第17話 ダンジョン話
というわけで、俺の発見したダンジョンが公のものとなった。俺が密かに考えていたダンジョン私有化計画が、失敗に終わった瞬間だった。
発見されたダンジョンの扱いというのは、大まかに二つあるらしい。管理か破壊かである。管理というのはそのままの意味だ。ダンジョンの周りに壁を作って囲って、内外の出入りを制限するのである。いやいや、わざわざ壁作る必要ある? と疑問に思うところだが、これがちゃんとあるのだ。なんでもダンジョンというのは、放置しておくと外にも魔物が出現するらしい。『出てくる』ではなく『出現』だ。あの空間と空間を繋げてるっぽい枠から魔物が這い出してくるわけではなく、枠の外にそのまま生の魔物が生まれるらしい。その現象を魔物の現体化と言うそうだ。
現体化した魔物には、ダンジョン内の魔物との大きな違いがある。それが肉体の有無だ。ダンジョン内で魔物を倒すと、俺も経験した通りその体は煙のように消える。そしてそこには魔石が残る。魔石の説明は今は置いておく。これは魔力の塊みたいなものだ。金になるらしい物である。魔物の話に戻るが、現体化した魔物というのは、倒しても体が消えることはないらしい。肉体がその場に残るそうなのだ。だからと言うべきか、現体化した魔物は倒さないでいると、そのまま野に放たれることになってしまう。だからその魔物の移動を防ぐため、ダンジョンの周りには壁を築く必要があるのだ。だがこれはあくまで保険としての意味合いが強い。基本的に、魔物の現体化というのは起こることが少ないからだ。
ダンジョンを放置すればいずれ必ずそうなるのだが、それが起こるまでの期間が長いのである。最も早いものでも最低一ヶ月はかかると言われている。そしてその期間は、ダンジョン自体の難易度に依存しているともされている。高難度のダンジョンであると、数年や数十年もの長期間放置しなければ、現体化は起きないそうなのだ。だから壁の建設は本当に保険としての意味合いしかない。攻略者の出入りの管理と制限といった目的の方が主となっている。
もう一つ、現体化が恐れるに値しない理由がある。それは現体化したばかりの魔物というのは、それを生み出したダンジョンの中に存在する魔物と比べて、非常に弱いというものだ。強さとしては、だいたい二ランクは劣ると言われている。だから現体化それ自体は驚異とみなされておらず、中には意図的に現体化を誘発して、魔物の素材回収を行なっているダンジョンもあるという話だ。ダンジョン牧場である。剛毅だね。
ダンジョンの扱いの二つ目である、破壊。それも言葉通りの意味である。ダンジョンというのは最奥に核がある。これを壊してダンジョンを機能停止させるのだ。半永久的に資源が取り放題のダンジョンを破壊するなんてもったいない。そう思うのは当然である。実際ダンジョンの少ない国や地域では、発見されたダンジョンは金鉱脈のように大切に保護される。ダンジョンを踏破されないために、他国の人間や攻略者協会の介入も許さず、関係者以外の出入りを一切禁止するのである。それほどダンジョンは貴重なのだ。
そんな場所によっては国宝的な扱いを受けるダンジョンも、ダンジョン大国であるネイザールでは話は違ってくる。ネイザール王国が保有するダンジョンは、他国のそれと比べて凄く多い。軽く三桁を超えるダンジョンが存在するのだ。そんなにあんのって感じだ。しかも話はこれで終わらない。この三桁以上のダンジョンであるが、これらは全て選別されたダンジョンであるということだ。前述の通り、ダンジョンというのは破壊することができる。だからたくさんのダンジョンを持つネイザールは、管理が面倒だったり魅力を感じなかったりするダンジョンに関しては、さっさと破壊しているのである。勿体無さすぎだろ。しかし何事にもそうするだけの理由がある。
ダンジョンは自然発生が基本であるが、普通に人為的に生み出すことも可能であるそうなのだ。それでこの人為的というのは、ダンジョンを生み出す場所を任意で選べるという意味である。つまりは好きな場所にダンジョンを置き放題なのだ。まあそうは言っても実際に生み出し放題、作り放題とはいかないらしい。理由は色々あるが、最も大きな理由、それがダンジョンの破壊という行為に大きく関わってくる。ダンジョンにある核だが、これは丸ごと持って帰るのは不可能であるが、壊した後の欠片ならば持ち帰れるらしい。高質な魔力体であるこれには様々な使い道があり、その筆頭に来るのがダンジョンの生成である。ダンジョンの人為的な誕生には、このダンジョンの欠片が必要絶対であるのだ。だからこそ、管理が不便で立地が悪いダンジョンというのは、ここネイザールでは普通に破壊が選択に入ってしまう。そんでどっかの貴族や国がそこから手に入った核の欠片を買って、自分の好きな場所にダンジョンを生み出すのである。札束ダンジョンだ。ネイザールにあるのは、そんな選別を生き残ったダンジョンか、人為的に生み出されたダンジョンばかりとなっている。
今回のウランシュタール村近くに出現したダンジョンの扱いであるが、これは村に決定権が委ねられているらしい。意外だ。どっかの強欲デブ貴族が出てきて、『このダンジョンは儂のもんじゃ! 愚民共よ! 良きに計らえ! それで儂を富ませるのじゃ! ワッハッハ!!』とか言いにくるかと思ったのに。
なんでそんなことになるのかというと……俺はそれを目の前のエルフっぽいおっさん? から聞いていた。
