第20話 ダンジョン攻略者

「いやあ、二人とも本当に強いよ。ラナさんなんか、大人げもなく魔法を使ってしまったけど、それがなきゃ僕が負けてただろうね」


 手合わせを終えたシュタットが軽く汗をかいて、爽やかにそう宣った。は? それは魔法を使わなくて楽に勝てた俺への当てつけか? こいつマジで許さんぞ。俺の絶許リストに入れるぞ。サーレリちゃんのパパじゃなきゃ既に入れてたからな。


「僕からの二人への評価だけど、正直あまりうまいことは言えないかな。僕は魔法を主な武器としているから、体術に関しては門外漢なんだ。だから専門的な内容は教えられない。素人評価でいいなら、二人は及第点に達していると思う。言えるのはそれくらいかな」


 俺はこんな奴に負けたのかよ。マジで心傷の俺の傷を抉ってくるじゃん。容赦なさすぎだろ。もう一周回りすぎて感心しちゃうレベルだよ。皮肉業前だよ。


「パパ、それならこの二人はどのくらいの強さだったの?」

「そうだね。僕の個人的な所感だけど、ライルくんが銀級三位から四位、ラナさんが二位ってとこだろうね。俗に言う中級ダンジョン踏破レベルの強さだ。二人とも、独学の9歳児ってことは考えたら異常だよ。天才だと思ってるサーレリですら銅級二位か三位相当なんだからね」


 だから銀級三位って何? その強さのランクってどれだけ凄いの? 常識みたいに言われてもそれ全然常識じゃないから。当たり前に使うのやめてくれよ。


「その銀級? とか三位や二位って、どれくらい凄いんですか?」


 よくぞ聞いてくれたラナさん。俺もそれが気になっていた。自分で聞けって思うが、俺はこいつ嫌いなんだ。大人のくせに子供の俺を負かすし、魔法を使えるイケメンだしな。好きになれる要素がサーレリちゃんのパパってのと、人当たりくらいしかねえよ。充分だわ。


「二人は知らなかったかな? ダンジョンの攻略者には、所属する協会から実力や実績に応じて階級が与えられるんだよ。銀級もその一つなんだ」


 シュタットの説明によると、ダンジョン攻略者の階級は下から、木級、鉄級、銅級、銀級、金級、白金級、虹級と分かれているらしい。その級の中で更に一位、二位、三位、四位とあるそうだ。ただ鉄級は二位、銅級は三位までであり、木級と虹級は位級なしとなってるようだ。


「その攻略者ランクに対応するように、ダンジョンのレベルも決まっているんだよ」


 ダンジョンにはその難易度に応じて、1~19のレベルが定められている。そして下から無級、初級、下級、中級、上級、特級、超級となるそうだ。この級は攻略者ランクと対応してて、レベル1の無級を踏破できたら鉄級二位。レベル2の初級なら鉄級一位。レベル3の初級なら銅級三位となる。木級は一応あるだけで、実質級が無いのと一緒らしい。無級ダンジョンというのは、大人なら誰でも踏破できるそうだ。俺の銀級三位だか四位って評価は、レベル7の中級ダンジョンを踏破できるくらいの強さだそうだ。


「でもダンジョンっていうのは基本的にパーティー、複数人で攻略するものだから、一概にランク通りの実力があるとは言えないけどね」


 要は俺と銀級三位の攻略者が戦った場合、そいつが寄生野郎なら俺の圧勝。そうでないなら俺と同等と言えるくらいらしい。そして俺と同じくらいの奴が複数人いて、ダンジョンを踏破できるみたい。なんかその辺は割と適当なようだ。でも中級から上級に上がるような、階級の境目にはその者の実力を測る試験があって、寄生野郎はそれより上には行けず弾かれることになるという。当然だな。その試験の内容であるが、金級四位になるためには、その一つ下の適正レベルのダンジョンをソロで踏破する必要があるそうだ。つまりは中級で最難関のレベル10ダンジョンを一人でクリアする。結構厳しくねって思ったら、レベル10の中でも比較的緩めなのが選ばれるのが普通らしい。協会の試験管次第では、実質上級レベルのダンジョンが選ばれることもあるが、この辺は割と運だという。中級くらい一人で踏破できなきゃ、上級ではやっていけないようだ。


「攻略者ランクとダンジョンレベルの関係はそんな所かな」


 そう言ってシュタットは語りをやめた。こいつは気に入らないが、俺のために色々教えてくれるのは感謝してもいい。干し果物も美味かったしな。


「それじゃあ、そのランクっていうのが足りないと、上のダンジョンに入れないこともあるんですか?」


 俺が少しだけシュタットの評価を上げていると、ラナがあることに気づいて質問した。目の付け所がいいな。俺は気づかなかったぞ。え? ダンジョン入るには、そのランク上げんといかんの?


