SIDE:透子
私の寝顔の件があって数日後。
時計を確認して、生徒会の面々を見る。
「誰か吉井君から連絡をもらった人はいない?」
しかし役員たちはみんな、知らないようだ。
「ちょっと失礼するわね」
席を立った私は生徒会室を出ると、吉井君にメッセージを送る。
――今、どこにいるの? もう時間よ。
しかし五分ほど待っても返信がなかった。
念のために彼の教室へ足を運んだ。放課後の校舎はしんっと静まりかえって、運動場から聞こえてくる部活動の声が、静かな校舎内で反響する。
二年一組を覗くと、吉井君がいた。彼は机に突っ伏して寝ていたのだ。
かたわらに置かれた彼のスマホの画面をタップすると、今さっき私の送ったメッセージの着信を知らせる文章が表示されていた。
吉井君だって見たのだし、私が寝顔を見てはいけないことはないわよね。
自分でもどうしてそんなことをしようと思ったのか分からないけれど、手近にあった椅子に座ると、吉井君の顔を覗き込んだ。
すごく気持ち良さそうに寝てるわね。
不意にいたずら心が芽生えスマホを取り出すと、寝顔を撮影する。
と、次の瞬間、吉井君が「んんっ……」と声を漏らして、かすかに身動ぐと、まぶたがゆっくり持ち上がった。
「んん……?」
「吉井君、おはよう」
「!? せ、先輩……!?」
寝起き直後で前後不覚に陥っていた彼は、自分がどこにいるかも認識するのに手間取っているようで、しきりに辺りをキョロキョロと見回している。
「俺……:寝てました?」
「すごく気持ち良さそうだったわ。よだれ」
「すいませんっ!」
吉井君は乱暴に腕でぬぐった。
「……それにしても、どうして会長がうちの教室に?」
「あなたがいつまで経っても来ないから、様子を見に来たの。これまで事前連絡なしにサボったりしたことはなかったから」
「す、すみません……。ついうっかりしてました」
「謝ることじゃないわ。疲れてるのね。いいわ。今日は帰って休みなさい」
「そういう訳にはいきません。出来ますから」
「それなら、顔を洗いなさい。まんまの寝起きの顔はだらしないわよ。待っててあげるから」
「すぐに戻りますっ」
吉井君がいそいそと教室を出て行った。
私はスマホを操作し、先程撮影した吉井君の寝顔を眺める。
うまく撮れてる。
「……っ」
私は自分が頬を緩めていることを自覚して、はっとしてしまう。
私ったら、何してるんだろ。人の寝顔を撮影するなんて、マナー違反だというのに……。
写真をタップすると、消去するかどうかが表示された。
消すべきなのに、指をさまよわせてしまう。
「――先輩」
「! な、なにっ!?」
「顔、洗い終わりましたので」
「そう。そっちのほうがいいわ。だいぶシャキッとしてるわ。じゃあ、行きましょう」
私はスマホをポケットにしまうと、いそいそと教室を出る。
後ろめたくて、吉井君の顔をまともに見られなかった。
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