第21話 偉い貴族がやってくる
この村にお貴族様が来ることになった。それもただの貴族じゃない。五大貴族の係累だそうだ。
この村はパウストン子爵領に属している。つまり俺の住む村は、子爵領ウランシュタール村というわけだ。その子爵領の村に、なぜ領主ではなく五大貴族なんて超大物の人間が来るのか。それはそいつらが、子爵家の元締めだからだそうだ。
この村がある子爵領を含んだ王国東部一帯は、五大貴族の一つ、アルバーニュ公爵家が取り纏めている。ところでこの国でいう公爵家というのは、別に前世の世界のように王家の親戚筋とか、そういう意味では使われていない。いや、ちゃんと王家の血はどこの家にも入っているらしいし、デューク的な意味合いもあるにはあるのだが、そういうことではない。五大貴族を五大貴族足らしめている最大の要因は、彼らが持つという血統魔法にある。生まれつき魔法が使えるとかいうあれだ。その血統魔法があるから五大貴族は強い権力を有し、主家の立場にある王家にも普通に意見できるという。そしてこの血統魔法があるからそ、この国は強国としての立場を保ち続けている。安定した強者を生む土壌と言うよりは、品種改良と温室栽培で強者を養成しているのだ。インチキだ。
そんでなぜ今回その五大貴族様の一族がやって来るのかと言うと、この村のダンジョンを破壊するのが目的であるようだ。なんでやねんって感じだ。
なんでも、今回この村近くで発見されたダンジョンは、上級レベルだと判明したらしい。だよね、そうだと思ったよ。だって銀級三位相当の俺をボコるんだもん。そうじゃないとおかしい。で、上級ダンジョンが現れて、村おこしバンザーイみたいになったけど、村の偉い人たちはすぐに壊すことに決めた。何故かって、そりゃ旨味がないからだ。なぜ旨味がないかって、そのダンジョンが外れダンジョンだからだ。聞けば、ダンジョンにも当たり外れがあるらしい。その基準は手に入る資源によるのだが、今回は大ハズレの部類に入るそうだ。
理由一つ目、それが草原ダンジョンであるから。草原にはまともな資源がありません。土壌は肥沃らしいが、そんなのを危険を冒して持ち帰るのは馬鹿です。薬草など貴重な植物は手に入るけど、それだけ。他に好材料があったら良かったけれど、それもなかった。理由二つ目、宿魔の実が無い。文字通り草原ダンジョンには宿魔の実が無い。何故かは知らん。でも草原だから。そんな感じなのかもしれない。以上。そして理由三つ目、出現する魔物がクソ。俺が圧倒した緑の変態ことゴブリンっぽいのは、イミッジと呼ばれる嫌われ魔物だそうだ。こいつはやたらと残虐で人を甚振り、そのくせ強い奴が相手だと逃げるという、クソみたいな魔物らしい。だから強い攻略者以外からは嫌われており、旨味がまるで無いダンジョンで、こんなのと戦いたい酔狂な人間はいないという話だ。おかしいな。俺が相手した時は逃げなかったんだが。俺の強さが次元が違いすぎて測れなかったか。なら仕方ない。
そんな訳で、俺が初めて入ったダンジョンは、価値なしと村から判断されました。おわり。余談だけど、これが牛とか羊とか、そんな感じの食用魔物だったら、意図的に現体化させてダンジョン牧場にする選択もあったらしい。上級のダンジョン牧場は、この国にも二つしかない希少な牧場のようだ。それはどれも貴族向けの高級ブランドとなっている。もしそうなら三つ目の上級牧場になったのだが、惜しい限りであると、笑いながら話す学校の先生から聞いた。残念でした。
そんな価値のないダンジョンはさっさと壊してしまいましょうと、領主様に報告を送ったら、何故か公爵家が出張って来ることになった。どういうことやねん。
それも聞いたら教えてもらえた。教えてくれた担任のゴラム先生によると、公爵家の直系男児が腕試しのために来るらしい。具体的に誰が来るかは不明であるが、先生によるとおそらく次男が来るという予想だ。だから次男って誰やねん。こっちは長男も父親すらも知らんよ。まあとにかく、こんなど田舎にど偉い貴族の子供様が来ることになった。その出迎えの準備のために、村長とか村のお偉いさんは、てんやわんやといった有様だという。この国の規模を考えたら、五大貴族なんて中堅国家の王家みたいなもんだしな。自分の村に王子様が来るとなったら、そりゃ誰でも慌てるか。無礼な出迎えしたら秒で殺されそう。五大貴族の子息の護衛って、最低でも金級攻略者の実力はありそうだ。それが何人いるかは知らないが、護衛だけで村長なんか軽く百回は殺せそうだ。村は問題ありません。なんたって俺がいるからね。上級の魔物を瞬殺できる俺なら、金級とかちょっと強い雑魚だから。五大貴族とか恐るるに足らんわ。ガハハ。
「公爵家の次男様ってどういうお方なんだろう。やっぱり凄いカッコいいのかな?」
