第6話 かくしておっさんの弟子は戦う
「はっ! せいっ! やっ! はっ! ふっ!」
「ほい、ほい、ほい、ほい、ほいっとぉ!」
ユナの気合とともに出される暗殺術を華麗にかわす男。
お互いなんらかの対策をしているため周りから見えることはないが、声の呑気さに対して物凄い一幕となっていた。
「うぉっ! これは暗殺術か、しかもSクラス! これで完全に雇われ確定か? 野良でこんなスキル持ってる奴少なくとも俺は知らねぇな!」
ユナの鋭い心臓への一突きを体を逸らして紙一重でかわしながら、男は自分の考察を述べる。
自信満々に言っているのに外しているのがなんとなく残念だが、ユナやロビンのような馬鹿げた例外を省けば、基本的にこの考察が普通である。
「なんで避けられるんですか!?」
思わずユナも口を開く。
「おっ、初めて口聞いたな! 答えはシンプル、当たったら死ぬからだ!」
「答えになってません!」
若干、いやだいぶずれた答えを返してくる男に、ユナは「なんでやねん!」と言うような感じで、旧ラグナ一帯で流行っている「マンザイ」のツッコミのように拳を叩き込む。
「………うーん、まあ別にバレても対策なんかできねえしな。これはな、心眼ってスキルだ。ま、言っちまえば、ある程度心が読めるってスキルだな。
ユナは驚きに目を見開く。
相手の心が読めるスキルなど、出会ったことがない。
今までメンタリストみたいなものに出会ったことはあるが、スキルとして相手の心を読める相手と対峙したのは初めてだった。
どう対処すればいいんですか!?
ユナはなんとか平静を装う。
が、その焦りは充分男にも
「ダメだぜ、焦っちゃ。ちゃんと落ち着いて考えねえと」
「くっ……どうすれば………っ!」
ユナは考える。
そもそもどこまで考えが読めるかがわからない。
幸い攻撃してくる予感はない。
少し試してみようと、ユナは一瞬距離をとり、食べ物についてユナは考えた。
「ん? なんだ急に………思考が変わって……何を考えてんだ?」
なるほど、どうやら考えてることの内容まで完全には把握できないようだ。
ならば、とユナは懐から100本のナイフを取り出す。
「ん? それを上に投げるのか? たしかにナイフに意思は宿らねえから俺は把握できないけど、お前の心を読めば大体のことは分かる。そんな対策を立ててきた奴もいたけどな、ナイフが俺に当たりそうになるとついつい意識しちまうのが人間なんだよなぁ!」
「それはどうでしょう!」
ユナはナイフを空に思い切り高く投げた。
「届け………っ!」
そして素早く攻撃に移る。
今までにない苛烈さで男に攻撃を放った。
「うおっ! まさかナイフを見ないつもりか? お前も当たったら死ぬんだぞ!?」
「それくらい覚悟してます!」
「ちっ! 捨て身か!」
心臓、喉、首、頚椎、顎、眉間、鳩尾と人体急所を狙いすまし、激しい突きを放つ。
「上を見るわけにもいかねぇし、めんどいな! 俺がこの位置にずっといるってわけでもねぇのによっ!」
男はナイフの落下を避けるべく、思い切りその場から離れる。
ユナもそれに合わせて後ろに下がった。
ズダダダダダダ、とナイフが地面に突き刺さる。
往来の人々に当たらないように人よけをかけておいてよかった、とユナは安堵した。
「ま、なかなか面白かったけど、これでネタ切れじゃねえか? そろそろ諦めたらどうだ?」
「いえ、諦めるのはそちらです」
男はやれやれ、といったように首をすくめる。
「はぁ……女相手に使いたくはなかったんだけど、使うしか………っ!?」
急激に気配察知の範囲内に入ってくる存在を認識し、男は振り返る。
「大丈夫か! ユナ!」
「もう、遅いですロビンさん!」
………………
「あはははははっ! あれからどうしてるかなと思ってたら、おっさん、そんなことしてたのか!」
「まあでかい声では言えないんだけどな!」
そしてその夜、酒場でロビンと男は盛り上がっていた。
「もう、なんなんですか! アレクさんもロビンさんの弟子だって知ってれば、あんな面倒なことにはならなかったのに……っ!」
「まあまあいいじゃねえか! ユナちゃんだっけ? どっちも死ななかったわけだし!」
「ちゃん付けで呼ぶくらいならユナで結構ですっ! 私の捨て身の攻撃は何処へ………」
ユナが嘆く。
あれほど健闘したというのに、その全てが無駄だったと知ってしまうと損した気分になる。
実際1日分の調査を丸ごと損してるのだ。
