文語文法おそるるなかれ
高校の授業に〈現国・古文・漢文〉があった。
大学受験に必要だから仕方なく勉強したが、なぜ使いもしない古文や漢文を…と反発さえしたことを思い出す。
そして今、古希すぎて短歌を詠むたび後悔している。
机の上には、たくさんの短歌入門書のほかに、文語文法の参考書が四冊も並ぶ。
本屋で目にする参考書のキャッチーなタイトルにひかれて買ってしまうからである。
「受験生の頃から何も進歩がない」と思いつつも…。
作歌する際に辞書的に使う参考書として次の二冊が便利だ。何度も同じ個所を調べるため、開き癖がついてしまった。最近は使用頻度が減ったものの、念のため開くので欠かせない。
『短歌のための文語文法入門』今野寿美・角川学芸出版
『自然と身につく名歌で学ぶ文語文法』橋本喜典・角川書店
教科書のような体系的かつ系統的学習に便利である。
新版と言っても初版発行が1994年で、手元にあるものは2016年発行の8刷。
『短歌文法入門(新版)』飯塚書店編集部・飯塚書店
何度も通読するというより、目次から必要な個所を探したり、適当に開いた個所を読んだり、という使い方をしているのが此れである。
『短歌の文法 歌あそび言葉あそびのススメ』藤井常世・NHK出版
冒頭の『はじめに言葉がある』で藤井は語る。
「忘れられない〈事件〉がある。大学の一、二年はいわゆる教養課程だが、そこで〈国語〉だったか〈古文〉という時間だったか、その一時間目に教授が全員に紙を配り、その場で〈五十音〉を書いてみよ、と言われた。〈国語〉や〈古文〉というと中学や高校の国語の時間みたいだが、そこは大学の授業だ、もっと高度な内容だろうと期待していたら、いきなり〈五十音〉である。誰もが小学校に入ったとき、壁に貼ってあった〈あいうえお〉の五十音図を思い出していた。「えーっ」と言いながらこんなもの簡単簡単、とばかり書いて提出した。私も含めてほとんどの者がバツだった。いまの小学校はどう教えるか知らないが、第二次大戦後、新制になった一年目の一年生が大学生になったときである。頭に思い浮かべた五十音図は、や行が〈や、ゆ、よ〉であり、わ行は〈わ、ゐ、ゑ、を〉であった」
「じつは五十音のや行は〈やいゆえよ〉、わ行は〈わゐうゑを〉ときちんと五音あることを示さなければならない。新かな遣いでは、や行の〈い〉と〈え〉、わ行の〈う〉は、あ行と同じ音なので不要かもしれないが、語には、や行、わ行の言葉があり、活用するには五音(文語では四音)が必要である。これから言葉を、文語も口語も学ぼうとする諸君は正しい五十音を知っていなければならない、というのが教授の最初の教えだった」
ここからが、私の本当に引用したかった件である。
「そのことはじつに心にしみたのだった。私はその後しばらくして、それまで新かな遣いで歌っていたものを、歴史的かな遣いに改めた。短歌の言葉に心をこめようとすると、単に〈ゐ〉や〈ゑ〉という文字を使うだけではないのだという、旧仮名遣いの意味が分かったような気がしたからである」
御意!
短歌を詠むときにかぎらず、エッセイを書く時も古語を交えると風情があってよろしかろう。
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