王子様に憧れる婦女子のような表情で、コランダちゃんがそんなことを言った。俺的クラスで二番目に可愛いいコランダちゃんであるが、今はラナといい勝負、と言いたいが、贔屓目なしでも若干負けている気がする。別に彼女の容姿が悪くなったわけではなく、ラナの追い上げがあったからだ。つい二週間前まではそんなことはなかったが、スーパーライルになった俺は曇りが晴れた。客観的に人物を判断できるようになったのだ。
「へっ、どうせいけ好かない奴だぜ。貴族の子供なんて、チャリスみたいなのに決まってる」
公爵家次男に敵意を見せるのはミレン君だ。彼はコランダちゃんに想いを寄せてる節があるから、その発言が気に入らなかったんだろう。まあ、その意見には俺も同感であるが、お前に言われるほど……ではあるな。チャリスとか、あんなのだったら最悪だ。権力者としてのスケールが大きくなったチャリスなど、最早害悪の塊だ。容易に手出しできない分、余計にタチが悪い。
「それよりも、どうして公爵家の次男様がわざわざこんな辺鄙な村まで来るんだろう?」
次男様本人の話を切って、そう疑問を挟むのはオルジョ君だ。彼は身長が伸び始めたせいで、もう女装は無理だ。筋肉とかついてるし。成長先を誤った少年である。
「ダンジョンの攻略だって先生が言ってたろ」
「それは聞いたよ。でも公爵家なら、管理しているダンジョンはいくつもある筈だろう? なら、ここに来る理由が、他に何かあるんじゃないかって」
オルジョ君のその疑問に答えたのは、美少女サーレリちゃんだった。
「攻略じゃなくて踏破が目的なんでしょ。自分たちの管理してるダンジョンを壊すわけにはいかないから。経験を積ませるためにも、これがいい機会だったんじゃないかしら」
サーレリちゃんの意見に、なるほどとオルジョ君が頷く。流石はダンジョン博士の娘だ。検定四級はありそう。
「その次男様は何歳なんだろうな。上級ダンジョンの踏破って、攻略者ランクなら最低でも金級はないと無理だろ。それなら俺たちよりは年上だろうけど」
ゴウル君の疑問にみんなが頭を捻らせる。
「血統魔法があるっていっても、子供に上級ダンジョン送りにしないだろうし、20歳くらいじゃないか」
「でも凄い偉い人なんだよね。護衛もいるならもっと若くてもいいと思うけど。中等学舎に入れる13歳じゃないかな?」
この国でダンジョンに合法的に入れるのは13歳からだ。それ以外は特別な許可やコネがないと無理らしい。そのような理屈と常識から予想を述べているのだろうが、俺もそれくらいだと思う。でも五大貴族なのを考えたら、常識は当てにならん気がする。魔法を使えない俺やラナですら、シュタットに銀級相当の実力だとお墨付きをもらったのだ。血統魔法なんてあるなら、例え俺たちと同じ年齢でも、金級に到達していてもおかしくはない。
俺がそんな予想を立てていると、引っ込み思案のノールちゃんが小さな声で言った。
「あの……私それ知ってる。確か、私たちと同年代って聞いたよ?」
それを聞いて、クラスの連中はノールちゃんに視線を向ける。ノールちゃんはその反応にビクついた。俺の予想は当たっていた。賢い俺は偉い。
「俺たちと同じって、本当なのか?」
「う、うん。お父さんが役場で働いてて、そうだって言ってたから」
ノールちゃんの父親は、村の役場の職員だったのか。初耳である。まあ、誰の親がどんな仕事付いてるかなんて、興味なきゃ知らんよな。俺の両親は母は主婦で父は木こりだ。木を伐採するあれである。ラナの両親はなんだろう。知らんわ。
「金級ってことは、ラナやライルより強いってことかよ……」
「いや、俺の方が強い」
アホなことを宣うミレン君に、俺は即座に反応して会話に混ざる。ラナはともかく、俺まで血統に恵まれた貴族のボンボンに劣ると思われちゃ困る。今の俺は覚醒済みなんだ。だから上級の魔物とか雑魚だ。そこだけは譲れん。
「そんなに自分が強いって言うなら、一度くらいその強さを見せてみなさいよ」
「それは無理。俺はこの力は然るべき時まで封印してるって決めたから」
一度使うと寝込む力なんて馬鹿らしくて使えない。使うたびに体が鈍っていく悪循環だ。俺は成長しきるまで封印することに決めているのだ。だからサーレリちゃんよ。肩を竦めて「アホらし……」なんて呆れるのはやめろよ。俺が虚言癖のかまってちゃんみたいだろ。同じように俺から視線を外していくクラスの連中。俺の信用なさすぎだろ。そんな信じることを知らない哀れな奴らの中で、、ラナさんだけがこっち見て頷いてくれた。以前はウザく感じた自分だけは分かってますアピールも、こんな時だと嬉しく感じる。
俺はラナの優しさに感謝しながら一時間目の授業の準備をした。
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