強敵との遭遇その1

 ルーゼンの森の奥へきたのだが、なぜかモンスターと出会わない。


 他の冒険者の話によると、ここまで森の奥に来れば、ゴブリンの群れを何度も見かけるものだという。俺からすればゴブリンの群れと見かけないことはいい事なのだが、冒険者の感が危険信号を出している。


「うん? あそこで何か動いたか?」

 俺の視線の先には他の木よりも、一回りも二回り大きいがあった。その木には子供一人が簡単に入れるような大きな窪みがあった。


 木の陰に身を隠し、剣を抜いて観察する。


 少し待ってみたが動きは無いので、恐る恐るその問題の木の窪みへ近づいてみる。


 すると、突然小さな影が飛び出してきた!


「おじさん!」


「なんだ! ……? 君が迷子になっていた子かな? もう大丈夫だ。心配はいらないよ。すぐお家へ帰ろうね」

 緊急クエストで書かれていた特徴と同じ10歳ぐらいの黒髪の男の子が、俺の足に抱き着いてきた。


 よっぽど怖かったのだろう。服は所々破けており、目には涙を乾かしたような跡が見えた。


 少しの間、その子供は足に抱き着いたまま離れず、俺も子供を安心させるために大きな木を背にして腰を落ち着けた。しかし、おじさんか、まだ俺はおじさんと呼ばれる年齢じゃないんだけどな…。そう思いつつも、モンスターが出るかもしれないので、剣だけは手に持ったまま、周囲を警戒しつつ、ゆっくりとした口調で子供に話しかけた。


「まず、君の名前はライ君だね?」

 そう私が言うと、俺の顔を見たまま、うなずいた。うん? なぜこの子の名前を知っているかって? そりゃ、緊急クエストの中にこの子の情報が載っているからさ。基本的に、緊急クエストは、基本的に重要なことはその紙に書いてあるから、冒険者ギルドの受付の人の話を聞かなくてもいいことになっている。まぁ、時間があれば受付の人の話を聞いた方が正確だし、分かりやすいからそちらの方がいいんだがね。


「そうか、君がライ君か、ひとまずはおじさんも安心したよ。もう少ししたらここを離れて、町へ戻ろうね? いいかな?ライ君」

 そうすると、ライと呼ばれた少年が


「おじさん、この森には怖いモンスターがいるよ。僕見たんだ…見たんだよ」


「ゴブリンかい? ゴブリンならおじさんに任せなさい。おじさんも冒険者の一員だからさ、そのぐらい簡単に倒してあげるよ」

 そう言いながら、俺は微笑んだ。


「違うよ! あいつはゴブリンじゃない! 前に本で見たゴブリンよりも大きいし、あいつ、ゴブリンを食べてたから…」

 ゴブリンを食べていた? 基本モンスターは、同じ種類のモンスターを食べないことが分かっている。もし、ゴブリンを食べるとしたら、ゴブリン以外のモンスター…、しかし、この森にはゴブリンとレッサーラビット以外のモンスターは出てこないはず。


 !? 違う、一つだけ可能性があるじゃないか、ゴブリンだけどゴブリンじゃない。それは…


「ギャオオオォォォォォォォォォォォォォ!」

 森の奥の方から木をなぎ倒し多様な音が聞こえて、その後に何かの生物が声を荒げるのが聞こえた。


 うん、間違えないな、普通のゴブリンはあんな風に叫ばないし、ここからまだ遠いから問題ないが、肌がピリピリするし、あいつは確実に何かのスキルを使った。ランクFやEのモンスターがスキルを覚えていないのもそうだが、そもそも、この森の比較的浅い所には、スキルを使えるモンスターはいないんだ。


 となると、この声の正体は…ゴブリンの上位個体!


 何かしらきっかけがあり、進化してしまった。または、変異個体のどちらかだな。できれば進化個体がいいが…、どちらにしろ逃げ一択だな。声の距離的に、まだそう近くないはずだ。


「ライ君! ちょっとごめんね、持ち上げて走るけど、君には傷一つもつけさせないから!」

 そう言って、俺は怯えるライ君を持ち上げ、スキル、逃走を使用し森の入口へと向かって、急いで走った。こんな相手はしてられるか! こういう時は逃げるに限る!

 *スキル:逃走;自身の速さを上昇させる。


 くそっ、スキルを使用しても、後ろから聞こえる音に距離を話しているようには思えない。むしろ音が近づいてきているようにも感じる。スキルをずっと使うことは魔力の残量的にも不可能だし、森の外に出るまでには、このままだと追いつかれるかもしれない…、仕方ないか、ライ君を守るにはあいつと戦うしかない。覚悟を決めるか。


「ライ君! 今からおじいさんはあのうるさい奴を黙らせて来るからさ、ちょっとまっててくれないかな?」

 すると、ライは怯えながら

「危ないよ! このまま逃げようよ! それにおじさんが勝てっこないよ!」


「大丈夫さ、おじさんこれでも強いんだよ? 少し待っててくれるだけでいいからさ。なぁに、あんな奴、簡単に倒しちゃうからさ」

 嘘だ、そんなことは無い。ほんとに強い奴はこの町にとどまんないし、加えて俺は死を恐れている。しかし、子供だけは助けたいもんな。


「ホントだね? 約束だよ?」


「あぁ、約束だ」

 そういって俺は、ライ君を木の物陰に隠して、その場所を離れ、大声で叫んだ


「おい! 化け物! こっちだ! こっちにお前の相手がいるぞ!」

 怖くないわけがない。普通のゴブリンなら問題ないが、相手はたぶんゴブリンの上位個体。ランク的にDは確実だ。


 覚悟を決めろ! バン! 私が負けたらあの子はどうなる! あの子が死ぬのだけは絶対にあってはならない。子供は未来の宝だ。俺はいい、だがあの子だけは絶対に家に連れて帰る。絶対にだ!

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