第15話 魔力の考察

 遂に覚醒を果たして、最強になってしまったライルです! ブイ!!


 いやー、緑の変態との戦いは死闘でしたねー。まあ、主人公な俺の圧勝だったけどな! ガハハ! まあ、都合よく覚醒して強くなったと言われたらそういうわけでもない。オイオイ、人の成果を奇跡や運命の産物だなんて野暮なことは言ってくれんなよ。俺が強くなったのは、一から百まで俺の努力と修行の賜物である。そこに天の配剤も神の計らいもありゃせんのだ! 強いて言うなら俺がそれそのものだ。体現者ライルと呼んでくれ。一陽来復清々しいね。


 真面目な話をしよう。俺が強くなったのは、本当に自分の力と努力の結果である。そこに巡り合わせはあっても宿命論なんかはない。ないったらない。

 俺は魔力の正体を理解できた気がした。唐突に凄いことが解ったものだよほんと。それには別に強敵と死闘を演じるとか、実際に死に瀕するとか、そんなパワーアップイベント的な出来事は必要なかった。唯一必要だったのは、やはり自己との対話だったのだ。基本に帰るってやつだね。

 俺は魔力の修行の初期から自己との対話と称して、この魔力との触れ合い分かり合いを、やってきたしやらせてきた。これには他に最適な方法が思いつかなかったという悲しい理由があるのだが、実はこれがかなりいい線いっていたと、今になってそう思っている。本質に近いところをいい感じに突いていたのだと。いやー、俺ってやっぱ凄い。真理への挑戦者にして洞見者である。深淵慧眼ライルの二つ名を戴こうかな。

 んで、俺は一つの真理っぽい結論を得た。あれ? 別に俺の魔力は増えてなくね? みたいなのである。頭がおかしくなったわけではない。本当にそうだ。まず世間一般で知られている、魔力を増やすための最も単純な方法というのは、宿魔の実を食べることである。これの理由や理屈は知らんが、なんか食ったら魔力が増えるらしい。だから魔法が使えるらしい。それは高くて希少な実ほど、その効果が強いらしい。まあ、だからと言うべきか。魔力を増やすと言ったら宿魔の実なのである。他にも俺みたいに修行することや、魔力を使って実戦を行なえば、それなりに増えることもあるらしい。

 へー、って思うじゃん普通は。大人が言ってるんだもん。それが正しいって思うよね。俺もそう思ったもん。それ聞いて、やっぱ金持ちはクソだなって思ったもん。金持ちだけ死ぬ奇病流行らんかなって思ったもん。

 しかしそれは違った。違ったというか、違うと思うだ。俺はあの時死にかけて、それを突然に悟ったのである。その内容が、魔力は別に増えていない、というものである。俺の認識として、魔力というのは質量みたいなものである。質量というよりは体重だろうか。なんというか、要するに個人差があるようでないのである。前世の世界で例えると、体重60kgや70kgの人が普通にいて、それだけである。ちょっと意味がわからないか。個人で保有できる限界が決まっていて、それに突出した例がないと言うべきか。体重の話に戻るが、どんなに重い人間でも500kgとかそんなもんである。常人の十倍に達しないかどうかってレベルだ。魔力もそれと同じものだ。そんなめちゃくちゃ強いからと言って、常人の数千倍とか数万倍とか、そんな莫大な量を持てるものではないのだ。つまり、本来なら数百人とか数千人とかを相手に無双できるような、そんな馬鹿げた力ではないのである。

 ならどうしてそんなことが可能になるのか。いや、実際に可能になるかは知らん。でも今の俺やラナでも、魔力を全然鍛えていない一般人程度、例えばチャリス程度なら百人単位でまとめてボコせると思う。だったら世の中には、万単位を相手に同じことができる者もいるだろうという予想だ。事実として、国を滅ぼす最強生物ドラゴンを狩り殺す人間というのもいるらしい。それ人間か? そいつの方がよっぽど危ないだろ。

 それはさておき、現実には超強い人間というのが実在している。常人よりも遥かに多い魔力を保有している、というわけではないのにだ。それに理由をつけられたものこそが、俺が得たという真理。魔力への根源理解である。

 先に述べたように、保有魔力の差が、そのまま個人の戦闘力に直結するわけではない。保有魔力自体には、それほど大きな差がないためである。ならば何がこの違いを決定付けるのか。それこそが魔力への理解度である。俺の前世にはある有名な数式があった。かの天才物理学者アインシュタインが導き出した例のアレである。その質量というか、物質が本来が持つ莫大なエネルギーとかいう、そういう話である。俺は魔力にもそれと同じものがあると理解した。

 つまりだ、現実には極小と呼ばれるだけの魔力でも、前の理論のように、有効的な力を最高効率で引き出せば、実際のエネルギーは莫大なものになるという話だ。俺はこの結論を得てビビってきたね。俺が求めていたのはこれだと。

