都市伝説ヒーロー編
相談!薄暗い記憶
「やぁ後輩くん。ちょうど今相談を受けていたところだよ」
俺がいつも通り部室に来ると、来客がいた。他のクラスの女子だろうか、俺は見覚えがない。
「相談するならもっといいところあると思うけどな……」
「大人では取り合わない問題というのもある」
澪標先輩はまぁ賢い方だろうがあくまで学生だし、ぶっちゃけ変な人なので頼る先としては微妙だ。
「あー、メガテンの攻略?」
「違うな。まぁ、真Ⅳのすれ違い通信ならいつでも付き合うが」
当然か、あんな人を選ぶマニアックなレトロゲームをうっきうきで遊ぶ高校生が一つの学校に集まるだろうか。
「そうだ、君は子供の頃に戦隊見ていたかね? この相談はそこに絡むんだ」
「見てましたけど……、なぜ戦隊?」
戦隊とはまた奇妙な。一体なんのことやら。澪標先輩の趣味や知識を考えると、そういうサブカル系の相談が来てもおかしくないが。
「この前のニュース、見た?」
相談に来たという女子に話しかけられる。他人の美醜に関心はないので外見はこの際どうでもいい。ニュースか、ニュースって見ないなぁ。見るとしたら精々動物園で何の赤ちゃんが生まれたとかそういうのくらいだ。
「ヒーロー番組を中止に追い込もうって市民団体が現れて……」
「はぁ、その手の連中本当飽きないな」
どうもヒーロー番組を消そうとする奴らがいるらしい。悪役かな? まぁどうせ、五人で一人をボコるのが暴力的だ云々とかだろう。
「私もいつもの通り、ヒロインがグラビアやってるのが気に喰わなくてやっているのだと思ったよ。ま、変身前もスーツのヒロインもグラビアやるくらいにはいつものことだが……、今回はちょっと妙だ」
「ああいうのが妙なのは今に始まったことじゃないですよね?」
もともと偏執な人間じゃなきゃ一々子供に支持されている番組潰しだがらねぇよ。だが、そういう問題ではないらしい。
「それもそうだが、一番奇妙なのは理由だ。なんでも過去に戦隊の一人が刺される回があったのを問題視してるとのことだ」
「え? あのシリーズってめっちゃ続いてますよね? そりゃ戦ってんだから敵に刺されることくらいないっすか?」
なんというか、昔と今とじゃコンプラも違うから現代基準で言ってもどうしようもないんじゃ。
「私もプロペラマンの最終回だと思ったよ。しかし問題の回はその後に放送されたオウサマンで起きたことらしい」
「え? 刺されて終わるとかどんなヒーロー? 悪の組織大勝利じゃないですかヤダー!」
先輩によると心当たりがある模様。とんでもねぇバッドエンドだ。地球は守れなかったのか。
「後日談のシーンだ問題ない。悪は滅んだ。気になるならプロペラマンを見るかギヤギアジャーの18話を見るといい」
「それは問題ないんですか?」
ストーリー的に問題ないんだろうけどさぁ。まぁ聞いたこと無いし相当前のヒーローだろう。
「まぁ既にそんな回っぽいものがある時点で今さらだ。昭和期の番組なんて平然と地上波で女性が乳房晒していたことを考えると、昔の番組を今の基準であれこれ言うのは不毛だろう。元々意味のないことを考えてもしょうがないが……その回というのがな、公式では存在しないがネット上で見たという意見がある奇妙な回だ」
「ないのに見たことあるって人が?」
しかしそいつの指摘する回というのが都市伝説の側面もあるものだった。ああ、だから先輩に聞きに来たのか。
「で、その回ってのはどんな話なんです?」
こういうの先輩が詳しそうだし聞いてみるか。俺オウサマンは見てたと思うけど知らないしこの話。
「ああ、いつものオープニングが流れず、突然オウサマンの一人であるオウペンギンが満員電車に乗っているところから始まる。ああ、変身前だな。本来は変身前の名前で呼ぶべきだが、分かりやすい様にしよう」
「え? なにその回……」
まぁ公式じゃない都市伝説の回ならそんなもんか。あとヒーローを変身前なら変身前の名前で呼ぶスタイルか。
「その満員電車を乗客をかき分けていくと、奥の車両に敵がいた。そしてそいつは包丁を持っていたんだ。ファンタジックやメカニカルないかにも敵が持ってる武器とかではなく、一般家庭にあるリアルな包丁だ」
「そこだけ現実味あるの怖すぎでしょ」
これ見たことないな……。んな怖い話あったら覚えてる自信がある。中坊の頃、平和教育だとか言って激グロ無修正写真を黒板サイズまで引き延ばして見せつけたババァ教師がいたけど、あれまだ覚えてるもん。
「そして敵にオウペンギンが攻撃されるが、回避しきれずに負傷する。傷で動きが鈍ったところを遂にオウペンギンは腹部を刺されてしまう。血がどくどく流れ、オウペンギンが倒れた後に画面が真っ暗になり、白い文字でこう書かれる。『オウペンギンは死にました』と」
「ニチアサにそんな回あってたまるか」
とても日曜の朝に見る番組とは思えない。
「安心したまえ、平成初期のライダーなんて振り向くなって怪人に言われて振り向いたら首が落ちるみたいなのばっかだからな」
「その回、私も見た覚えがあって全く否定しきれないというか……」
先輩の語りはともかく相談者も記憶を持った一人だった。普通は「何をバカなことを」と一蹴するものだが、記憶があると少し不安になるものだ。
「というか公式に存在しないものを根拠にコンテンツ潰そうとするとかやべーなそいつ」
しかしもうちょっと大義名分上手に作れよ……。
「私の仮説では何か別の記憶が混入したことで誤った認識が共有されている、つまりマンデラ効果が起きていると推測する」
「マンデラ効果?」
また聞きなれない言葉だ……。
「南アフリカの指導者、ネルソン・マンデラが獄中死したという誤った記憶を大勢が持っていることに由来する命名だ。事実と異なる記憶を不特定多数の人が持つ現象だな」
基本的にはパラレルワールドみたいなオカルトとして語られることがあるが、と前置きした先輩は説明を続ける。
「人間の記憶は曖昧で、なおかつ忘れる様に出来ているから別の何かが混ざる可能性もある。私は興味があったから過去の指導者であるネルソン・マンデラを知っているが、人によっては現在の首相の名前も憶えていないこともある。あの当時は弾圧がひどくて別の獄中死した人物、例えばスティーブ・ビコ辺りと混ざる可能性は否定できない。ウルトラマンにも『オウペンギンは死にました』みたいな存在しない回の噂はある」
都市伝説の一つのジャンルなんだろうか、そういう番組の存在しない回って。
「その中で私がマンデラ効果だと思うものを上げると、『ウルトラマンが街を壊す最終回』だ。これは別の巨大ヒーローモノの最終回一話前の話で、なんと地域によってはここで放送が終わってしまったそうだ。ウルトラマンに似たヒーローが街を破壊して放送終了。それをウルトラマンが街を破壊する最終回と間違って覚えたというわけだ」
先輩は「しかしこのヒーローとウルトラマンって似てるかね?」とスマホで該当のヒーローを見せてきた。うーん、銀と赤だし……。
「いや、なんというか似てる様な……」
「まぁいいだろう。私もグループアイドルは全員同じに見える。では事実の検証を始めよう。付き合いたまえ、後輩くん」
なんかもうサクサクと俺も巻き込まれた。一体なんなんだこの事態は。
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