第18話 ダンジョン話2

「特級認定されているダンジョンが特別な理由は色々ある。一つは単純に数が少ないからなんだ。特級というのはそれ以下のダンジョンと比べて、生まれることがほとんどない。ダンジョンが生まれやすいこの国でも、数十年に一度という割合だ。百年の間隔が空いたという記録もあるほどだね。それだけ特級は希少なんだよ」

「ならどうして壊されるの? 希少なんでしょ?」


 最もな理由だ。俺が聞くことが本当にない。サーレリちゃん無双だ。俺はカップが空になったのでポットから茶を注ぐ。紅茶だ。微妙な苦味と渋みがいい。敏感な子供舌であるが、俺は普通に飲める。大人だしね。優雅なティータイムだ。


「それは二つ目以降の理由にある。特級というのは上級よりも当然難しい。上級を攻略できる金級の攻略者たちは一流と呼ばれるだけの実力者であるけど、その上、特級を攻略できる白金級というのは、一流を超えた超一流とも呼ぶべき実力者なんだよ。だからその数が非常に少ない。この国でもそう呼べるだけの強者は百人いるかどうかじゃないかな? 小さな国だと一人か二人くらいって感じだね」


 百人って結構いるなって思ったけど、小国だとそんな少ないんかい。それじゃあ割合としては数十万とか百万に一人とかそんなもんなのか。この国の人口を考えれば毎年一人か二人は生まれるって感じか。そう言われると確かに少ない。世代トップにならんといけないって意味だし。

 俺は最強だから関係ないけど、ラナとかはどうだろ。俺に次ぐレベルの強さはあるし、こいつも同世代の白金級候補の一人ってことなのかな。俺はチラッと隣に座るラナさんを見てみる。俺の視線に気づいたラナさんはこちらを見返してくる。俺とラナさんは数秒見つめあって、俺の方から視線を逸らした。机の上に視線を戻した俺の視界に、ラナさんの手が映る。見ればラナさんは俺の空になった皿に、自分の分の干し果物を入れてくれた。俺はそれに小さくお礼を言って、またモッチャモッチャと干し果物を食べ始めた。


「そういうわけで、特級ダンジョンの攻略者は少ないんだ。一応金級でもそこに入ることはできるけど、求められる水準には微妙に足りてないって実情がある。白金級の攻略者に求められるのは、ダンジョン内にある希少な素材の回収だからね。そしてこれが、特級ダンジョンが破壊される一番大きな理由だ」


 さらっと流されたけど、金級とかいうのでも特級ダンジョンに入れるのか。その辺どうなってんだろ。今の俺でも特級入れてくれんのかな。サーレリちゃん聞いてくれないかな。ラナでもいいけど。

 俺の疑問も知らずにシュタットは話を続ける。


「特級ダンジョンで手に入る素材はそれ以下のダンジョンで手に入るものよりも、希少であるし質も高い。そしてその中でも特に重視されているのが宿魔の実だ。食べれば魔力が増えて魔法が使えるようになるというこの果実は、基本的に見つけたものが手に入れていいという決まりがある。自分で食べるのも誰かにあげるのも自由となっている。差し出せと言っても、ダンジョン内で食べてたらそれは不可能だしね。そういう風に決められているんだ。でも、だからこそ国はそれ以外の部分で規制する。王家と五大貴族は、特級ダンジョンを自分たちで管理することで、そこで手に入る宿魔の実を独占することにしたんだ。まあ、一つは協会に管理を任せているけど、それも一つだけ。残りの十三ある特級ダンジョンは、そこを管理する王家と五大貴族の関係者しか入ることはできないんだよ」


 でたー、既得権益。権力者の特権オブ特権。こういうのがクソなんだよな、身分制度とかそういうのは。独占とかマジでクソだよ。一般開放しろよ。俺を入れろよ。なんで独占すんだよ。攻略できる奴少ないんだろ。だったらいいだろ。強い奴は誰でも入れろよ。つーかこの国、こんなんでよく発展できたな。自由も何もあったんもんじゃねえ。若者に夢と希望を与えろや。若者の声を聞いてくださーいってやつだよ。平民の声は家畜の鳴き声と一緒ってか。くそったれ。


「そのように、特級ダンジョンは一部の権力者の独占されている状態なんだ。説明としては、『魔物の現体化を絶対に起こさないための適切な予防措置』とされているけど、そんなのは建前だって誰でも知ってる。特級ダンジョンで手に入る宿魔の実はもの凄く高価だからね。中級探索者程度の稼ぎじゃ一生手に入らないくらいだ。そしてそういう理由があるからこそ、今回発見されたダンジョンが特級だったら破壊される可能性が高いんだよ」

