第7話 かくしておっさんと弟子は答えを導く
アレクも加わり、王都での調査は捗った。
アレクの人当たりの良さは、そもそもロビンたちが王都に来る前から王都の市民コミュニティの中に一角の地位を確立しており、それも調査の助けとなったのはいうまでもない。
そうこうしているうちにあっという間の1週間が過ぎた。
「さて、これでとりあえず終わりだ」
「うーーーーーん、はぁ……長かったです………!」
ユナはグッと伸びをする。
王都8日目の夜。
ロビン、ユナ、アレクの3人は資料をわかりやすく紙に書いてまとめていた。
「結構楽しかったけど、作業自体は恐ろしく地味で暇だったな」
「まあな」
まあ基本的には
一日中定位置で観察。
帰ってきてからは統計。
その繰り返しだったのだから、全員同じ思いであった。
「でも、アレク。本当にありがとうございました」
「いやいいってことよ、ユナも縁があったらうちの森に来るといい。いい訓練になるぞ」
「ぜ、善処します………」
この7日間ですっかり打ち解けた2人。
なお、両方とも未婚である。
はたから見ればベストカップルのように思えるのだが、残念ながらユナには心に決めた相手がいる。
かつアレクもなんやかんやで女にはあまり興味がない。
まあなんというか、「出会う世界線が違ったらあるいは……」という、ちょっと最近の恋愛ソングにありそうな関係だった。
なお、歌の文化については、100年ほど前、カノヤという男が「ジェイ・ポップ」、タハラという女が「ケイ・ポップ」というジャンルの歌を作り、爆発的なヒットをしたという。
今もその系統を組んだ歌が数多く作られている。
「それじゃ、帰るとするか。アレク、ありがとな」
「ありがとうございました」
一晩過ごすともう一回宿代を払わねばならなくなるので、夜だが出発する。
見送りにきたアレクに2人は礼を言った。
「そうだな、おっさん。ちょいと険しい道のりになるだろうけど頑張ってな」
ロビンは笑って、軽くうなずく。
「ああ。お前もちゃんと森を守るんだぞ」
「そだ、あとユナも頑張れよ! 相手がいくら鈍感でも最後まで粘ればちゃんと伝わるぞ!」
「なっ……!」
ユナの顔がボッと赤くなる。
「余計なことは言わなくていいんです!」
「はいはい、じゃあな!」
「もう………」
2人は馬車に乗った。
「気付かれちゃったらどうするんですか……」となんとなく気持ちと矛盾する独り言をブツブツと赤面しながら呟くユナを見て、ロビンはハッと気付いた。
「ユナ、まさか………」
「えっ、あっ、あ、あのアレはですね……そ、そのアレクが勝手に言っただけで……い、いえ、その、別になんでもないんです! き、気にしな………」
「アレクのことが好きなのか?」
「こぉんの鈍感野郎がぁぁぁぁああ!」
ユナの叫び声は長く夜の王都郊外に響いた。
……………
二泊三日の旅(帰り)を終え、約2週間ぶりのフェーレンである。
「すぅーーーーーはぁーーーー………フェーレンの空気は美味しいですね!」
「いやどこも変わらんだろ」
「気分の問題ですよ!」
馬車から降りた2人は、とりあえずそれぞれの荷を片付けるために一旦それぞれの家に。
その後再びロビンの家に集合した。
「さて、ポストにオーランドからの手紙が届いていた。多分テルセト商会のデータだ」
「とりあえず見てみますか」
封筒を開けて中身を見ると、とても綺麗にまとめられたデータがあった。
「おお! 見やすい!」
「こういう気配りを忘れないんだよなあ」
「じゃあ私たちのデータと照合しましょう」
そう言って、ユナはまとめられたデータを壁に貼りだしてゆく。
「さて、まずポーション作成組合の馬車の内訳はどうなってたっけ?」
「ええと、テルセト商会から来た荷は約一週間で馬車約35台分です。そのうち嗜好品は約7台です。嗜好品は特別な税がかかるので、だいたい把握できました」
一週間に馬車7台分の嗜好品というと、物凄い量である。
随分な贅沢をしているものだと、ロビンは思う。
「続いてテルセト商会に入っていく馬車は一週間に約139台、1日約17台だそうです。
なお、内訳はソルリアから2台、オーステンから3台、ストルグレアから2台、ユーグから3台、リトレイアから4台、リングルから2台、フェーレンから1台、だそうです」
ソルリアは紡績業が盛んな町である。
これはおそらく糸や衣類等の布製品を仕入れているのだろう。
オーステンは鉄鋼業が有名である。
ドワーフの住む里が近いため、彼らに酒や食料、そして鍛冶場を提供することでかわりに武器や防具を生産してもらっている。
おそらくはその類のものが運ばれているのだろう。
ストルグレアは漁業、及び水産加工で知られる。
傷みにくい海産物と干物が仕入れられているはずである。
ユーグは、山林、農村地帯だ。
つまり、山のものと農産物とみていい。
リトレイアはリトレイア大迷宮がある。
大迷宮からの産物を仕入れているとみて間違いない。
リンガルは牧畜が盛んだ。
肉や牛乳が送られてきているのだろう。
そしてフェーレン。
「ん? フェーレン? ここってなんか取れたっけ?」
「い、いえ……フェーレンは何も………。
確か「引退後に住みたい町ランキング」第一位は取っていますけど……」
「………そんなランキングあったのか」
なお「特にこれといって特徴のない町ランキング」の第一位もフェーレンである。
「フェーレンのどこから、テルセト商会は仕入れてるんだ?」
「ええと、それは分かってません」
流石にアストルテの中のことであればほとんどのことはわかるオーランドでもフェーレンの中までは見通すことは難しいだろう。
多分手を回せばできないことはないはずだが、彼もそんなに暇な人間ではないのだ。
「まあそうだろうな。にしても」
さすがアストルテの1、2を争うとはよく言ったものだ。
ターナー商会の情報力と、テルセト商会の扱う商品の一流さに感心する。
綿密に調べられたデータ、それを綺麗にまとめ上げる抜かりなさ。
オーランド自身がやったわけでなくとも、ちゃんと部下の教育ができているという証である。
そしてテルセト商会の仕入れ先は、全てその分野のトップを誇る町だ。
王国御用達とはいえ、ここまで仕入れ先を厳選しているというのはなかなかどうして素晴らしい。
ポーションの研究をしているはずなのに、何故か大商会のすごさに舌を巻くこととなったロビンとユナであった。
……………
「まあここまで来たらあとは簡単だな」
「そうですね」
というわけで、2人はフェーレンの門に来ていた。
「おっ、ロビンさんじゃあないか!」
ロビンはこの町の門番とも知り合いである。
「ケイネス! しっかり見張ってるか!」
「ええ! もちろん!」
この町でロビンを知らない者はいない。
ロビンの人当たりの良さと、真面目な勤務態度、老若男女問わず優しく接する姿はなんなら町の人の尊敬を集めているほどだ。
ロビンが町の酒場に行こうものなら、どこかしこからも、一緒に飲もうぜ、と声がかかるのだった。
「それでちょいと教えて欲しいんだが、この町からアストルテに向かう馬車あるだろ? あれってどこの馬車なんだ?」
「そんなこと聞いて何になるんだ? まあいいか。フェーレンからアストルテに向かう馬車だろ?」
「そうだ」
門番ケイネスは疑問を持ちつつも答える。
「それならここの冒険者ギルドから出てるぞ」
「「冒険者ギルド!?」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます