一振りの剣、バーンフレイム

「あの…、どこまで行くんですか?」

 宿から出て、ある程度時間が経ったときに俺はアイリと呼ばれる女性に話しかけた。


「もうすぐですから、心配しないでください」

 そう言いながら立ち止まり、微笑みながらバンの方を見て、再び歩き出した。


「いやぁ、さっきも同じこと言ってから結構時間が経ってますよ?」

 そう、俺がこんな話をするのは1度ではない。さっきからアイリは俺の疑問に対し、同じことばっかり口にし、歩き続けているのだ。


 今俺がいるのは、ルーゼンの町のはずれにある古びた家々が所狭しと並ぶ小さな細道へときており、ガリオン武器店があるところから外れたところに来ているのは間違いない。


「大丈夫です。本当にすぐそこですから。」


「だって、ガリオン武器店があるのは、町の中心にある大通りの一番立地がいい所じゃないですか。こんな場所にないぐらい分かってますって」

 そう俺がアイリに言うと、アイリは突然


「着きました」


「はい?」

 アイリが立っている場所は何もない…、いや、あるにはあるが、古びた家が一軒ぽつんと立っていた。


「着きました」

 そういって、アイリは古びた家を指さす。


「ここ…ですか?」


「はいそうです。ついてきてください。」

 アイリはそういうと、古びた家の中に入っていってしまった。


「…………、行くか」

 俺は、少し遅れてアイリの後を追い、古びた家の中に入っていった。




 

 中に入ると、家具などは最低限しかなく、あるものと言えば、ひときわ目立つ大きな扉だけだった。


「こっちです。さぁ、行きますよ」

 そう言って、アイリはその大きな扉を開けた。


「おいおい、なんだよこれ…、凄いな。」


 その中には所狭しとモンスターの部位やら鉱石やら、大小さまざまな装備が並んでいた。

 中には素人目でも分かるような高位のモンスターの部位や、見たことも無い宝石などが飾ってあったりと、マニアが喜びそうな物ばかりあった。


「ようこそ、ガリオン武器店、装備製作所へ!」

 ニコニコしながらアイリはバンに言うと、さらに説明を始めた。


「ここはですね、ガリオン武器店の本店で扱わないものばかりをここに置いてありましてですね、本店にあるのは、お父さんの弟子のものばっかりですね。お父さんの作品のほとんどはここに置いてあります。あと、ここで使用してるのもお父さんだけですので、言っちゃえば、お父さんが趣味だけに作った工房ってやつですかね」

 そう言いながら、アイリはテーブルの上にあったひときわ目立つ剣を持ってバンに話しかけてきた


「で、これがバンさんにとお父さんが作った武器ですね。名づけるなら、バーンフレイムと言ったところでしょうか? お父さんが人に作ることなんて滅多にないんですよ? さぁ、どうぞ」


「えっ…、これが俺の剣? これを俺がもらっちゃっていいんですか? 見た目からして高そうだし、後でお金請求されても払えませんよ? ほんとにダイジョブなんですか?」

 俺が真剣に話す顔が面白かったのか、少し、顔をそらして肩を上下にさせていた。


「大丈夫です。あと、武器を作ったものとして武器の説明をしますね。まぁ、作ったのは私じゃなくてお父さんですが」

 そうクスクス笑いながら説明を始めた。


「その武器は、バーンフレイム。モンスターランクBのワイバーンのコアと、バンさんが倒したゴブリンジャイアントの皮や骨を使用した武器です。ワイバーンは口から火の吐くことで有名ですが、今回バンさんが倒したゴブリンジャイアントも以上に火の耐性が強く、ワイバーンと相性が抜群によかったそうです。その剣にはコアも混ぜてありますので、威力も高いはずです。それに、お父さんが作ったものなので、性能は折り紙付きです!」

 そう、父親の自慢をすると満足したような顔で笑った。


「そうなんですね。自分で持ってみても、思ったより重くないですし、とてもしっくりくる。長年連れ添った相棒みたいだ。それに、前よりも見た目が抜群にいい!」

 やはり、俺みたいな地球人にはこのようなカッコいい剣にあこがれを持つ者が多いだろう。無論、俺も憧れていた。


 これで、剣から火が出れば最高だったのだが、何度振っても出ないため、それは諦めた方が良さそうだ。それにしてもホントカッコいいなこの剣。使うのがもったいないくらいだ。


