森の異変

俺は、あれから宿に帰ってきて食事を終えてからすぐ宿で寝てしまった。というか、少し寝すぎてしまった。


 さて、起きてから食事を済ませたことだし、ギルドに行ってルーゼンの森関連のクエストを探すことにしよう。


 できればもう少し早めに行きたいと思っていたが、寝すぎてしまったので仕方ない。今日も余りもののクエストしかないだろうが頑張ろうと思う。


 まず、ギルドに行くと冒険者ならすることがある。それはクエストの確認だ。まず、クエストには3種類あり、一つは常駐クエスト、もう一つは緊急クエスト、そして最後に指名クエストだ。


 常駐クエストは常にギルドが出しているものであり、モンスターの討伐や、薬草などの採取が主である。同じクエストでも、時期によって報酬が違う。また、ハンターのほとんどがこのクエストを受注することが多い。


 緊急クエストはギルドが出す時もあるが、ほとんどは一般の人たちがクエストを発行することが多い。基本的に緊急クエストは、名前の通り緊急事態に発行することもあるのだが、一般の人たちが冒険者に手伝いをしてもらいたかったりするときに発行するクエストも緊急クエストという名前で張り出されるので、そこは気を付けてもらいたい。


 そして、最後は指名クエストだ。これは高位の冒険者が指名されることがほとんどであり、クエストの内容としては、護衛や警護や、ある地帯の偵察や、たまに出現するダンジョンの攻略にも出されることがある。また、このクエストは、領主や貴族や王族など、権力の高いものが発行するので、このクエストで指名されたらほとんどの冒険者は受けるだろう。


 ということで、冒険者ギルドでクエストを見ていこうと思う。


 なになに、Bランク級の銀狼の討伐が一番上にあるな。このクエストはこの町にいる最上位冒険者でも難しいだろうから、当分は討伐されないだろう。


 他には…子供がルーゼンの森に入ったまま行方不明だと! なぜ子供をルーゼンの森に行かせたんだ! モンスターの危なさはこの世界に住んでいる住民なら知っているだろうに。


 起きてしまったことに文句を言っても仕方ないか、このクエストが発行されたのは昨日、報酬は銀貨3枚。子供の命がかかっているのにこれだけとは少ないとも思うが文句は言ってられない。よし、この緊急クエストを受けることにしよう。


「ガリッシュさん、このクエストをお願いします」

 そう言って、筋骨隆々の髭を生やしたスキンヘッドのおじさんに渡す。


「なんだ、バンじゃねぇか、どんなクエストを受けるんだ。えっと、また人助けクエストを受けるんか…お前、1日生きるのにも精一杯なのにこんなクエストばかり受けてると、いつか死ぬぞ。人助けクエストは生きている人を連れて帰ってこなくちゃ報酬はもらえないし、失敗したら冒険者ランクが下がる恐れもある。仮にも連れて帰ってきたって、報酬はおいしくとも何ともねぇ、ホントにこのクエストでいいんか?」

 ガリッシュは少し心配そうに、そしてあきれたようにバンの顔を見る。


「いいんです。それにガリッシュさんも知ってるでしょ? 俺がこういう性格なんだって」

 俺は人が死ぬのだけは見ていられない。一度死を経験したからか、あんなつらい思いは誰にもしてほしくないと思っている。それもさ、今回は子供だぜ? この世界の人たちは死が身近っていうかさ、しょうがないもんだと思ってる人が多いんだよ、だから、自分の手の範囲内で助けられるものは助けたい。もし、その子が亡くなっていようとな…


「あぁ、知ってるさ、それが原因であのパーティとも別れたこともさ」


「それとこれとはまた別の話です。話してる時間も惜しいのでもう行きますね」

 そう言って、俺が出口に向かおうとすると


「おいバン、最近ルーゼンの森のモンスターが少ないのは知ってるな、俺も長年冒険者をやってたが、こんなことがあった後にはいつも何かしら起きるんだ。だからな、ちと怪しいことが森で起こってるんじゃないかと思ってる。もし、何かあったら子供の事は諦めてすぐにでも戻ってこい。子供がルーゼンの森で一日を無事に過ごすことは難しいことぐらいお前さんも分かってるだろう。まぁ、それだけだ、気を付けていってこい」

 そう、真剣な顔をして話し終えると、書類に目を落として、何か仕事を始めた。ほんとはこの人もいい人なんだよな。外見以外…、何でもありません。行ってきます。


 急ぎ気味で冒険者ギルドから出て、町の門に向かう途中で、クエストの発行書に再度目を落とした。


「さて、もう少し詳しくクエストを見るか…、いなくなったのは昨日の夕方か、薬草採取のために向かったのだが、昨日の夜になっても帰ってこなく、今日の朝早くに緊急クエストを発行か…、子供だから森の深くにはいってないだろう。そうなると、モンスターに見つかってもうやられたか…いゃいゃ、木に登って夜を耐えしのいだか、木のくぼみに隠れているはずだろう。レッサーラビットなら、倒すことは無理でも、逃げることはできる。もしゴブリンなんかに見つかってたら、ちと危険だな。できる限り急いだほうがいいな。」

 急いで、町唯一の外へとつながる門に行くと、衛兵が俺の顔を見るなり、一言声をかけてきてからすぐ門を開けてくれた。


 ルーゼンの町からルーゼンの森までは歩いて10分もかからない場所にあり、基本一直線なので道には迷わない。しかし、ルーゼンの森は、入ってすぐは森も伐採されているところが多いので比較的明るいのだが、少し奥に行くと木々がうっそうと生い茂っており、暗い。


 明るい所にはレッサーラビットがいるのだが、ここまでくるとレッサーラビットより、ゴブリンに気を付けなければいけないだろう。

 

 この2体のランクは、レッサーラビットとゴブリンはともにFランクなのだが、決定的な違いがある。それはレッサーラビットは群れないが、ゴブリンは群れて行動するという習性があることだ。このせいで、ゴブリンが群れでいるときは、モンスターランクがEへと上がるのだ。


 ルーゼンの森に入って少し進んだところで先ほどまでとは雰囲気が少し違う、一面が草や花で包まれている所に出た。


「この子が薬草を取りに来たということは、ここら辺にいたということは間違いないだろう」

 俺が今いる場所は、木々が伐採されているところと、木々が生い茂っている所の狭間に位置するところで、薬草を取りに来るならここと言われているぐらい、駆け出しの冒険者や一般人に人気な場所だ。


 ここなら、ゴブリンも来ることが無いはずなのだが、何かがおかしいと、俺は感じた。


「うん? 籠が落ちている。それに…小さな靴の足跡と、裸足で歩いたような足跡がある! それも複数の足跡だ。間違いない、ここには子供とゴブリンがいた…、しかも、この足跡は森の奥に続いている! これは、気を引き締めていかないとな」

 最近はレッサーラビットしか倒しておらず、ゴブリンと戦闘したのはもうずっと前だ。しかも、あの時は一体としか戦っていない。


 もし、複数のゴブリンと戦い、子供を助けたとしても、子供を守りながら戦えるのか? 俺にそんな力はあるのか? 違う、そうじゃないだろう。子供を救うのになぜこんなことを考える。子供は絶対救う。ただそれだけじゃないか…。


「よし、行こう」

 そう言いながら両手で顔をはたき、気を引き締め、森の奥へと向かった。

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