 宿魔の実を食べて魔力が増えるというアレ。それは確かに事実だろう。しかし同時に、錯覚に等しいものではないかと、俺はそう思っている。実際に保有している魔力が増えているわけではないということだ。ただ宿魔の実には、『食べた者の魔力を、効率良くエネルギーに変換する効力がある』、それが正しいのだと思う。実際には知らんけどね。だって俺、食ったことないもん。見たことだって一度だけだし。しかし根拠はある。それがミルカ様だ。俺の妹である。

 ミルカが食った宿魔の実。アレは俺の予想通り、本当にクソみたいな効果しかない最低ランクのやつだった。それでもそこそこ値は張るのだが、そこらの奴がそれを食っても、マジで大した魔法は使えんらしい。ミルカの食った実で例えるなら、ミルカは食ったそばから扇風機よりも強い風を出せたが、それ以外の本当になんの訓練もしてない一般人だと、扇風機そのものってレベルの風しか出せんらしい。それにしても、強中弱で例えたら、中とか弱とかそんなレベルだ。当時の俺も両親も、そんなことは当然知らない。だって初めて食うのを見るし、食わせるのも同様なのだから。違いなんて判る筈もない。それでそれを疑問に感じ始めたのは、ミルカが成長してからだ。現在ミルカ様は7歳になっている。俺のことをしっかり兄さんと呼び、滑舌もかなり良くなって、立派な我が家のお嬢様となっている。それでそんなミルカなのだが、成長とともに、魔法の強さも増していた。

 いや、当然といえば当然なのだ。魔法も魔力と同じように、鍛えることができるらしいのだから。だからこれ自体は当たり前のことである。俺もミルカの成長を他者から指摘されても、「へー」としか思わんかった。毎日見てると変化に気づき難いのである。じゃあ何が疑問なのかというと、最低ランクの宿魔の実を食ったミルカが、それだけの魔法を使えるようになったという事実にである。

 初めの頃は強力な扇風機でしかなかったミルカであったが、7歳の今では、台風みたいなことができるようになっている。あくまで瞬間最大風速の話であり、平均では強い扇風機の数倍程度だ。それに台風といっても、その風速はピンキリである。ミルカは当然キリの方だ。

 しかしその過程を考えれば疑問に思わずにはいられなかった。だって扇風機が台風だよ。どう考えてもおかしい。おかしいよね? 最低ランクって話だったじゃん。最低ランクがこんだけ強力になるなら、もっと上のはどうなるんだよ。マジで災害起こせるのか? 異世界魔法は天災そのものなのか?

 まあ、それはいい。良くはないが、今は最低ランクの宿魔の実の話である。この最低ランクの宿魔の実。これって、俺の家の経済力でも買えるんだよね。つまりまあ、それなりにまともな稼ぎがあるなら、誰でも彼でも買えるってことなんだよ。いや、やっぱおかしいだろ。こんな強い魔法使えるなら、もっと高くてもおかしくないだろ。買い占められてもおかしくないだろ。なんでそうならないんだよ。みんな魔法使いになりたくないのかよ。なりたくないのかもしれん。魔法使えたから何? って話なのかもれない。異世界カルチャーギャップである。

 冗談はさておき、俺はもしかしたらと思うことがあった。それはミルカが天才だからである。以上。これは冗談ではない。なんだかんだ言って、ミルカもちっちゃい頃から俺の修行に付き合ってた。途中やったりやらなかったりの上に、魔法を手に入れてからは完全に魔法に逃げたがな。それでもまあまあ立派な修行戦士である。

 俺やラナでも大人顔負けどころか、岩を破壊できる力を持っているのだ。魔法を使えるミルカなら、魔法版の俺みたいなことをできても不思議な話ではない。魔法チート少女である。つまり普通に宿魔の実を食べてもクソ魔法しか使えないが、ちゃんと鍛えればそれなりに魔法っぽい魔法を使えるようになる。そういうことではないか。そしてその理由にあるのは、魔力の効率的な扱い方なのではないか、ということである。


 つまりである。俺の結論をまとめると、『宿魔の実で魔力が増えると感じるのは、元々持つ魔力が高効率で別のエネルギーに変換されているだけであり、魔力自体は増えていない。そして修行を行い魔力への理解度を深めれば、同様の効力が自分の魔力へと適用されて、見かけの魔力を増やすことが可能である』。これこそが偉大なるライルが辿り着いた世界の真理である。


 俺が出したこの結論が正しいかどうか、それは不明である。俺は別に学者じゃないし、専門家でもない。それが正しいのか確かめる術もない。であるので、俺はこの正しさを我が身を持って証明していくだけである。

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