缶に歴史あり
ジュースを奢る羽目になったのだが、一緒に歩いていると周囲の視線が刺さる。みんなは雫先輩の本性を知らずに憧れていることだろう。
(くっそ……なんとか一泡吹かせたい)
一応、名義貸しは回避したもののジュース代は出すことになったのでなんか負けた気がする。こうなったら、何か向こうにダメージを与える話があればいい。こういう時はスマホで雑学を調べるに限る。
「うむ、他人の金でする飲食は最高だ!」
「なんで取り繕っている様子もないのにメッキ剥がれないんだこの人……」
往来のある中で堂々と残念な宣言をする先輩。この調子だと普段からこんな感じだろうが、一年間残念な様子が周囲に伝わらないのは何故なんだ。両手で缶を持ってちびちび飲む様は慎ましい美人だが、それ以上にダメな様があからさまなはず。
「そうだ、先輩。なんで缶が今のプルトップ式になったか知ってます?」
俺は早速スマホで仕入れた話題を仕掛ける。人の金で気持ちよく飲んでいるところ悪いが、少しでも飲む意欲をそいでやる。
「そんなの、農薬のパラコートが混入した飲み物を取り出し口に放置する事件が起きたからに決まっているだろう?」
「な……なに……!」
「スマホでせこせこ調べたところ悪いが、そのくらいは常識だ」
まさかの知っていたパターン。伊達に才色兼備と謳われているわけではないのか……。
「この事件が切っ掛けで缶は開けると戻せなくなるプルトップ式になったんだ。最初は外せるものだったが、これが散乱して動物が誤飲する一種の公害になってね。そんな中プルタブを集めると車いすになるという都市伝説が広まったんだ。その後、外れないものへ改良されたんだ」
「くっ……」
「瓶やペットボトルの蓋に付いているリングも同様の開封済みかの判別に用いられるものだ。同じ事件をきっかけに瓶にも付けられるになったんだ」
付け焼刃の知識じゃかなわないな……。俺は見事に撃沈する羽目となってしまった。
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