだった。
「まあ、本来ならこいつにはなにもする気はなかったんだがな。ついでに出来るなんて俺は運がいいよなあ」
「…………」
俺は最初からすべて間違っていたのかもしれない。
無視をするということが最も楽で、物事を簡単に収められてると信じていた。
でも、それはきっと俺だけの話でリンからしてみたら違うのだ。
リンは俺が傷つくのをみるのが嫌だった。
だから、助けに来てくれた。
本当にその気持ちは嬉しい。
だけど、こんな姿になるのなら、そんなことはしてほしくなかった。
俺がもっと早くリンの心情に気付くべきだったのだ。
そして、もっともっと早くにこいつとの喧嘩を終わらせるべきだったのだ。
「ていうか、お前も来たってことは俺とやりやってくれるってことだよな。マジで今日はついてやがるぜ」
「……ああ、そのつもりで構わない」
力強く言う。
「ん、お前キレてんのか。いつもより口調が強いぞ」
「……キレないわけがないだろ、こんなの見せられて」
「まあそれもそうだよな。早く止血しないと死んじまうもんな、そいつ」
リンの方をもう一度見る。
見るからに酷い状態で見ているだけで辛い。
「……それを分かった上でこんなことしたのか」
「当たり前だろ。でも、今回に関しては仕方なかった。こいつには火炎耐性のついた短剣を持っていたから高火力にしなくちゃいけなかった」
「それはただの言い訳だ。お前は俺とのルールで殺したりはしないと言ったはずなのに」
「違う。俺が言ったのはお前と戦う時だけな。別にこいつとはそんな約束していない。第一、俺はこいつに殺されそうになってたからな。お互い様だろ」
「もういい。お前の…‥言い訳なんて聞きたくない」
聞いているだけで腹立たしい。
俺はこいつが許せない。
こんなことしたこいつを許しておけない。
本当に俺は間違っていた。
力をひた隠しにしてずっとこれが正解だとか勝手に思っていた。
そうじゃない。
そうじゃないんだ。
力は隠すものじゃない。守るために使うんだ。
あの時、俺は失敗した。暴走してしまった。
でも、決して間違いなんかじゃない。
俺はそれを今、証明して見せる。
今度こそ守り抜いて見せる。
俺はまた力をこめる。
ボスを倒した時よりも強く。
「ふ、そうかよ。じゃ、始めるか」
余裕そうにそういう。
「始まる前になにか言いたいことあるか? それくらいなら聞いてやるよ」
「そうだな。今日の俺は…………本気でやる」
「本気? まるでいままで本気じゃなかったみたいだな」
「ああ、そうだ。お前ごときに本気になるなんて……俺も少し大人げない」
「っち…………お前って奴は本当にムカつく野郎だな。そんなに死にたいなら殺してやるよ。俺の
奴の体から炎が湧き出てくる。
力強そうだが、俺にとってそんなことはどうでもいい。
すべて壊してしまえば、勝ちなのだから。
俺は奴にゆっくりと歩いて近づいていく。
「死ねぇえええええええええええええええええ!」
炎の弾が飛んでくる。
まあまあの速さだ。目に見えるぐらい。
俺はとりあえず首をひねって避けてみる。
どうやら、追尾攻撃はないらしい。
「クソ……また外れたか。いまのは完璧だったはずなのに。運のいい奴め」
「馬鹿か。なに勘違いしてやがる。俺がただ避けただけだ」
「お前こそなに言ってんだ。あの速さを見切れるわけがないだろ。嘘を言ってんじゃねぇ」
「そうか……別にお前がそう思うなら……いいか」
そんな事をは正直どうでもいい。
「っち、余裕そうにしやがって。今度こそ終わらせてやる」
炎が変形して、針のように尖った槍が作られる。
「くただれええええええええええ」
流石にこれを避けるのは危ない気がした。
近くにはリンもいるし、人もいる。
俺が避けた時、他の人に流れ弾が当たるかもしれない。
だから、俺はあえて壊すことにした。
「
俺の目の前にきた瞬間、手をゆっくりと槍に当てる。
その刹那、俺に槍は激突することなく壊れて、塵に変わる。
「な…………あり、えねぇ」
奴は絶句していた。
そんなわけないとでも言うような表情を浮かべる。
「どうした、もうなにもしてこないのか?」
「ふ、ふざけやがって。今のは偶然だろ。俺の能力がこうも簡単になくなるわけがない。たまたまだ。…………何発も打ち込めば問題ないはずだ」
「なら、早くしろ」
数本の槍がさらに作られる。
それが連続して飛んできた。
俺は前に進みながら、一本一本触って破壊していく。
いくら俺に攻撃を飛ばしてきたところで、意味はない。
「クソ……なんなんだお前は! なにしやがったんだ。お前もあれか。火炎耐性の装備でもつけてんのか」
「そんな装備しているように見えるか。単純な実力だ」
「まさか……お前……
「今更気づいたのか。結構長い付き合いだっていうのにな。まあ、俺もお前に力があるってことは知らなかったから同じようなものか」
「なめやがって……わかった。もういいぜ。お前もこいつと同じようにして殺してやる」
弓と矢が出現した。
奴が弓を引く。
これがリンをやった技だと悟った。
間違いなくこれは強い。まず目で追おうとすれば確実に当たって負ける。
「
弓矢を俺めがけて放つ。
速すぎる。目に見えないぐらい速い。
「やった。お前はもう終わりだ!」
たしかに見えなかった。追えなかった。
だが……俺には通じない。
奴にとって俺そのものが天敵なのだ。
「…………は?」
俺の体に矢が触れた瞬間、消え去った。
「もう終わりにしよう」
俺は奴の背後へと
一旦、力を切ってから奴の背中を思いっきり蹴り飛ばした。
「ぐは…………」
奴はその場にうつぶせになるように転がる。
最初にあった余裕の表情はなくなっていた。
「なんでお前が後ろに居るんだ……お前の
「俺の
そこでもう包み隠す必要がないと思った。
俺には罪がある。一生消えない罰だ。
でもだからといってそれを隠す必要はない。
隠した結果、このようなことが起きたのだ。むしろそっちの方がいいのだ。
俺は決心する。
そして口に出した。
「俺の
「
「すべてを壊し、創り出す破壊と創造の力。お前がそもそも
「クソ……ふざけんな。俺が負けるはずなんて……」
「いいや、お前の負けだ。俺に量子レベルにまで分解されなかったことを喜べよ」
「おかしい…………なんでだよ。おかしい……だ、ろ……」
そこまで言って気絶した。
この町に俺の敵はいなくなった。
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