ルーゼンの森の王国

 バンが素振りを始めてから長い時間が過ぎたとき、冒険者ギルドではある出来事が起きていた。


「フッ! フッ! はぁ、はぁ、なんか上が騒がしいな」

 俺が素振りを始めてどれぐらいの時間が経ったか分からないが、上の階の冒険者ギルドが騒がしいことに気が付いた。


 *訓練場は冒険者ギルドの地下に併設されており、訓練場に入るには冒険者ギルドを通らなければならない。また、訓練場の強度は頑丈で、高位の冒険者が威力の高いスキルを使っても壊れることが無いように魔法具を使用してあるのだが、許容以上のダメージを負うと壊れてしまうため注意が必要である。もし、魔法具を破壊してしまった場合、壊した本人がその魔法具の代金を支払うことになっているため、威力の高いスキルを使うのは控えるべきである。


「今日もある程度は素振りしたし、冒険者ギルドに顔を出してみるか」

 バンは冒険者ギルドが騒がしいことに興味を持ったのか、軽い足取りで冒険者ギルドへと向かった。




 ~その頃、冒険者ギルドでは~


 装備についた泥やホコリ、何者かの返り血を布で丁寧にふき取りながらガリッシュに報告するクリスと、深刻そうな顔をするガリッシュが冒険者ギルド長室で話し合っていた。


「それは本当か? それが本当なら、今すぐにでもこの町にいる冒険者たちを総動員して取り掛からないと大変なことになるんだが……」

 そう話すのは手で頭を抱え、いつにもなく真剣な顔をしているガリッシュであった。


「こんなことで私が嘘を言うと思いますか? もう一度言います。ルーゼンの森の奥にゴブリンの村……、いや、ゴブリンの王国を見つけました」

 クリスは新しい布に手を伸ばしながらそう答えた。


「そうか、俺がこの冒険者ギルドの長になってからはや20年。これほどまでに深刻な出来事はこれで2度目だ。」


「そうですか。私は1度ゴブリンの王国関連のクエストを受けたことがありますが、あれは大変でしたね。あの時の自分の冒険者ランクはCだったのでゴブリンキングと戦うことはかないませんでしたが、今回は戦うことが出来そうですね。いやぁー、このクエストを受けて正解でした!」

 子供がプレゼントをもらった時と同じような表情を浮かべるクリスは本当にうれしそうにそう答えた。


「何馬鹿なことを言ってやがる。王都からの援軍はこれ以上難しいから、この町の冒険者とお前さんとでこの件を片付けなきゃならないんだぞ……、まったく、お前さんってやつは…」

 呆れた笑みを浮かべながらクリスにそう言うとクリスは


「まぁまぁ、相手のボスは任せておいてください。今回のゴブリンの王国は前に受けたクエストよりも規模は小さいですから、私たちだけでも十分やれますよ。危険度で表すと、Bランクの上位ってところですかね?」


「そうだな。だが、規模が小さいのは救いだ。門を守ってたのはどんなゴブリンだ?」


「通常種です」

 即答するクリス。


「なら、今回の規模は一番最小だな。そうなると、親玉はゴブリンキングで間違いない。お前さんにはゴブリンキングと戦ってもらうとして、キングの配下のゴブリンジェネラルにはこの町唯一のCランクパーティに戦ってもらう。ゴブリンソルジャーやゴブリンにはこの町の冒険者に当たってもらうとして、決行するのは明日の午前中だ。」

 文句は言わせないぞという目でクリスにそう伝えると、「私がジェネラルとキング両方とやりたかったのに」というクリスを無言の圧で黙らせ、外にいたギルドの職員に明日の午前中にゴブリンたちと戦闘を行うと伝えた。


 それからのギルド職員たちの行動は素早く、報酬や日時、募集する冒険者のランクなどを決め、30分後には冒険者ギルドの掲示板に緊急クエストが通達された。



 ~【緊急クエスト】ゴブリンの王国~


 報酬:参加者一人あたり10銀貨。

    

