悪魔を見つけ出せ!

 これは去年度末に行われた新聞部の各部部長インタビューの一幕である。

「オカルト研究部の部長、澪標雫さんです」

「どうも」

 部室でインタビューを受ける澪標雫。この時期は新入生にして新しい部活を立ち上げた人物として一部では注目されていた。しかし部活の内容が内容だけに所謂スクールカーストの上位である新聞部連中には興味がないどころか侮蔑の対象だ。

「我が部では文字通りオカルトの研究、つまり都市伝説や密かに語られる伝承、怪談などの調査と収集を行う」

 一応はそういうことになっており、澪標もその通りに活動している。

「え? オカルトってコロナは生物兵器とかそういうの~?」

 新聞部は取材対象を小ばかにした様な態度を取る。大変失礼だが、彼を嗜めるものはいない。これが公共の電波入りするからテレビはオワコンと呼ばれることになるのだろう。

「その様な社会を混乱させる陰謀論はオカルトとはいえないな。現に有名なオカルト専門誌はそういう関係のネタは扱わないと明言した。そうだな、例えば君は『すぐにけせ』という噂を知っているか?」

 呆れた様に淡々と澪標は説明する。

「なんだそれ?」

「スーパーファミコンのソフト、真女神転生を起動すると6万5536分の1の確率で発生するとネット上で噂される現象で、画面に真っ赤な文字で書かれた『すぐにけせ』という文字が広がるというものだ」

 突然の怪談に周囲はざわつく。しかし即座に彼女はネタばらしをした。

「もちろんこの話は出まかせで開発者が直々に否定した。だが彼はこうも語った。『もしかしたら世界線というものは容易にブレて、すぐにけせが存在した世界の人がネットに書き込んだのかもしれない』と。事実としては存在しないが、そこからもしかしてを想像して身内で盛り上がる、それこそがオカルトなのだ」

 新聞部はすっかり取り残されて黙ってしまった。そもそも新聞部は世界線、パラレルワールドという概念を知らなかったりメガテニストには基本の『プログラムは魔術と共通項が多い』ということも知らないので世界線のブレをネットが引き起こすという発想もない。

「ああ、そうだ」

 反応に窮する新聞部を憐れみ、澪標はふとこんなことを言う。

「幽霊は己を話題にしたところに集まる。この動画を編集するのだろう? その度に私の怪談が流れるからさぞ幽霊もたくさん集まろう。霊障に遭ったらぜひ教えてくれ」

 新聞部が悲鳴を上げてカメラを投げ捨て、逃げ出すところでこの映像は終わっている。


「しかし先輩、どうやってあれ黙らせるんですか?」

 先輩はあのトンチキをどうやって倒すつもりなのだろうか。無いことをどれだけ見つけてもあーじゃないこーじゃないって言ってごねるのが見えてる。

「オウペンギンは死にましたの正体を掴む。そしてその破綻した論理を全て破壊する」

 まぁ、確かにそれしかない。そういえば先輩の仮説ではマンデラ効果だったっけ? しかし肝心のオウサマンにマンデラ化する要素が無かったのではどこを探せばいいんだろうか。

「次はどこ探すんですか?」

「ふむ、まずはオウサマン放送時期に起きた重大事件だ。その報道で誰かが刺されるシーンを見た可能性がある」

 え? 人が刺される場面がテレビで報道されるの? 人が殺される瞬間がテレビで?

「そんな場面が地上波で流れるんです?」

「過去に例はある。例えば豊田商事という詐欺企業の社長が生放送中のカメラの前で刺された事件がある。まぁ実際にはポン刀持った奴が建物に入って血まみれで出て来たといったところだが……。無論これはアクシデントの類であり昔のことなので今は流さない様にはしているはずだ。しかしアクシデントということは不可抗力で流してしまうこともあるな」

 アクシデントねぇ。確かにそんなショッキングなことがあれば誤った記憶が植え付けられるだろう。ましてやそれが報道される様な事件なら不特定多数が共有していても不思議ではない。

「というわけで君はそこを確認してくれたまえ。報道の話であるから資料の捜索も容易だろう。ウィキペディアなんかなら放送中の年に起きた事件とか纏まっているだろうしな。ああ、オウサマンに限らないがこのシリーズは4月スタート3月最終回だから年を跨ぐ」

「ええ? これ俺もやるんですか?」

 急に俺にも新しい作業が振られた。ていうか一緒にオウサマン見てる暇があったら俺こっちやった方がよくないか?

「それだったらさっき言ってくださいよ! 丸一日オウサマン見てる間に出来たじゃないですか!」

「あれはなるべく多い人数で見て公式の声明が正しいことを証明する必要があった。それに記憶というのは主観も混じるので人的サンプル数はどうしても必要でね」

 やっぱ必要だからやったのか……なんかすっとこなのか賢いのか曖昧になってきた。そういえば先輩って何者なのかよく知らないな、部活でしか会わないからあまり話す機会はないが。

「大変です澪標先輩!」

「ん?」

 その時、相談を持ち掛けてきた女子生徒が部室に飛び込んできた。つーか先輩って俺と同じ学年なのか。

「例の奴がこの辺りで講演するって!」

「なんと」

 驚くことにあのピンク、この地域で怪電波飛ばすのか。迷惑な奴だ。

「ていうか全国行脚してんだ……」

「賛同者を集めるためにしてるみたい」

 今時己の考えを発信するのにネットへ動画を流す手だってあろうに。ライブ配信してたし発想が出なかったり、技術や機材が無いわけではないだろう。

「ふむ、ちょうどいい。奴のホームでビジターの私が仕留めてやれば黙りこくるだろう」

「え? 倒す気満々なんすか?」

 なんと先輩はまだ探している途中だったと思いきや、一応オウペンギンは死にましたの真相に目星がついているのか。本編を見通しても原因が掴めないってのに。

「君に託したのは原因の確率が低くて私でなくとも捜索出来る範囲だ。私はもう一つの範囲を探す」

 何か打開策を持っているのか? まぁ、よほど自信があるみたいだし任せるか……。

「どっちにしろ、公式の発表通りであることの確認はしたんだ。無ければ無いで何とかするさ。心にいつもプランD」

「Bじゃないんですか?」

「いわゆるピンチ用というわけだ」

 本当に大丈夫かな……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る