「その通りだよ。攻略者は基本的に、その適正ランクの上二つから下五つまでの攻略しか認められていないからね。僕が中級なのに上級ダンジョンには入れたのは、それが理由なんだよ」


 嘘だろ。じゃあ俺が特級ダンジョンに入るには、その試験とやらを受けて地道にランクを上げんといかんのか。ってかそれ以前に、貴族の関係者にならなきゃ無理なんだった。世知辛すぎる。


「なら宿魔の実が手に入るレベルのダンジョンはいくつからですか?」

「それは中級からだね。でも中級は人が多いから、滅多に手に入ることはないよ。手に入れても質は低いしね。宿魔の実を狙うなら上級からがいいよ。二人の実力ならそれくらい、普通に手に入るようになると思うから」


 上級じゃなくて特級に入りたいんだよね俺は。でも宿魔の実も食べてみたい。あれどんな味がするんだろ。たくさん手に入れて色んな食べ方を試したい。


「まあ、ダンジョンに入らなくても、宿魔の実を手に入れる方法はあるけどね」


 俺はその一言に気持ち顔を上げた。


「それって、買うのとは違うんですか?」

「そうだよ。ダンジョンでしか採れないとされている宿魔の実だけど、実は地上でも手に入る場所があるんだ。それがどこか分かるかい?」


 勿体ぶらずに教えろって思うが、俺はその言葉でピンとくるものがあった。それにラナも気づいた。


「もしかして、魔境ですか?」

「正解。その通りだよ」


 魔境。それはダンジョンの魔物が現体化し、それが止められることなく延々と続いた結果、地上に出来上がった魔獣の楽園のことだ。魔獣とは現体化が安定し、地上で生態を築けるようになった魔物のことだ。世界には俺たちが住むこの大陸以外にも陸地が存在している。その大陸の一つが、完全な魔境になっていると授業で習った。その地は魔境大陸と言うらしい。確かにそこなら宿魔の実が手に入ってもおかしくない。


「実際この国でも海外に実力者を派遣して、その地の貴重な素材を入手しようと、王家や五大貴族が主導で動いてるよ。魔境大陸は人類がまともに入植できていない地だからね。各国の拠点はあるらしいけど、そこはどこの国の国土でもないとされているからさ」


 魔境は大陸丸ごと魔物の住処となっているらしく、そこを開拓できた勢力は歴史上存在しないらしい。何度か試みられて、いい感じになった時もあったらしいが、人類が勢力を広げると、奥地からは大量の魔物が押し寄せてくるらしい。短期的には魔物の群れの撃退が可能でも、長期となると上手くはいかないそうなのだ。この国でもなんとか実力者を送って開拓しようとしたが、その度に他国から攻められることもあって、結局失敗することになったと授業で教わった。

 あとなんか幻獣もその地にはいっぱいいるらしい。主なのだと、ドラゴンとか巨陸魚とか天角獣とかだ。どれも俺は見たことないが、すごく強くてどっかで信仰対象になってるようなやつらだ。そんな幻獣どもにとって、魔境大陸は居心地が良いらしく、世界中から集まっているらしい。わけわからんって俺は思った。


「でもそこに行くのは絶対にオススメしない。ダンジョンと違って途轍もなく危険だからね」

「幻獣がいるからですか?」

「それもあるけど違う。魔境大陸が危険なのは、出現する魔物に制限がないからだよ」


 ラナはそれを聞いて首を傾げる。俺は解ったけどね。ほんとに。


「ダンジョンには、そのダンジョンのレベルに合った魔物しか出ない。でも魔境大陸は、色んな難易度のダンジョンから魔物が溢れ出してる状態だ。ここまで言えば分かるかな?」

「あっ、特級や超級の魔物も、当たり前に出るってことですか?」

「その通り。一流の実力者すら難なく殺せる超強力な魔物が、ダンジョンという枠から外れて大陸中を闊歩しているんだ。そんなのと探索中に遭遇したら、生きて帰れる確率はほぼゼロになる。それが例え金級の攻略者でもね。だから少なくとも、特級の魔物を問題なく倒せる実力がなきゃ、行くべきではないと僕は思うよ」


 行くのはほぼほぼ自殺行為ってことね。ならなんでそんな所行くんだろ。人生に暇してんのかな。俺は行くけど。だって世界最強になるから。


「それなのに国は人を送るんですか?」

「まあね。ダンジョンで半永久的に素材が取れると言っても、それには当然限りがある。僕はさっき、百人くらい白金級相当の実力者がこの国にいるって言ったけど、現状は謂わばその人材が余ってる状況なんだ。他国への抑止力とダンジョンの安定管理以外の強者は、魔物狩りや素材集めのために魔境大陸に送られてるんだよ。これは王家や五大貴族問わずだね。常に十人以上は、向こうに常駐してるって聞いたことがあるよ」


 幻獣や超級の魔物が出る土地に送られるって、それ実質流刑じゃん。国有数の実力者になってその扱いって、酷すぎるだろ。頭おかしいな貴族。俺は貴族と関わらんとこ。でもこの国でもそんなもんか。他の国は魔境大陸完全放置なんかな。いや、でも確か他にも人の住む大陸あったな。そこから来てるのか。

 俺が一人納得していると、色々教えてくれたシュタットが話を締めくくる。


「まあ、そんな遠い大陸の話より、今は身近なダンジョンの話だね。僕個人としては、村に中級くらいのダンジョンができるのは、運動のためにも有難いけどね」


 そんなちょっと冗談っぽく言った発言で、シュタットのダンジョン説明会は終わった。

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