 討伐報酬:ゴブリン1銀貨。ソルジャーゴブリン3銀貨。ゴブリン変位種(その個体に応じて報酬変化)。ゴブリンジェネラル20銀貨。ゴブリンキング1金貨。


 決行日は明日の午前9時に冒険者ギルドへ集合。道具やポーション類は無料提供しないので各自準備してくること。


 注:ゴブリンキングは”槍の勇者クリス”。ゴブリンジェネラルは”スラッシャーズ”に討伐してもらいます。



 このような緊急クエストが張り出された。その時の冒険者たちの反応は


「緊急クエストか! このギルドが張り出すのって初めてじゃないか?」


「十数年前にもこんなことがあったらしいぜ。ってか、いつもの報酬の2倍か! ギルドやるな!」


「ふっ、遂に私の力が試される時が来たな……」


「何言ってんだおめぇ、Eランクのくせによ…」


「クリスがキング抑えてくれるなら楽勝だな! 俺は受けるぜ!」


「俺も!」


一層騒がしくなっていく冒険者ギルドであった。




 ~その頃、バン~


「今日は冒険者すごい集まってるな。最近は冒険者ギルドにこんなに人が集まることはなかったのに」

 バンはいつも以上の活気あふれる冒険者たちの姿に驚き、冒険者たちがひときわ集まっている場所に目を付けた。


「うん? 掲示板に人が群がってる? 何かあったんだろうか?」

 そう思いつつ、バンは人垣を分けながら、ある張り紙を見つけた。


「なになに、【緊急クエスト】ゴブリンの王国? いつもよりすごい報酬が高いな。それに、クリスさんやあのCランク冒険者たちが参加するらしいし……、俺もお金の手持ちが少なくなってきたし……、よし、受けるか。」

 一番の要因は報酬に目がくらんだのだが、バンはこの緊急クエストを受けることを決意した。


 バンは宿に戻ると、武器の手入れや防具の手入れをし、道具やポーションの確認をし始めた。


「最下級ポーション2本。ポイズンキュアポーション1本。匂い玉1個にナイフ1本と……」


 *最下級ポーション。1本3銀貨以上し、一番レアリティが低いポーションであるのに高い。しかし、これを持っているかいないかで死に直結するので、全財産の半分近くを使って購入した。


 *ポイズンキュアポーション。1本3銀貨以上。毒を治す効果がある。


 *匂い玉。1つ1銀貨。モンスターが嫌がるにおいを発し、ゴブリンなどの低位なモンスターは近寄ってこなくなるが、ある程度知能を持ったモンスターだと効き目はない。


「もうお金はすっからかんだし、明日でいっぱい稼がなければ。ついでにレベルも上げるぞ!」

 そう声に出して決意するバンであった。



 ~モンスターランク~

 すべて群れで出てきた場合ではなく、単体で出てきた場合のランクを示しています。群れで出てきた場合はそのランクから一つ上げたランクです。


 ゴブリン:F

 ゴブリンソルジャー:E

 ゴブリン変異個体:E~S(変異個体でSが出てくることはほぼあり得ないです。)

 ゴブリンジェネラル:C

 ゴブリンキング:B


 

 ゴブリンの王国は門を守っているゴブリンで、その王国の危険度が分かります。まず、普通のゴブリンの場合は、ゴブリンキングがボスです。


 ハイゴブリンが門を守っていた場合、ボスはハイゴブリンキングです。この場合は、王都に緊急の通達を送り、Sランク冒険者やAランク冒険者のパーティを送ってもらわなければいけません。それ以上の高位ゴブリンが守っていた場合は、ボスはSランクの変位種ゴブリンでしょう。その際はSランクのパーティを派遣するしかありませんね。

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前世の記憶を持つ俺が世界最強の冒険者になるまで。使えないと思っていたスキルが実は最強でした?~いやいや、この世界ハードモードすぎるんですけど~ ガクーン @gaku-n

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