第11話 リン・レディウスの思い

 私、リン・レディウスは自分の事が大嫌いだ。

 いつもやることなすことで人に山ほど迷惑をかける。

 最低の人間なんだ。


 この町に引っ越してきたのもそう。

 私の行動が原因で親と散々な喧嘩をした。

 そのせいで私は逃げるようにこっちに来た。


 この町なら頑張れる。

 …………頑張らないといけない。 

 そう思って、お金を稼ぐためにたくさんのことをした。


 宿の家賃のために商店街でバイトをしたり、お店の清掃をしてみたり。

 どれも大変だったけど、人一倍頑張ったと思う。

 必死の思いで頑張っていたのだ。

 そんなときだった。いつも通り店で働いていると私は聞いた。


「リンちゃんはいつも頑張っているな。ありがとよ」


 店主さんが言ってくる。

 優しい店主さんだ。お給料もいい。


「こちらこそ、ありがとうございます!」


「うんうん、いい子だ…………あ、そういえば、リンちゃんってお金が稼ぎたくてこのバイトやってるんだっけ」


「はい、そうです!」


「おお、働き者だな……じゃあ冒険者とか知っているの?」


「冒険者……ですか?」


 なんどか耳にしたことはある冒険者。

 冒険に出て、モンスターを倒したり、旅をしたりするぐらいにしか知らなかった。


「そう冒険者! ……あれは凄いぞ。めちゃくちゃ稼げる」


「そうなんですか!?」


「ああ、なんせ俺が昔所属していたからわかるんだよ。この町には世界でたった10つほどしかないと言われているダンジョン。『マーベリック』があるからな。冒険者業は他の場所よりも盛んなんだよ。リンちゃんはまだ若いんだしやってみるといい」


「へぇ…………」


 ダンジョンか。

 シヴァニア王国じゃ有名だ。

 私がこの町、レアルスタルに来たのもそれで知っていたからだ。


「あれの凄いところは自由さだな。ダンジョンだけじゃなくて他にもいろんなことが出来る。…………若いころは楽しかったなあ」


「店主さんはどんな感じだったんですか?」


「そりゃあ、たくさん遊んだ。遊びに遊んだな。朝はクエスト受けて昼にたくさん旅しながら働いて夜には酒飲んで馬鹿やって……でまた次の日よ」


「……楽しそうですね!」


「リンちゃんもやってみるといい。多分好きな男の一人や二人が出来るだろうしな」


「どういう意味です?」


「だからな、そいつに近づいてパーティーを組むだろ。で、クエストを受けるとモンスターを探すがなかなか見つからない。そうしたら、ダンジョン内で夜を共にするんだ。…………そしたらあとは遊び放題よ」


「もう……店主さんったら。おかみさんに言いつけますよ」


「ちょ、ま。……それだけは勘弁!」


「まあ、嘘ですよ。冒険者ですか……ちょっとだけやってみようと思います」


「ああ、頑張れよ。…………だけど、たまには店に来てくれ」


「はい、もちろんです!」


 そういうわけで私は冒険者をやることに決めた。

 でも、そう簡単にはいかなかった。


 初日。私はダンジョンが気になって下見にいった。

 お金を稼ぐって言ってもどんなものなのか調べない事にはどうしようもないと思ったからだ。

 だけど、それが仇になった。


「キャアアアアアアアアアア!」


 へまをした。

 なにかがいると思って近づいてみれば犬型のモンスターだった。


 気づいたモンスターたちは襲いかかってくる。

 必死になって逃げるが、私の足は遅かった。

 すぐに追いつかれる。


「嘘……私、死ぬの? ここで…………」


 絶望で満ちる。

 ここで人生は終わるんだと悟った。

 そう思っていたのに。


 目の前にある人が現れた。

 私は心配して言う。


「!? お兄さん逃げてください。モンスターです! 私のことはいいから……」

 

 そう言ったのにその人は余裕そうで、


「……大丈夫だ。別に倒す気はない」


 簡単にそのモンスターを追い払ってしまった。

 助けられた。


 私じゃ手も足も出なかったのにその人はいとも簡単にやってのけた。

 それも私を心配してくれる。

 

 そんなことされてしまったら、なにも思わないわけがない。

 本当に私はチョロい女だと思う。 

 それだけで惚れてしまった。


 だから私は行く。

 あの場所、広場へ。

 今度は……私が助ける番なのだ。必ず助けて見せる。


 広場に着くと、すでに人で溢れていた。

 私は人々をはらいのけて進んでいく。

 あの3人組が見えるところまで行った。

 近くまで行くと話しかけられた。


「あ? なんだ、もう来たのか。お前がいるってことは……雑魚も来てんだろ」


「…………来てませんよ。私一人です」


「なんだよ。楽しめると思ったのに……はぁ……早くあいつを呼んで来い」


「無理です。私にはレンさんを呼べません」


「じゃあ、お前何しに来たんだ。いますぐに帰れ。お前のような奴が来るところじゃない」

 

 見向きもしないで追い払われる。

 でも私は引かない。

 さらに近づいていく。


「……私と戦ってください。その代わり私が勝ったら、もう二度と……レンさんに手を出さないと誓ってください」


 腰かた片手剣を取り出し、構える。

 周りがざわざわと騒がしくなる。

 それを無視して話してかけて来る。


「なに言ってやがる。お前は馬鹿なのか?」


「馬鹿じゃないです。もしかして……私に負けるのが怖いんですか?」


「おお、言うじゃねぇか。おい……お前らがあいつをやれ。あんまりいたぶってやるなよ。かわいそうだからな」


「はいよ、任せてくださいよ」


「遊んでやるぜ」


 2人組が来る。

 元からこの人たちを相手にしなくちゃいけないと思っていたから問題ない。


「死ね!」


 一気に私に向かって殴り掛かってくる。

 華麗に避けて、剣の腹で殴る。


 一瞬にして決着はついた。

 二人は倒れる。


 私は真似ただけ。 

 レンさんがやっていたように。たくさん見ていた。だから真似れた。

 

「なにやってやがる、お前ら……ああ、もうクソ。面倒くせーな」


 ダルそうにしながら奴は私と向かい合う。

 きっと負けるはずがないと思っているのだろう。

 だからこそ、ここで仕掛けるのだ。


 私には秘策がある。


 奴が油断しているその瞬間。

 その瞬間だけは攻撃が当たる可能性が一番高い。

 倒すなら今しかない。

 私は屈指の思いで、片手剣を顔目がけて投げる。

 

「く……あと少しだったのに……」


 当たりはした。

 だが、場所が悪かった。

 顔の表面をカスっただけだった。


「血か…………っち、お前……俺を本気にさせやがって」


 両手に炎が見える。

 能力タレントだ。


「…………」


 固唾を飲んで一つしかない片手剣を構える。

 もうやるしかない。


「ルール違反だが……しょうがない。殺してやるよ」


 この能力者と。


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