 そう、頭の中で思いながら、剣を持ったり眺めたりしていると、アイリさんが俺の防具も作るから寸法を測らせてと言ってきた。無論、断る理由も無いので、そのまま採寸をしてもらっていると、アイリさんがゆっくりと俺に話しかけてきた


「その剣。本当はあなたのためにとガリッシュさんが前々からお父さんにお願いしていたんですよ。お父さんとガリッシュさんは、ガリッシュさんが冒険者の頃から親しい仲だったですからね。その縁もあってか、ガリッシュさんがあなたのためにって前々から話があったそうです」

 それは初耳だった。この町に来て、冒険者ギルドで初めてしゃべったのは、一緒に村を出た友人以外では、ガリッシュさんだし、何かあった時も、相談に乗ってくれたのはガリッシュさんだった。


「なんで俺のために…、俺は別に強くとも何ともなかったし、特別な人間でもなかった。それなのになんでガリッシュさんはそこまで…」

 そう、前世もそうだ。良くもなく悪くもない大学を出て、一般の会社員になったのはいいものの、毎日毎日上司のご機嫌を伺い、残業は深夜まで当たり前。趣味といったものもなく、このままの人生に嫌気が指していた。


 だが、ある日この世界で前世の記憶を持ったまま生まれ変わることが出来てよかったのも束の間、この世界のハードモードさに気づいて今までダラダラと冒険者をやってきちまった。それなのに…


「あなただけだったらしいですよ? 人助けのクエストや、人気のないクエストを率先して受けていた人は。普通の人は、お金になんないことや、冒険者のランクを上げること以外はやりません。それなのにあなたは他人が嫌がるクエストを率先してやっていたそうじゃないですか。

 ガリッシュさんたまに来るんですよ、この工房に。そして、来るたびにお父さんに話しているそうです。あなたのこと。愛されてますね。バンさん」

 そう言われ、俺は自分が泣いていることに気が付いた。


「俺っ、俺っ、力がない人たちがさ、誰にも助けられず知らない振りされているのが嫌なんだ。俺に力があればさ、その人たちをもっと助けられるのにっていつも思ってた。でもさ、無理なんだ。俺は一人しかいないし、自分に出来ることは限られてる。でもさ、出来ることはしたいなって思ってて、そうか、俺はガリッシュさんに認められていたのか。そうか…」

 目にたまった涙を腕で拭うと、バンは、アイリさんの方を向いて


「アイリさん。ありがとうございます。俺、気づきました。自分も誰かに必要とされてたんだって。」


「お礼言うの私にですか? その言葉はガリッシュさんに言ってあげてください。あっ、でもバンさんにだけは言うなって言われてたんでした。どうしましょう。」

 そう、微笑みながらアイリは答えた。


「はい。そうですね。お礼はガリッシュさんに言います。あと、アイリさんのお父さんにもありがとうございますとお伝えください」


「分かりました。ちょうど採寸も終わったのでお帰り頂いても大丈夫ですよ。お疲れさまでした。」

 感謝の言葉を伝え、、俺は工房を後にした。



 工房を後にした俺はすぐさま冒険者ギルドに行き、ガリッシュさんがいる受付まで歩いて行った。

 すると、バンに気付いたガリッシュは


「おう、バンじゃねえか。その手に持ってるのは…、アイリの嬢ちゃんのところへ行ったんか。そりゃよかった、どうだ? その剣の振り心地は…」

 ガリッシュが話している途中でバンは


「ガリッシュさん! ありがとうございます。この町へ来て、冒険者のイロハなどを手取り足取り教えてくれたのはガリッシュさんでした。それに剣までもらってしまって。ほんと、ガリッシュさんにどうやったらこの大きな恩を返していけるのか全然わかんないですが、一生をかけても返していきます。本当にありがとうございます!」

 そう、俺はありのままの自分が考えていたことをガリッシュに伝えると


「何言ってんだお前? それはお前が積み重ねてきたことを俺がほんの少し手を貸してやったようなもんよ。お前さんからはいろいろともらってる。だから気にすんな。そんで、その剣はこれまでのご褒美みたいなもんだ。」

 がっはっは、と大声をあげて笑いながらガリッシュはバンへそう言うと


「はい、はい、ありがとうございます」

 涙目になりながら感謝を伝えるのであった。



 それからバンとガリッシュは会話を交わし、少ししてからガリッシュはギルドの仕事をするために奥の部屋へと去っていった。


 一方バンは、ガリッシュとの会話を終え、自分の宿へと帰っていったのだった。

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