第13話 9歳ライル
はい、9歳のライルです。俺は小学四年生になりました。今年から小学校の上級生です。下級生の面倒を見る立場になりました。見られたことはないけどね。
そんな俺ですが、今では立派な学舎のトップ張ってます。番長ライルです。よろシック!
そうなのである。俺はウランシュタール村の初等学舎、そこの実質的なトップとなった。別に大した話も難しい話もない。俺の才能を考えれば当然のことである。なぜなら俺は頭でも武力でも、学舎一の神童だからだ。
俺の二年上にいる馬鹿の親玉こと村長の息子チャリス。奴との尋常なる一騎打ちに勝利した俺は、学舎の生きる伝説となったのである。まあ詳細は省くが、親の金で食った宿魔の実で魔法を使えるようになったチャリスは、以前の事件も忘れて大変にイキリまくった。イキリ過ぎて頭のおかしくなったこいつは、なんと下級生でぶいぶい言わせている俺に決闘を申し込んできたのである。馬鹿だよねほんと。それにはいつかの決闘の私怨も含まれていたのだが、魔法でイキってたこいつはその時の結果を忘れてしまったらしい。若年性の健忘症である。ただ頭が悪いだけと、事実を言わない俺は気遣いのできる優しい男と言えるだろう。
んで火の魔法を出して得意げのこいつを、俺は決闘に際してぶん殴った。俺ルールの子供相手に本気にならないは、そん時にはもう適用されなかった。だってあいつ小学六年生だし。二桁超えたら俺にとっては大人みたいなもんだ。後は単純にムカついたからだ。露骨に魔法を見せびらかしてたからねこいつ。しかもそれを俺の教室に来て使ってくるし、俺の同級生にまで向けやがった。俺はキレたね。というか、俺がキレなきゃサーレリちゃんが先にキレてた。彼女はまだ魔法は使えない。俺みたいにいつか自分の手で宿魔の実を手に入れると決めてるらしい。修行で心身を鍛えられた彼女は、フォレセに対する劣等感は抑え気味になっているが、未だに切れたナイフのような苛烈さを持っている。魔法を使えない自分に見せびらかす愚行を、暴力で精算しようとしていた。だから俺が矢面に立つことにした。指名されたし。
そういうわけで、俺はイキイキチャリスと決闘した。そんで魔法であいつに攻撃させて、それをわざと食らってやって、仕返しにぶん殴ってやったのだ。やはり建前は大事だ。決闘だから攻撃したのではなく、攻撃されたから攻撃仕返した。そう言える余地は作っておくものである。んで数年前からの恨みを晴らすが如く、奴の前歯を叩き折ってやった。奥歯じゃなくて前歯だ。一、二年前に生え変わったばっかの永久歯を数本叩き折って、俺は決闘に勝利した。んでまた親を呼ばれた。
その時は大物が出てきた。なんとこの村の村長だ。モリストン準男爵様だ。モノホンの貴族様だ。正確には準貴族だが。そして俺はその時まで忘れていた。ここは前世の平等社会ではなく、身分差のある階級社会なのだと。
クソ村長はそれはもう怒り狂ってたよ。理由? 誰の親だって、成人前の子供の永久歯を折られればキレるだろ。俺だってミルカやテオに同じことされたらぶちぎれるね。理由によるけど。そう理由によるのだ。だから俺は、俺の人格否定まで始めやがった糞爺にも理解できるように、分かりやすく丁寧な口調で至った経緯を説明してやった。御宅の息子がゴミ溜めの底に沈むゲロ並みに下等な存在だから俺はそうせねばならなかったのだと。整然とした文面で、馬鹿にも正しく伝わるように、当時の状況や過去の因果関係まで含めてハッキリと説明した。それを聞いて村長は押し黙った。それで隣でフガフガ言ってる馬鹿な息子に問い質した。息子は歯がないのでフガフガ言っていたが、村長はそれを聞いて意味を理解できたのか、そいつをぶん殴った。そんで息子を引きずって帰った。それだけ。謝罪の言葉とかは無し。イかれてるね。一応美人な奥さんが頭下げてくれたが、この人もあまりいい気を抱いていないのが伝わってきた。そりゃそうだとしか言えんがね。