「いやーでもなかなか考えたじゃねえか! ナイフを投げて、おっさんに危機を伝えるなんてな! ただの捨て身の攻撃じゃなく、二段階の仕掛けだったとは恐れ入ったぜ」
ロビンの空間把握というスキルは一定の空間全体の動きを把握することができるというスキルだ。
しかもSランクともなればその範囲は町全体を完全に捉えることができる。
しかしこの時点では、ユナとアレクが戦っていても、どこかで戦闘が起こっている、とまでしか分からない。
そこで、ユナは100本の投げナイフの内一本のナイフをロビンに向けて投げることでロビンに自分の危機を伝えたのだった。
「にしてもポーションとはねえ、また訳の分からんものを………」
「いや、あの不味さはお前も分かるだろ?」
「わかるけどよ、それが普通なんじゃねえのか?」
ロビンの同意を求める声に対し、アレクは肯定しつつも反論する。
それを見てユナは思わずこう言ってしまった。
「なんとなく同じ括りで見てましたけど、アレクさんてまとも側の人なんですね」
「まとも側ってなんだよ………しかも同じ括りって」
「ほら、なんか私のスキルとか全然通じてないし、なんとなくロビンさん側の人に見えたんですよ!」
「そういうことかあ! いや、俺は全然まともだよ?」
「そうでしたね、ほんと勘違いしてごめんなさい!」
どうやら2人は打ち解けたようだ。
2人の笑い声が聞こえる。
平和な夜だ。
「俺もまともだからな!」
そんなおっさんの叫びは、酒場の喧騒に飲まれて消えていった。
……………
翌朝。
「さて、改めて紹介するぞ。俺の元弟子、アレックスだ。そしてこっちは俺の元弟子、ユナだ。両方とも仲良くしてくれよ」
「アレックスだ。よろしく!」
「ユナです。よろしくお願いします」
アレクとユナはお互いに頭を下げ、改めて挨拶をした。
「ところでアレクさんはどんな職業を?」
「アレクでいいよ。どうして知りたいの?」
「いえ、私の気配遮断と隠密が通用しなかったので、ちょっと気になって………」
ユナは昨日からの疑問をぶつける。
気配遮断と隠密にはそれなりの自信があったからこそ、どういう理由で破られたのか知りたかった。
とはいえステータスを見せろ、と知り合ったばかりの人に会えるわけもなく、職業を聞く、というところに収まった。
「ああ、そういうことね。俺の職業は狩人だ。って言われてもピンとこないか。ステータス見る?」
「えっ、いいんですか?」
「うん。〈ステータスオープン〉」
――――――――――――――――――――――――――――――――
アレックス・ミストルテ 29歳 男
HP485/485
MP195/195
筋力:98
知力:38
素早さ:180
敏捷:128
防御:65
魔防:23
運:78
スキル:弓術S レベルMAX 加速A+ レベルMAX
感覚強化A レベルMAX 立体機動A++ レベルMAX
遠視S レベルMAX 心眼(地)A レベルMAX
護身術A レベルMAX 俯瞰A レベルMAX
気配遮断S レベルMAX 風魔法BレベルMAX
並列思考A レベルMAX 逃走C レベル4/10
気配遮断(狩)S レベルMAX
――――――――――――――――――――――――――――――――
「ユナの気配遮断が効かなかったのは俯瞰のせいだな。俯瞰はまあ、第三の目が上からの視点から俺に情報を渡してくるスキルだ。
「そうなんですか……」
「ちなみに気配遮断(狩)は俺くらいの狩人なら誰でも持ってるスキルだ。普通の気配遮断よりも数ランク効果が高い」
見たこともないスキルで戸惑うユナ。
しかし、そこに列挙されたスキルはたしかに狩人に必要な類いのものばかりであった。
だが、全体的に高レベルにまとまっており、多分対人戦でも強いと思われる。
「てか、アレク! なんか知らねえスキル増えてんじゃねえか、なんだよこれ!」
「実戦で使ってるとなんか増えてくるんですよ、うちの森まじやべえわ」
「そうなのか。ところで、アレク」
ロビンが本題に入る。
「俺たちのポーション改善活動に参加してくれないか?」
「うーん、ちょっと今はうちの実家が忙しいからまだ無理だけど、でもまあ王都にいる間だけなら大丈夫だぜ」
「わかった、それで頼む」
こうして、ロビンたちは人手を手に入れた。
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