第4話 かくしておっさんは王都へ向かう


「さて、ユナ女史。今回の議題はなんだったかな?」


「はい、先生。今回はポーションの材料とその仕入れルートをいかにして知るか、という議題です」


 アストルテでオーランドの話を聞いた日の翌日、再びロビンの家に集まった2人は、話し合いをしていた。


「それで、だ。ちょっと最近冴えが戻ってきた俺の頭が言ってるんだがな、テルセト商会はその材料をどこから手に入れてるんだろうな?」


 ちょっとボケていたことはロビンも自分で認識していたようだ。

 そのなかなか的を得た発想に、思わず感心してユナは手を打った。


「たしかに! どんどん元をたどっていけばいつかは材料に行き着きますね!」


「そうだろ? それでだ。今回のプランは……こう!」


 そういうとロビンはどこからともなく、「今後のプラン」と書かれた、プランの手順が書いてある大きな紙を取り出した。


 なお、紙とは300年ほど前にオノダという男が発明し、瞬く間に普及した木を原料とする超便利アイテムである。


 そして、それを指差しながら


「1、とりあえずアストルテにおける1週間の物資の流れを調査してもらう。

 これはもう手配はオーランドにしてもらってあるからな」


「い、いつの間に……?」


「最後に商品買ったときに、ちょっとな」


 ユナはロビンの手回しの良さに感嘆する。

 ここ最近ロビンになかった冴えが、そこにあった。


「2、もうひとつ、ポーション作成組合にへの物資の流れについても調べる。

 これについてはまあ考えがある。


 んで、3。二つのデータを照合して、大まかでもテルセト商会にポーションの材料をおろしてるところを割り出す」


「なんか不安なんですけど……」


 最後に浮かべたロビンのいたずらっ子のような笑みに思わずユナは身の危険を感じた。

 性欲的な身の危険であればまあまだ歓迎できるのだが、明らかにそれとは違うものだった。


「それで、実際私たちはこれからなにをするんですか?」


「そうだな。まずは……王都に行くぞ!」


「ええっ!?」



 ……………



 フェーレンも含む主要都市がある王国中心部には、王都も存在する。

 つまりフェーレンから王都までたいした時間はかからないということだ。


 ロビンほどの冒険者ともなれば6時間半ほど歩けばたどり着く。とはいえ、そう急くこともないので今回は王都に向かう馬車に乗ることにした。

 貸切で。


「なんかお金の使い方荒くなってません?」


「そんなことないぞ」


 昔のロビンだったら勿体無いからと、乗合馬車に乗っていたような気がする。と、ユナは思った。


 まあ実際、ロビンの金遣いは荒くなっている。


 貯金の管理もギルドにしてもらっていたロビンは自分の稼ぎがどれほどのものか知らなかった。

 それ故に昔から努めて節制していたので、ロビンの貯蓄はまだまだ有り余っているのだ。

 今回ギルドをやめるということで、久方ぶりに貯金額を確認したところ、予想以上にたくさん貯蓄があって浮かれてしまったのだ。

 浮かれてしまったロビンを誰も責めることはできないだろう。


「お客さん、出発しますよ!」


「「お願いしまーす」」



 ……………



 ガラガラと馬車は音を立てて進む。

 旅の行程は途中2つの村に寄る二泊三日コースとなっている。


 まあ馬車の中は特にやることもないので、ロビンは適当に話題を見つけて話し始めた。


「ところでユナはどれくらい強くなったんだ?」


「むふふ。待っていましたよロビンさん! 見てください! 〈ステータスオープン〉!」


 ユナはステータスの一部を俺に開示してきた。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――


 ユナ・オルセン ??歳 女


 HP250/250

 MP128/128


 筋力:??

 知力:68

 素早さ:92

 敏捷:86

 防御:??

 魔防:56

 運:35



 スキル:隠密A+ レベル7/10 投石B+ レベルMAX

 加速A レベル6/10 気配察知A レベルMAX

 気配遮断A レベル8/10

 暗殺術(対魔物)S レベル5/10

 暗殺術(対?)S レベルMAX 追跡B+ レベル8/10

 格闘技C++ レベルMAX 水魔法D レベル2/10


「『〈[【料理】]〉』」“““S””” ☆レベルMAX☆


 # 家事 \\\S/// →→レベルMAX←←


 ****花嫁**** ^^S^^ !!レベルMAX!!


 ――――――――――――――――――――――――――――――――



「おおー! 暗殺術がどっちもSランクとは、成長したなあ!」


「そ、こ、じゃ、ねぇぇぇええええ! もっと見るべきところがあるでしょう!?」


「ん? 見るべきところ………?」


 ロビンは再びユナのステータスを見直す。

 ところどころ何故隠すのかわからないステータスが??で表されていて、後半の方のスキルが随分と変な表記になっているようにしか見えない。


「なんか変なステータス表記がところどころあるけど大丈夫なのか?」


「そこです! さあそこをよく見て!」


「………ユナは25歳だろ? 隠す必要あるのか?」


「ガッデム!」


 ユナは思わず頭を抱える。

 ここまであからさまにしたら、流石に超絶鈍感ヘタレ難聴系主人公のロビンでも気付かざるを得ないと思ったのだが、そんな彼女の考えは甘かった。


「??」


 ちなみに今回のロビンは単純にユナに気を遣っているつもりである。


 あの昔からステータスを見せたがらなかったユナが、自らステータスを開いている……だと!? どれくらい強くなったかって聞いてそんな自慢げってことは、絶対戦闘系の何かに自信があるんだな! よし、これは褒めてやったら喜ぶだろうな!


 そんなことを考えていた。

 見事にズレているのがロビンという男だった。



 ……………



 そして旅に出てから3日目。

 ようやく王都にたどり着いた。


「ひさびさの王都……いつ来てもでかいなあ!」


「そうですね!」


 王都の門で衛兵に身分証を提示し、門をくぐり抜ける。

 王都は活気に満ちていた。

 歩く人の量も商業都市アストルテと同じかそれ以上といったところか。


「実際アストルテとどっちの方が人口多いんでしょう?」


「まあ、活気自体はアストルテの方があるというか、あそこはシーズンが来ると前に進めないくらいごった返すからな。だが人口は、と言われると多分王都の方が多いんじゃないか? というか、多分人口最大は隣のミラルクスだと思うぞ」


 王都は基本的に地価が高い。

 だが王都には様々な商会やギルド、専門店の本部があり、やはり付近に住むことは必須である。

 そういった背景を利用して、王都のベッドタウンとして発展していったのが王都の隣に位置するミラルクスという町である。


「さて、とりあえず宿は予約してある。ただ……」


「ただ………?」


 そこでロビンはいいよどむ。

 ユナは怪訝そうにロビンの顔を見て、続きを促した。


「その、時期的な問題で2部屋取れなかった!すまん!俺と同室になってしま………」


「大・歓・迎です!」


 乙女の声が賑やかな王都の喧騒の中、響き渡ったという。

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