第8話さて、どうしますかねぇ。上
テレビや新聞は、あの会社の話題で持ちきりだ。
巨額の脱税、資金の着服、そして、例のデー○クラ○。
主犯は大久保になるみたいだが、今井も、大久保を脅して得た金額が、億を超えるらしい。
社長も、大久保のデー○ク○ブで、小○生、中○生を中心に喰いまくっていたらしい。
奴らは当分、出て来れないだろう。
何かあったら、労基法違反と、パワハラで訴えてる程度を考えていたが、思ったよりも大ごとになり、ビビってる。
今回、鈴奈さんがいなかったら、俺が会社の金を横領したとして、逆に捕まっていたらしい。
岩崎 鈴奈、旧四菱財閥である、日本最大のグループ企業、四菱グループ総帥の一人娘。
そんな彼女を、車で撥ねかけた事をキッカケに、彼女に惚れられたらしく、結婚を申し込まれたが、お互いを知る為に、先ずは友人からって、付き合いを始めた。
それにしても、彼女は俺の何処に惚れたんだ?
自慢じゃ無いか、俺は生まれてこの方、一度も彼女がいた事はない。
学生の頃に、女の子に告白した事もあるが、全て玉砕。
女友達はいた事はあるが、大体友人の彼女であり、遊び仲間以上の関係にはならなかった。
ブサイクでは無い!と自分では思うが、イケメン?でも無いと思う。
女の子のお断りの言葉も、『見た目がフツーで、恋愛対象として見れない』だの、『いい人なんだけど、それだけ』、『他にいい人見つかる』だった。
鈴奈さんは、正直言って美少女だ。
黒髪の長い髪は、手入れも行き届いているのか、ツヤツヤとしており、天使の輪もバッチリ。
髪と同じ色の大きな瞳は、クリッとしていて、子犬の様な、愛らしさがある。
清楚の中にも、可愛らしさがある。
アイドルグループにいたら、センターを取れるだろう。
そんな彼女が、俺に一目惚れ?なぜ?
そもそも、あの時なぜ車道から飛び出して来たのか?
俺が徒歩で、彼女がパンでも咥えながら、走って来て、交差点で俺とぶつかると言う、ベタな展開なら、多少なりと納得出来だろう。
というか、例え友人としてでも、四菱のお嬢様と付き合って良いのか?
結局、あのブラックな会社からは、クビの連絡は来ていないが、あの様子では、遠からず倒産となりそうだ。
今の内から、就活を始めた方が良さそうだ。
ぴんほ〜ん。
ん?誰か来たようだ。
「は〜い、今出ますよ〜。」
ドアを開けると、冒涜的で名状し難い、おぞましい化け物が…なんて事は無く、非常に身なりの良い、初老の男性が立っていた。
身なりのは良い、確かに良い。
でもその男性の服装に、違和感を感じる。
男性は、所謂執事服と呼ばれる服装だったのだ。
「失礼致します。こちら、川上 裕二様のご自宅で間違いございませんでしょうか?」
「はい、そうですけど…あなたは?」
「申し遅れました、私は岩崎家家令、セバスチャンと申します。以後お見知りおきを。」
セバスチャンって…思いっきり日本人顔なんだが…。
「本日は、旦那様より、川上様を夕食にご招待したいと承り、お迎えに参りました。」
「はぁ…、そうですか…。でも、なんでですか?岩崎さんとは、確かに友人ですが、知り合ったばかりだし、ましてやそのお父上から、夕食に招待される理由が判りません。」
「旦那様は、鈴奈様が川上様の車の前に飛び出した、今回の事故の件を、直接お詫びしたいと仰せです。」
「お詫びなら、既に鈴奈さんから直接頂きましたよ」
お礼と言うなら、あの会社から俺を救ってくれた事だけで十分だ。
むしろお釣りが来る。
「失礼ですが、川上様。今回の事故で行政処分をお受けになられておりますよね?」
「はぁ、まぁ…。」
確かに、前方不注意と、安全運転義務違反で、免停30日の行政処分をうけていた。
これは、運転する者として、仕方ないと思う。
