箸休め:何持っていこうか

 あのピンクマンが全国行脚して怪電波を飛ばす、という情報は俺にとって衝撃的だった。一体バックに何のスポンサーが付いているのか気になるところ。

「つーかあの講演、有料かよ」

 でも最近のモンスタークレーマーの熱意を考えると手弁当でも不思議ではない。

「ゼニゲバだな。生まれ変わったらチンクルにでもなるといい、金が尽きると死ぬからその集金力がうってつけだ」

 なんと有料の講演で、それも一回二万円以上と強気な値段設定。先輩の言うチンクルがなんだか知らんが、どうやって攻め込むんだ。無駄に硬い城みてーだ。

「こんなとこに二万円突っ込むんですか?」

「私は嫌だ」

 中古ゲームの買いあさりで金欠起こしている先輩では厳しかろう。ではどうやって行くのか。いくら相手が公然と事実無根のデマを根拠に営業妨害してるとはいえ勝手に突撃したら不法侵入になるしなぁ。

「そこで私は学校の予算を使う」

「おいおい」

 そんなんに降りるの? こんなわかり切ったクソに?

「さすがに出ないでしょう……というかもしかして部の予算を?」

「それも嫌だ。しかしちょうどよく学校がこの講義に参加するぎせ、じゃなくて生徒を探している。それに乗っていく」

「今犠牲者って言いませんでした?」

 ていうか学校で探しているのか。いねーだろそんなん。まぁ目的のある俺らがその枠貰えば犠牲は増えないが。

「ところで……一つ実験したいことがある」

「どうせろくなことじゃないでしょう」

 何か嫌な予感がミシミシする。

「これヒーローグッズ持ってたらどうなるんだろうね」

「ぜってー追い返される」

 もうそれは冷やかしなんよ。

「しかしだね、一度思いついてしまったことは試さないと気が済まない質でね」

「学校の紹介で行ってんのに横紙破りしたら内申に関わらないっすかね?」

「どちらかというこんな危ない講演に生徒寄越してるという現実を突き付けろ」

「まぁそれもそうなんですけど」

 たしかにこんな奴の講演に生徒送るとか何考えてんだと思うけど。多分学校から来たことの証明に制服使わせるから、講演の写真がネットに流れたらやばそう。デジタルタトゥー不可避。

 先輩は家から持って来たという荷物を探る。もう嫌な予感しかしねぇ。

「推し活グッズを作って媚びでも売るか」

 推し活グッズだと? 何を推すんだ。戦隊グッズだったら追い出されるだろうな。

「推し団扇」

「だから誰を推すんすか」

 出してきたのはポップで可愛らしい地にピンクのウインドウを付けたもの。『just monica』ってなんだよ俺英語苦手なんだよ。

「おっと危ない、これはネタバレだ」

「なんでネタバレを団扇にしてんだ」

 何のネタバレなのか分からん。

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