「え? でも貴重なんですよね。どうして破壊する必要があるんですか? そのものすごく偉い人たちが管理するんじゃないんですか?」


 サーレリちゃんの代わりに、今度はラナが質問した。そうだよ。なんで破壊するんだよ。俺の見つけたダンジョンだぞ。勝手に破壊してんじゃねえよ。

 俺の怒りなど露知らず、苦笑を浮かべながらシュラットは答えた。


「今の特級ダンジョンの所有内訳は、王家が三つで五大貴族が二つずつなんだ。数年前までは王家と五大貴族で二つずつだったけど、超級ダンジョンの一つが踏破されて、そこが特級に格下げされたからね。そのことが当時それなりに問題になったんだよ。王家には未踏破のダンジョン、超級ダンジョンの代表管理権が認められている。王家なのに認められているというのもおかしな話なんだけど、それだけ五大貴族の力が強いってことだね。だから超級より下の特級ダンジョンは、王家と五大貴族で所有する数を横並びにしましょうって話になってたんだ。でも超級の一つが特級になって、その横並びは崩れた。バランスが崩れたことで、王家は所有する特級の内の一つを、五大貴族たちから放棄するか破壊するように迫られた。けれど、新しく特級になった元超級ダンジョンは、その攻略が非常に難しかった。特級として管理しても、他の特級のように順調な管理ができないとされたんだ。まあ、それもどこまで事実か不明だけどね。王家の保有戦力ならそれも可能だったと僕は思うけど。とにかく、そんなことがあって、最終的に王家の言い分が通ったんだ」


 超級ダンジョンってなんやねーん。当たり前のように情報追加してくるんなよ。予想はできるけど。ようはダンジョンの核に辿り着けないのを、未踏破の超級として定めてるってことね。ってそれはいくつあんだよ。実は特級より多かったりもすんのかな。百個くらいないかな。俺が全部破壊してやりたい。爽快感凄そう。


「だから今回発見したダンジョンが特級だと、絶対にどこが管理するかで揉めることになる。王家や五大貴族以外が管理するという可能性はほぼない。だからやっぱり、横並びの維持のために破壊が妥当なところというのが僕の予想だよ」


「とは言っても、あくまでもそうだった場合の話だけどね」と最後に付け加えて、シュタットの長い話は終わった。この人色々とよく知ってるな。驚いたわ。うちの両親とか絶対に王家とか五大貴族とか知らんだろ。『あー、アレね。なんかすっごい偉い人たちよね?』とか母なら普通に言いそう。

 それより横並びって言うならそこに攻略者協会も混ぜてやれよ。可哀想だろ、一つだけ一個しか管理任されてないって。どんだけ弱小組織なんだよ。世界的な組織とかじゃないのかよ。ガッカリだよ。


「ライルくんはどう思う?」

「何が?」


 いきなりそんなことを聞かれても意味わからんが。何が言いたいんだラナよ。


「実際にそのダンジョンに入って、中の魔物と戦ったんでしょ? どれくらいのレベルだったか判る?」

「え! あんたダンジョンの中入ったの!?」


 バラされてしまった。俺とお前だけの秘密じゃなかったのかよ。両親は普通に知ってしまったけど。

 それはそれとして、あのダンジョンの難易度か。一度俺を殺しかけたけど、覚醒した俺なら楽勝だったし、実際どうなんだろうね。基準がないからなんとも言えん。でも特級はないだろうな。上級か中級かどっちかじゃないか。下級以下はあり得ん。そんなことはあっちゃいかん。あんなのが下級だったら俺は絶対に寝込む自信がある。精神が耐えられん。


「それでどうだったの!? 中の魔物強かった!? 宿魔の実は見つかった!?」


 サーレリちゃんの勢いがすごい。机に乗り出してるもん。流石に斜め向かいにいる上に、体も小さいので俺の顔面には全然届かない。9歳だしね。彼女が大きくなったら期待しよう。


「いやいや、俺は中にいる魔物と一回戦っただけだから。宿魔の実とかそういうのは探してないから。ダンジョンと知らずに入っただけな俺に、犯罪を自供させるような真似はやめてくれよ」

「そういうのはいいから早く答えなさいよ!」


 そういうのって、普通に重大やろがい。俺を前科者に仕立て上げようとすんなや。でもサーレリちゃんのテンションがマッハなので俺は教えてやる。俺は優しいから。心がイケメンなんだ。


「うーん……他の魔物を知らんから例えになるけど、俺が戦った奴は多分ラナくらいの強さか、それより弱いくらいじゃないか? 覚醒した俺がボコボコにしてやったけど」


 緑の変態は俺をボコしたように思えるが、そんなことは全然ない。あれは俺が油断してただけだ。強がりとかじゃなくてほんとに。だって初めて魔物見たし。挨拶しようと近づいたら、不意打ちくらっただけだし。普通に相手が強いと知ってたら、俺はあんな無様は晒してない。俺の覚醒イベントでそういう因果が働いた可能性もある。俺は運命に愛されし者ライルだしね。それでも覚醒しなくても勝てるとは自惚れん。だから多分奴の強さはラナくらいだと予想する。


「そ、それってめちゃくちゃ強くない? あんたよく逃げれたわね……」

「いや、だから勝ったの。覚醒した俺がボコボコにしたって言ったじゃん。なんでそこをスルーするの」

「ってことは本当はあんたより弱いってことかしら……? うーん……やっぱり今のアタシじゃまだ勝てなさそうね。残念だわ」


 こいつ全然信じとらんわ。なにナチュラルに俺がラナより格下扱いしてんだ。業腹事実だけど。

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