第12話 思いと願い

 炎がさらにメラメラと燃える。

 まるで太陽のように真っ赤だった。


「うざったらしい奴だよなお前。こんなことしてクソ雑魚が喜ぶとでも思ってんのか」


「わかってますよそれくらい。これがレンさんへのおせっかいだってことも」


「わかってんのにやるってことはお前は相当な馬鹿なんだな」


「…………ほんと馬鹿ですよ、私は」


「ふ……なに笑ってやがんだ。もういい死ね」


 そういって戦いの火ぶたは切られた。

 最初に炎の弾が剛速球で飛んできた。


 速すぎて反応できるはずもなく、私の髪の端に当たる。

 少しだけ焦げた。


「…………強い」


 他の二人とはものが違う。

 さっき攻撃を当てれたのは油断。

 本気のこの人はやっぱり強い。多分レンさんのような能力タレント持ちにしか倒せない。

 でも諦める気は毛頭ない。


「はぁ……やっぱりいきなり当てるのは難しいか。朝一番で腕がなまっているってこともあるしなあ……まあでも次は当たるかもしれないがな」


「…………」


 緊張感が漂う。 

 力を使ったことで周りは大騒ぎになる。

 近くにいた人は離れていった。


 そこで私は考える。


 まず私がするべきことはあの片手剣を拾う事。

 一つだけの片手剣ではほとんど戦えない。

 それもあの攻撃を避けながらだ。


 私はこの人を円で描くように走り出す。

 周りはいなくなったことで距離が取れやすくなった。


「走るだけで避けれると思うなよ。死ね!」


 炎の弾が飛んでくる。

 速さはやはり一級品。

 目に見えない。


 だけど、走ったことで被弾をまぬがれる。

 ちょうど落ちていた片手剣を拾う。

 これで、武器はそろった。


「っち偏差打ちミスったか。こざかしい奴だ」


「あなたこそ…………本当に強いですね」


「ふ、謝るなら今のうちだぞ。今ならまだ、殺さないでおいてやる」


「そういってますけど…………殺しはしないだけですよね」


「よくわかってんじゃねぇか。ぼこぼこにして泣いている所をさらにぶん殴ってやる」


「じゃあお断りです!」


「……その判断は愚策だな。せいぜい、死なないように気をつけろよ!」


 すると何発も何発も飛んでくる。

 私は走って回避しようとするものの数が多すぎる。

 当たるのも時間の問題だった。

 それに。


「精度が悪くても数で押し切れば問題ないだろ」 


「でも…………そんなことしたらあなたの仲間が…………」


 気絶しているとはいえ、近くに倒れているのだ。

 そんなに攻撃し続けたら最悪…………

 だけど、想像しているものとは全く異なる答えが返ってきた。


「仲間? 笑わせんなよ。そいつらは仲間なんかじゃない。ただの奴隷。まあ、荷物持ちぐらいには思ってるか」


「…………なんで、ですか」


「なにがだ?」


「どうして……そんな風に思うんです。彼たちだって頑張っていたじゃないですか。私を倒そうとして来たじゃないですか」


「でも結局倒せなかっただろ。そいつらは弱い。だから負ける。つまり、敗者なんだよ。そんなの俺の仲間じゃない。認めない」


「…………」


 その瞬間、この世とは思えないほどの憎悪と怒りが湧いてくる。

 どうして人のことを強いとか弱いとかでしかはかれないのだろう。


 こんな人に私は…………負けてしまうのか。

 嫌だ。そんなのは嫌だ。

 レンさんまでこの人の餌食にはさせておけない。

 

 もう逃げるのは止めだ。

 私が絶対に倒す。倒さなくちゃいけない。必ず。

 私はそう決心した。


「逃げずに向かってくるか……面白い!」


「もう、逃げるのはやめたんです。この勝負。勝たせてもらいます!」


「来いよ!」


 奴に向かって走る。

 強い願いと思いを乗せて私は走る。


「死ねえええええええええええ!」


 突如として奴の体まわりに炎が芽吹く。

 針のような尖った炎。

 それが物凄い勢いで飛んできた。


「やああああああああああああああああ!」

 

 剣を重ねて盾にする。

 それをかざして炎を防いだ。

 ぱりん、とかたまっていた炎が割れた。


「なに…………壊された…………俺の火炎ファイアーが……」


「終わりです!」


 奴は私の目前にいた。片手剣を奴に突き刺そうとする。

 勝った。

 私はそう思った。

 

 だけど、現実は残酷で。

 奴はニヤッと笑っていた。


「…………よくやったよ。お前は、褒めてつかわしてやる」


「う、……なんで……これ以上、刺せない」


 剣を動かそうとしても硬すぎて動かない。

 なぜだろうと思って腹を見てみる。

 そこに答えがあった。


「俺の能力タレントは炎ただ出すってだけじゃない。炎を色んな感じに変換できる。弾だったり、槍だったり。それに盾だったりにな」


 炎が防いでいた。

 どおりで硬いわけだ。


 気づいたときにはもう遅く、思いっきり足で蹴り上げられていた。

 体が吹っ飛び、地面に落ちる。


「うぅ……」


 痛すぎて声もあげれない。


「驚いだぜ。まさかその剣に火炎耐性がついているなんてな。よっぽど珍しい武器だぜ。どこで見つけて来たんだよ、そんな代物。欲しいくらいだ」


「か、火炎耐性…………」


「……まあ、いい。流石にその状況で防げはしないだろう。お前はよく頑張ったほうだ。誇ってもいいぜ。この俺を…………本気にさせたんだからな。そして……死ね」


 突然彼の目の前に真っ赤な弓と4本の矢が現れる。


「おいおい、あれってたしか……」


「ああ、あいつの奥義とか言われる奴だろ」


「ダンジョン攻略で毎回ボスを倒すときに使われるっていう……あの!?」


「あの子……大丈夫なのか!?」


 周りからヤバそうな声が聞こえてくる。

 しかし、そんなことお構いなしに奴は弓を構え、引いた。

 よけようと身体を揺らすが、痛みで動かない。


業火の弓矢フレイムアロー


 そして炎の矢が飛んでくる。

 4本の矢は両手両足にすべて刺さった。


 血が身体から抜けていくのを感じる。

 そして、食らった瞬間から私の意識は遠のいていった。


 私にはなにも出来なかった。

 レンさんを守れなかった。

 思いと願いは通らなかった。


「ごめん、なさい…………レンさん……」


 それを最後に私は完全に気絶した。

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