第6話お嬢様の本気?下

俺が黙っていると、岩崎さんは目からポロポロ涙をこぼし、「本当にごめんなさい。私は貴方の力になりたかったのです。失礼ですが、このままでは、川上さんは、会社をクビになるだけではすみません。上司の大久保は、貴方に無実の罪を着せて、警察に告発するつもりです。川上さんもパワハラや暴力の証拠をお持ちの様ですが、それだけでは、勝てないかも知れません。」


岩崎さんは更に続ける。

「川上さんの会社には、多額の使途不明金が存在します。実際には、大久保と今井に流れています。社長の神林は、大久保に弱みを握られており、大久保は今井に弱みを握られています。実質あの会社は、今井がトップで、大久保と2人でやりたい放題なんです。2人は、その使途不明金を、貴方が横領したとして告発つもりです。」


な、成程、奴ら俺をクビにするだけでは飽き足らず、俺から損害賠償まで毟り取り、社会的に抹殺するつもりだったのか…。


俺は段々と、腹が立ってきて、岩崎さんに尋ねた。

「俺にここ迄話したって事は、社長の弱みや大久保の弱みを、岩崎さんは知ってるって事で良い?」


「はい、証拠も含めて、全て揃っています。ただ大久保達より早く動くひつようがあるので、あまり時間に猶予はありません。後は川上さんが決断して頂ければ、すぐにでも動ける手筈になってます。」


俺は、幾つかの疑問があったので、岩崎さんに聞きてみる事にした。

「わかったよ。幾つか聞いてもいい?」

「構いません。何でしょう?」

「先ず、社長の弱みと大久保の弱みを教えてくれる?」


「はい。先ずは、大久保ですが、彼は未成年の所謂家出少女を、複数囲っていて、そ、その、え、援助交際って言うんですか?その子達と、如何わしい行為をしていて…、その子達に最初の数回、行為の後に、渡すお金を、会社から着服していたようです。」

「は?アイツ妻子持ちだぞ?何やっているんだか…。」


「実は、それだけじゃ無くて、自分が気に入った子以外は、所謂デートクラブ?と言うのを経営していて、そこで売春させています。」

「でも、デー○ク○ブを経営してるなら、会社の金を着服する必要ないんじゃ?」


「○ート○ラブの売上は、最初、全て大久保の懐に入れていたらしく、女の子に渡すお金は、会社から着服したお金の様です。」

大久保のヤツは、タダで援○しまくり、その上、小遣いも稼げている訳か…。

最低だな。


「ん?そう言えば、デートクラブの売上は、最初、全部懐に入れているって言ってだけど…今は違うの?」


「ええ、今井が大久保の着服に気が付き、そこからデートクラブの存在迄調べて、大久保に黙って見逃す代わりに、売上の半分を渡す様に要求したそうです。」


「ふ〜ん。そりゃ美味しい金蔓見つけたなぁ。社長の弱みはなに?」


「大久保のデートクラブは、会員制なんです。社長は、そのデートクラブが大久保の経営だと知らずに入会していて、大久保にバレたと言う事です。更に、大久保のデートクラブにいる女の子は、みんな若いらしくて、上は私ぐらい迄で、下は小学3年生ぐらいだそうです。」

モロ犯罪じゃねーか。(いや、援交している時点で犯罪なんだが…。)


「ありがとう、よくわかったよ。最後の質問だけど、岩崎さんは、なぜ俺にここ迄してくれるの?メリット無いでしょ?」

正直、ここが一番疑問だった。

岩崎さんは、とてつも無く大金持ちだ。

俺が支払える金品なんて、たかがしれているだろう。


「私、事故の際、身体動かしたり、声を出す事は出来なかったんですけど、実はうっすらと意識はあったんです。川上さん以外な人は、遠巻きで見ているだけでした。でも、川上さんは、救急車隊員の方に引き継がれる迄、必死に私に声をかけて下さいました。身体はあちこち痛く、声を出せずに、心細かった。ご自分も、事故を起こしてパニックになっていたのに、迅速に救急車の手配をして、到着迄私を救護して下さいました。私はそれがとても嬉しかったんです。

それに、好きな殿方を助けるのに、理由は必要ですか?」

岩崎さんは、そう答えると、花が綻ぶように笑顔を見せた。


それは、太陽に向かって、大輪の花を咲かせる向日葵の様な、見る者全てを魅了する笑顔だった。

俺は、その笑顔に、ありったけの感謝を込めた笑顔を返し、「わかった。俺に力を貸してくれ!」と頭を下げた。


岩崎さんは慌て、「い、いけません!男性が軽々しく頭を下げては…。頭をお上げ下さい!」

俺が頭を、上げると、岩崎さんは静かに頷き、「はい、お任せください♪四菱に不可能は…少ししかありません。」


「少しあるのかよ。」


「ええ。川上さんに心から愛して頂く事は、いかに四菱の力をもってしても、不可能ですから。」

俺達はお互いの、顔を見合わせて、小さく笑った。


その後、岩崎さんは何処かに電話をかけ、「私です、ええ。着手して下さい。」と言った。

既に手筈は整っていると言っていたので、最後のGOサインを出したのであろう。

俺は、ドラマとかで、こんなシーンあったな。

数日のワイドショーが楽しみだと思っていた。


結果から言うと、俺の予想は大きく外れた。

大久保達の逮捕のニュースは、その日の夕方のニュース出たのだ。


そう、既に警察及び、労働基準監督署員、国税局、マスコミが待機しており、彼女のGOサインひとつで、一斉に踏み込む手筈となっていた。


たった1日で、ここ迄調べ、手筈を整えられる彼女に、俺は渇いた笑いをするしかなかった。

マジ、容赦ねぇ。

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