「貴族としても、旨味のないダンジョンなんて管理したくはないんだよ。仮にダンジョンを残すとしよう。その場合、ダンジョンに挑んでくれる攻略者や、それをまとめる攻略者協会を誘致しなければいけない。これがなかなかに大変だ。この国に存在するダンジョンというのは、どれも人口が万を超えるような町や都市の付近にしか残されていない。それ以外は全部踏破されているか、踏破が困難なものに限られている。だから攻略者というのは、みんなそういう立地のいいダンジョンに行ってしまうんだ。誰もわざわざ不便な田舎まで来て、ダンジョンの攻略なんかしたくないというわけだね。そんなことしなくても、この国にはダンジョンなんていくらでもあるから」
俺の前で話す若いイケメンのおっさん? は、元ダンジョンの攻略者であったという、サーレリちゃんのパパさんだ。サーレリちゃんも美少女だが、パパさんもイケメンだ。エルフっぽい種族であるフォレセが全員美男美女であるという仮説が、また一歩事実に近づいてしまった。
「そういう理由があるから、残すことへのメリットはあまりない。あまりというのは、こういう田舎のダンジョンは、人気がないという理由で一定の需要があるからだね。不人気なダンジョンというのは、同業者との獲物の奪い合いが起きにくいんだ。だからそこを攻略する人たちはのびのび狩りをすることができる。これは結構攻略者にとっては大きいよ。僕も現役の頃に経験があるけど、やっぱり人が多いと獲物の奪い合いが熾烈になるからね。殺し合い一歩手前まで行ったことも何回かあったよ。流石にその一線を越えると、攻略者としての資格を剥奪されるから、滅多にそういうのは起こらないけどね」
ちなみにこの人の奥さんである、サーレリちゃんママは普通だ。美人ではないが愛嬌があるというのだろうか。性格は普通に良さそうであった。やっぱり美男美女の人種って、美人は三日で飽きるを体現した人種なのかな。逆にブサイクやブスの方が容姿として優れて見えるとか。知らんけどね。あなたはブスの方が好みなんですか? なんて面と向かって聞けないし。でもブサイクやブスとのハーフやクォーターでも美形に生まれるなら、どんどんその遺伝子を残した方が良いのではなかろうか。いや、引き立て役がいなくなるから、結局変わらないか。人は人と優劣をつけて己の価値を測る生き物だからな。その辺りは前世も今世も変わらん気がする。あるいは価値観が反転して、そういうタイプがモテモテになるとか。
「じゃあ次に破壊を選んだ場合だけど、こちらも一時的なメリットはあっても、長期で考えれば微妙なんだ。ダンジョンは半永久的に資源を供給可能な存在だからね。細々とやっていっても持続的な利益は出続ける。破壊することは、未来に手に入れる筈の利益を全て手放すことに等しいんだよ」
「じゃあ、結局どっちがいいの?」
それを聞いたのは俺ではなくサーレリちゃんだ。パパンの隣に座るサーレリちゃんが、可愛らしく小首を傾げてそう問うた。
サーレリちゃんパパことシュタットは、娘からの質問にゆるゆると首を振った。
「それはまだ判らないんだ。これからダンジョンの調査員を呼んで、その難易度を調べないといけない。仮に下級以下のダンジョンであるなら、攻略者を呼ばなくても村だけでの管理が可能だ。それより下の初級や無級もそうだね。でも中級以上からは、本格的な攻略者を呼ばないといけなくなる。間引きだけなら僕やケンダラのような元攻略者でも可能だけど、それじゃあ残す意味がなくなってしまう。現役の攻略者を呼んで、ダンジョンの魔物をたくさん倒してもらわないといけないんだ」
間引きというのは、魔物の現体化を防ぐための措置だ。放置しない、すなわちダンジョン内の魔物をちゃんと倒せば、魔物の現体化が起きることはないのである。
「なら中級より上だったら?」
「仮に上級の場合は微妙だ。上級ダンジョンはここネイザールでもそう多くはないからね。多分そこを攻略できる金級か、銀級上位の攻略者が来てくれると思うけど、来ない可能性もある。上級ダンジョンを攻略できる攻略者は全体の数では少数だからね。貴族や有力者に雇われてることが多いんだ。自分たちの管理してるダンジョンを攻略してくれって言われてね。フリーの攻略者なら来てくれる可能性もあるけど、そっちはそっちで独特な人が多いから、わざわざ拠点を変えてまで来てくれるかは僕にも判断つかないよ」
ここでも出ました貴族。貴族って言ったら村長だけど、あいつはクソ爺だったな。貴族ってやっぱああいうクソ野郎が多いのかな。俺にボコされるフラグ立ててくるのかな。異世界転生者の貴族との対決も定番だし。そういうイベントは確定してるのかな。どっちでもいいけね。ムカついたら殴ればいいし。それだけの話だ。
「ふーん……あっ、上級より上だったらどうなるの? 特級っていうのもあるんでしょ?」
サーレリちゃんが俺の聞きたいことを聞いてくれる。おかげで俺が口を開く機会がない。俺は出されたらお茶と干し果物をモチャモチャ食べる。見た目はしわくちゃなのに、割と美味しい。ここ田舎だけど、果樹園とかやってるから果物は安く手に入るんだよね。宿魔の実は除く。
サーレリちゃんの質問に、シュタットは少し難しい顔を作る。
「……特級なら、おそらく破壊されるだろうね。あれは特別なダンジョンだから」
「特別なのに壊されるの?」
「特別だから壊されるんだ。現在ここネイザールで特級の認定を受けているダンジョンは、全部で14ある。その内の一つは攻略者協会の管轄となっているけど、残りは全て、王家と五大貴族の管理下にあるんだ」
特級って、凄そうなのに割とあるな。14って多くね。いやまあダンジョン大国だし、国の歴史を考えればおかしくないんだろうけど。ていうかまたまた貴族かよ。なんだよこいつら。つーか今度はやたら強そうな呼ばれ方してるし。◯大なんちゃらって大体強力なことが多いんだよな。俺は一大ライルだけど。
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