(実際ぶつかってはいなかったが…)
「お嬢様が、飛び出したせいで、本来であれば、受けなくて良い行政処分を、川上様に受けさせてしまった事に、酷く心を痛められており、直接会って謝罪をしたいと。」
「う〜ん。」
「川上様をお連れ出来ないと、旦那様から罰を受けてしまいます。どうか、ご同行頂けませんでしょうか?」
「だぁぁぁ!!判りましたよ!行けばいいんでしょう!?行きますよ!」
「ありがとうございます。川上様はお優しいですね。お慈悲に感謝いたします。」
セバスチャンは、左胸に手を当てると、お辞儀をする。
実に執事然とした、所作だった。
(まぁ、執事なんて、アニメでしか見たことないけど…。)
しかし、俺は今部屋着である、スエット上下だ。
このまま行く訳にも行くまい。
「着替えるので、少し待ってもらえますか?」
「畏まりました。旦那様は、平服で構わないと仰せです。」
ドアを閉めて、鏡を見る。
髭は今朝剃っているので、そこまで伸びてはいないが、初対面だ。
剃っておいた方が良いだろう。
髭を剃り終わったら、髪も軽くセットした。
第一印象で、悪い印象を与えないよう、清潔感を意識する。
この辺は、営業マンとしての習慣となっていた。
さて、平服で良いと言っていたが、この様な招待を受け、学生ならいざ知らず、社会人が『平服で』と言われ、はいそーですかと、普段着と言うわけにもいかない。
ちゃんとスーツを着る。
幸い、スーツはクリーニングから帰って来たばかりだし、ワイシャツも今朝プレスした物があるので問題ない。
ネクタイは、派手すぎずおとなし目のデザインの物をチョイス。
急いで着替えたが、時計を見ると20分が経っていた。
ヤベッ!待たせ過ぎたか?
「お待たせしま…」
俺はドアを開けて驚いた。
セバスチャンは、先程の位置で直立不動の姿勢のままだったのだ。
直立不動の姿勢、所謂気をつけの姿勢だが、実はかなりキツイ。
背筋を伸ばすと言うのは、背筋に力を入れたままにしないといけない(人間は頭が重いので、気を抜くと軽い猫背になる)、それに、脇を締めると言うのも、上腕に力がかかる。
それに足を閉じている状態と言うのは、意外にバランスが取りづらい。
普通は、2〜3分程で小さい円を描く様にふらつき始めてしまう。
これを抑える為に、肛門をキュッと締め、太もも、ふくらはぎにも軽く力を入れる。
気をつけの姿勢は、本当は辛いのだ。
俺が自衛官時代、駐屯地祭に呼ばれた来賓の内1人が、慣れていなかったらしく、祝辞を述べている間、ずっと直立不動の姿勢のままだった事がある。
祝辞を述べる来賓が、壇上に上がると、部隊指揮官から、「気をつけ」の号令がかかる。普通は、来賓から「どうぞ、楽にして下さい」と言われるので、部隊指揮官が、「休め」の号令をかけるが、その来賓は、慣れていなかったのか、「どうぞ、楽にして下さい」を言わず、祝辞を述べ始めた。
偉い人の話と言うのは、総じて長くなりがちだか、その来賓は、実に20分以上話していた。
最後の方は、整列部隊訳1500人から、殺意のこもった目で見られていた。
長くなったが、気をつけが如何にキツイか、わかって貰えたと思う。
「うわっ!すみません!楽にしてもらって良かったのに!」
俺がそう言うと、セバスチャンは、笑顔浮かべ、「構いません。慣れておりますので。では、参りましょう。」と先導してくれた。
住んでいるアパートの前に行くと、黒塗りの高級外車か停まっており、運転手と思しき男性が、後部ドアを開け、頭を下げる。
俺が乗り込むと、ドアを締めてくれた。
セバスチャンは、助手席に乗るようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます