名前を狙うモノたち
「はぁー……参った」
「どうだ参ったろう」
帰宅部を続ける俺だが、困ったことがありオカルト研究部に逃げ込んだ。
「まさか名義貸しを狙ってこうも色々な部が蠢くとはね」
「みんな予算が欲しいのさ。それに活動実績も豪華にしたいから部員に様々な負担を強いる。我が部では考えられないことだよ」
帰宅部である俺の名前を狙い、色々な部が迫ってきたのだ。それも、ただ名前を貸せばいいというものではない。例えば美術部なら定期的に作品を展示したりと、活動を強制する様な状態。
「兼部でもいいっていうけどこんな忙しいの兼部しちまったら忙殺だよ」
「うちに入れば活動が忙しいという建前もあげよう。実際、今の幽霊部員もそうしているところだ」
そういえばオカルト研究部には他にも幽霊だけど部員がいたはずだ。彼らはどんな活動をしているのだろうか。
「何してんすかその人達」
「例えばこれだな」
雫先輩が取り出したのは箱に整理された灰色のカートリッジたち。これは中古屋で見たことがあるな。たしかゲームボーイっていう凄く昔のゲームソフトだ。
「ゲーム?」
「君は呪われたゲーム、というものを知っているかね?」
呪われたゲーム? また女神転生のことじゃないだろうな……。
「どうせ女神転生のことじゃないんですか?」
「真、女神転生だ。ゲームボーイのメガテンはラストバイブルとデビルチルドレンが代表的だが……。もしかしたらそれにも隠されているかもしれないな」
どうやら女神転生の、いや真・女神転生の話ではないらしい。隠されていると言ったが、どういうことなのか。
「隠されている?」
「misfortuneという呪いのゲームだ。これは市販されたものやネットでダウンロードできるものではなく、一般のゲームボーイソフトに仕込まれている可能性があるものだ」
「仕込まれている?」
「ああ、例えばこのマリオランドなんかに……何らかの操作をすることでアクセスできるように、ね」
そんなものが一般流通のソフトに隠れているというのか。だが、相変わらずふわふわな話で信頼性は低い。
「見つかったんですか?」
「まさか、簡単に見つかる様なものを忙しい言い訳には勧めないさ。これも見つかればラッキー程度のものだ」
やっぱり。
「それで肝心の内容は?」
「主人公がダンジョンを脱出するというものらしい。だが中盤で現れる悪魔の仕掛ける謎解きに失敗してゲームオーバーになると、現実で不幸が訪れるとの噂だ」
実際に肝心のゲームが見つからないのでは噂話しか情報がない。こういうゲームは現実に影響するのがお決まりなんだろうな。
「というかこんなにゲーム買って、予算無くならないんですか?」
「安心したまえ、ジャンク品扱いのソフトは百円前後だ」
「安いですね」
いや安くてもこの量よ。この量、捌き切っても置き場に困るだろう。
「それ調べ終わったらどうするんですか?」
「レトロゲームの保存をしている団体がいるからね。そこに渡しているよ。領収書も書いてあるから予算回収もばっちりだ」
「へぇ」
そんな団体あるんだ。昔のゲームもネットで配信しているご時勢に、現物を集める理由はあるのだろうか。
「今ってバーチャルコンソールとかで昔のゲームできるじゃないですか。カートリッジ集める意味あります?」
「あるとも、そういう大掛かりな保全が出来るのは体力のある企業に限られる。ゲームボーイくらいの開発費だった時代には多くの企業が参入していたが、現在では残っていないものも多い。アニメや漫画を題材にしたキャラゲーなんかは版権の都合で配信するのが困難だ」
「データを吸い出せばいいんでは? そんなに同じカートリッジばかり集める必要も……」
箱の中には同じタイトルのゲームもあった。が、そういう問題ではない様だ。
「甘いぞ後輩くん。オンラインで修正パッチが配れなかった時代には、出荷タイミングで仕様の違うゲームが存在した。それに、吸い出したデータなど何かの拍子に消えてしまう。データの保管も大事だが、物理媒体の保管も重要なのだ」
「へぇ、そのままにしないで修正することもあるんすね。意外に」
俺はオンラインに繋がる様になった時代のゲームしか知らなかったから、教科書でファミコンとか出て来た時に「このゲームにバグがあったらどうするんだ?」と思っていたけど、後から出荷する分は修正するって方法があるのか。
「最近は嘆かわしいことにレトロゲームの基盤をただの金属としてみていないのか、金を抽出して遊んでいる馬鹿者がいる。そういう価値の分からないうつけは化学実験の溶液も適切に破棄できない様だが……そうやってロム自体が失われる危険も多い。保護活動というのはどうしても必要なのだ」
「なるほどですねぇ」
まぁそれはいいとして、ここに入ればそういう活動してるっぽい大義名分をくれるのだろうか?
「というか俺が気になるのはここに名義を貸せば活動してるって言い訳が立つのかどうかですよ」
「もちろんだとも、何がいいかい? ネタなら豊富にあるぞ?」
ちゃんとネタ自体は持っているんだ。で、俺にはどんな活動を命じるんだろうか。
「何があります?」
「たとえばツチノコ探しとか、ネット怪談の調査とかだな……」
「あ、じゃあネット怪談の調査で。家に帰ってやるって流れ出来そうなので」
「よし、いいだろう。私も口裏を合わせておこう」
俺は自宅で作業していることに出来そうなネット怪談を選んだ。ツチノコは延々終わらない作業という意味では強力なカードだが、外での活動が強いられる。暑さに負けず寒さに負けずなんて宮沢イズムは持ち合わせていない。
「そこまでしてくれるんですか?」
「嘘というのは事実を混ぜるとバレにくいんだ。幽霊部員たちと連絡が取れる様にグループに入るといい」
雫先輩がスマホを取り出したので、俺もスマホで連絡先を伝える。とはいえ、メッセージアプリのグループに入っただけであるのだが。
「これでいいはずだ」
「じゃあ入部届け書きますね」
入部届けも書いて、名実共にここの部で活動していることになった。これで過度な勧誘も収まって、穏やかな帰宅部生活が始まればいいのだが。
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