第15話初デート、それぞれの思惑 下
岩崎さんは、下着が透けている部分(主に上半身)に、バスタオルを掛けて隠した。
夏だし、さして時間もかかる事なく乾くだろう。
俺は、さっきチラッと見えた、薄いピンクのブラを思い出し、まだ顔が熱い。
岩崎さんも恥ずかしいそうに、下を向いたままだ。
暫くして、服も乾いてきたし、喉も渇いてきたので、館内にあるカフェに移動する事にした。
「岩崎さん、何にする?」
「あ、アイスオレ良いですか?」
「了解。」
俺は席を立ち、カウンターでアイスオレと、アイスコーヒーを注文し、受け取りカウンターで、少し待ち、出来上がった商品を持って、席に戻ると、岩崎さんの所に、見知らぬ男がいた。
「ねぇ〜、君、可愛いね。俺と遊ばない?きっと楽しいよ?」
「……困ります。連れがいるので…」
「じゃあ、その連れの人も一緒で良いから。俺もツレ呼ぶし。4人で遊ぼうよ。」
どうやら、ナンパされているらしい。
しかも、連れは、女だと思っている。
俺は、深いため息をしてから、2人に声をかける。
「岩崎さん、お待たせ。その人、知り合い?」
「…いえ。突然声をかけられて…。」
「あ?オマエ何?俺は、この子と話してるんだけど?」
「察し悪いなぁ。その子、連れがいるって言っていたろ?俺がその連れなんだけど?」
「ふぁ!?連れって、男!?」
こんないかにもデートスポットである、水族館に女2人で来る事は少ないだろう。
もしそうなら、2人で一緒に買いに行くだろう。
男は、舌打ちしながら、去って行った。
「ゴメン、怖い思いさせて。こんな事なら、一緒に買いに行けば良かったね。」
「いえ、大丈夫です。川上さん、すぐに来てくれましたから。」
俺は、彼女にアイスオレを渡す。
「…それに、さっきの川上さん、…カッコ良かったです。」
そう言って、岩崎さんは真っ赤になり、俯く。
何この子…可愛いんだけど!!
俺も赤くなりながら、アイスコーヒーを飲む。
すると、岩崎さんから、「あの…」と声をかけられた。
「ん?何?」
「私達…正式にお付き合いしている…で良いんですよね?」
「うん…俺はそのつもり。」
岩崎さんは、ぱぁっと嬉しそうに笑顔になると、
上目遣いで、「…お願いがあるんです。」と言ってきた。
「…川上さんの事、裕二さんって呼んでも良いですか?勿論、私の事は、鈴奈って呼んでほしいんです。」
うっ!美少女が頬を染めながら、上目遣いでのお願い……破壊力半端ねぇ!!
俺が、その破壊力に慄いてると、みるみる内に悲しそうな顔になり、涙を浮かべながら「…ダメですか…?」って聞いてくる。
俺は、慌てて、「い、いや、ダメじゃないよ!!」と答える。
途端に彼女は、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「良かった!改めてよろしくお願いします、裕二さん💕」
「こちらこそ、鈴奈さん。」
「さんはいらないです。私の方が、年下ですし。」
「じ、じゃあ、れ、鈴奈。」
「はい!裕二さん💕」
そう言った鈴奈は、今日一番の笑顔だった。
その笑顔を見て、ああ、こんなに可愛い人が、俺の初カノなんだと感動した。
…天国の父さん、母さんも喜んでいると思う。
それから俺達は出口に向かい、途中記念写真を受け取って、バスタオルを返して水族館から出た。
まだ早い時間だったので、近くの海浜公園を散策する事にする。
そうこうする内に、日もだいぶ傾き、綺麗な夕日が沈んできたので、鈴奈に聞いた。
「そう言えば、岩さ…じゃなかった、鈴奈は門限とかあるの?」
「ええ、一応普段は19時ですが、裕二さんと一緒の時は有りません。朝帰りでも大丈夫です💕」
「は、はいぃ!?」
「お父様達は、それだけ、裕二さんの事を信頼してますから。」
「そ、そう…朝帰りは別として、じゃあ、晩御飯食べに行こうか。」
「はい!」
「何食べる?今日は軍資金、結構持って来てるから、高いお店でも大丈夫…だよ。」
「…本当に、なんでも良いんですか?」
今迄ブラック企業にいたので、あまり使う暇もなかったので、貯金だけは有った。
手持ちが足りなければ、クレカもある。
「おう!任せて!!」
「……実は、くる途中で、気になったお店があって…そこでも良いですか?」
「勿論!お店どこ?」
「はい!こっちです。」
鈴奈の後について行くと、そこは…俺も良く知ってる店だった。
『ラーメン熊三郎』
そこは、超大盛りのラーメンを出す店として、有名な店だった。
「……鈴奈、本当にここで良いの?」
「はい!私、ラーメンって食べた事無くって。お父様からラーメン食べるなら、ここが良いって教えてもらっいました。」
「……ここがどんな店か知ってる?」
「え?ラーメン屋さんですよね?え?違うんですか?」
「……まあ、ラーメン屋だけど…、女の子には、キツイかなぁ…。」
「大丈夫ですよ。私、こう見えて、結構食べますから。」
「わかった…。じゃあ入ろう。」
…まぁ、最悪俺が食べれば良いか…。
2人で列に並ぶと、店員さんが、麺の量や茹で方を聞きにくる。
俺は、最悪の場合を想定し、麺の量は少なめで注文した。
すると、鈴奈はメンカタ普通と注文したので、慌てて、少なめで注文する様に、アドバイスした。
店に入り、食券を買う。
すると鈴奈は、ブタダブルを選んでいた。
本当に大丈夫かなぁ…、腹壊さなきゃいいけど…。
席に座ると、店員さんが「ニンニク入れますか?」と聞いてきたが、今日はデートだし、ニンニクは、入れないでおこうと考えていると、鈴奈から、「メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ!」とコール、思わず吹き出す。
店員さんも、「…え?」と、ドン引きして固まっている。
「ちょっとちょっと鈴奈!?そんなの頼んで大丈夫!?」
「昨日インターネットで調べたら、初心者は、まずこれを頼めって書いてあったので…」
あー、ネットの悪ノリを信じちゃったのね。
「メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ……これじゃ、ダメですか?」
店員さんは、引きつった顔で、「…いえ。判りました…」と言っていた。
鈴奈がニンニク入れるなら、俺もニンニク入れる事にし、「ニンニクだけで」とコール。
「しかしお義父さん、ラーメンなんか食べるんだねぇ。しかも熊三郎なんて…イメージつかないわ」
「四菱本家の男子は、代々18歳迄正体を隠して、一般家庭の子として育てられます。お母様が一般家庭育ちなのに、お父様と幼馴染なのはそのせいです。ちゃんとバレない様に、本邸とは別に偽装用のマンションもあります。高校生の時に、ご友人と、良く食べにきたそうですよ。」
「へぇ、お母さんとどこで知り合ったのか、確かに不思議に思っていたけど、そういうカラクリなのね。」
2人で喋っているとラーメンが運ばれて来た。
「メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシお待ち!コッチはニンニク入りね!」
「うわ〜、来ました!ラーメン💕ラーメン💕」
鈴奈の前に置かれた、うず高く野菜がそびえるラーメンを見る。
それは富士山を超え、正にチョモランマと形容すべき物だった。
鈴奈の目から虹彩が消え、いわゆるレイプ目になった。
「ラー……メン…?え?何ですか?これ?」
「それが、メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシラーメン。」
俺は、額に手を当て、ため息を吐きながら答える。
店員さんも、憐れみの目で見ながら、「あ、あの、残しても良いんで、無理しないで…」と言ってくれる。
「俺のと、交換する?」
「い、いえ!自分で頼んだのだから、自分で食べます!はっ、ロットなるものを乱してはいけないんでした!」
そう言って食べ始める。
「うわぁ、美味しいですね!裕二さん?早く食べないと麺が伸びますよ?」
そう言われて、俺も食べ始める。
15分後、鈴奈は途中、熟練のクマリアンも真っ青な、天地返しを華麗に繰り出し、スープ迄飲み干して完食していた!
「ご馳走様でした。」
「マジで!!?」
こんな細い身体のどこに、あの量のラーメンが入ったのか、不思議だった。
それを見た、他の客や店員さんも驚きを通りこして、慄きを隠せない。
「あの…?皆さん、どうしたのでしょうか?」
鈴奈が聞いてきたので、「今日、伝説が生まれたんだよ」と答える。
鈴奈は、「伝説?そうなんですか?」と小首を傾げ、不思議そうな顔をしている。
2人して店を出てから、鈴奈に尋ねる。
「本当に大丈夫?お腹痛かったり、気持ち悪くない?」
「確かに、ちょっと食べすぎましたね。でも大丈夫ですよ。」
そう言いながら、鈴奈はニコニコとしている。
念願の初ラーメンに満足している様だ。
しかし、初ラーメンて熊三郎とは、中々業が深いと思うが…。
駅に向かって歩いていると、どこからともなく、大庭さんが現れた。
「お嬢様、お迎え上がりました。」
「大庭?今日は、迎えは要らないって言ったわよ?」
「はい。しかし、奥様から急用の為、戻る様にと。あちらに車を用意してます。」
「判ったわ、裕二さん、大変申し訳ないのですけど…。」
「あ、うん。気をつけて。また連絡する。」
「はい、私からも連絡しますね💕」
そう言って、鈴奈は帰って行った。
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