まあとにかく、村長の息子の前歯へし折り事件はこれで終わりを迎えた。めでたしめでたし。
「めでたくねーよバーカ!!」
俺は前に作った修行場よりも奥にあるそこで、自分より大きな岩に苛立ちをぶつけていた。
「何が『平気で暴力をふるうイかれたガキだ』だよ! それはてめーの息子だろうが!! 何が『お前らの教育はどうなってんだ。これだから貧乏な平民は』だよ!!てめーは自分の息子への教育内容も把握してねえのかよ!! つーかお前も平民に毛の生えた程度の存在だろうが!! 何が貧乏な平民じゃゴラ!!」
俺の怒れる拳が岩へと炸裂する。俺の強力な拳を受けて、岩の一部分が大きく砕け散った。
「挙げ句の果てに『このままで済むと思うなよ』だあ!? それはこっちのセリフじゃあ!! 次何かあったら、一家丸ごとこの地から物理的に消し去ってやるからな!!」
俺の怒れる蹴りが岩へと炸裂する。拳よりも強力な蹴りの攻撃は、拳で弱った岩を粉々に破壊した。
岩への八つ当たりが一通り済んだ俺は、一応落ち着くことができた。
「まあ、最後の最後の態度を見るに、あのゴミクズも息子のしでかした事を察しただろう。だから報復はおそらくない筈だ。あっても特に問題はないが。俺は天才なのでどこでも生きていける。家族も似たようなもんだろ」
見ての通りというか、9歳になった俺は、自分よりも大きな岩を粉々に砕けるようになった。めっちゃ強くなったのだ。前世でこんなことをできる人間は誰一人としていなかった。だから俺は既に前世の中では最強と言える。ライオンとかカバとかサメとかクジラとか、そんな地球上の生物を全て集めて最強決定戦をやっても最強だろう。ティラノサウルスにも勝てるかもしれない。それもこれも、全ては魔力のおかげである。
魔力とはかくも凄いものだ。たかだか9歳の少年を、百獣の王よりも強力な生命体に仕立て上げてしまうのだから。まあ、この世界ではどの程度かは知らんが。少なくともまだ最強には程遠い筈である。例として挙げるなら、この世界にはドラゴンがいる。地上でも種族平均を取るなら最強と言ってもいいこいつだ。このドラゴンとかいう生物は、単独で国とか滅ぼすこともあるらしい。国を単独で滅ぼすってどういう生物だよ。前世の世界で例えるなら、ドラゴンは核兵器みたいなもんだろうか。
つまり俺が最強になるには、核兵器を超えなければならないということだ。うん、ヤバい。ちょっと想像がつかない。こんな森の端っこで、自分より大きな岩を破壊してキャッキャとはしゃいでいる程度じゃ絶対無理だ。最低でもこの森や村をまとめて焼き払えるくらいじゃないとドラゴンには全然及ばない。わけがわからない。本当に他の異世界転生者はドラゴン倒してるのだろうか。 いや、世界毎に強さが違うって解るけどさ。核兵器みたいなことほんとにできるのか? できるとしてどうやるんだよ。魔法バゴーンってやればそうなるのか。やっぱり想像がつかない。
いかんな。今の俺は弱気になっている。それは俺の持ち味じゃない。もっと強気に、前向きにいかねば。引かず臆さず疑わずだ。俺は自分の道を歩くだけだ。
俺が決意を固めていると、この場に闖入者が現れた。
「なんか大きな音とか叫び声とか聞こえたけど、ライルくんまた八つ当たりしてたんだ」
「八つ当たりとはなんだ。八つ当たりとは。これは岩砕拳の極意を岩に殴りかけていたんだ。八つ当たりなどしていないわ」
その生意気が服を着た女は、俺の良き幼馴染だった人物、ラナである。
「えー、でもライルくん、ちょっと前に私に負けた時もそういうことしてたじゃん。今回もそうじゃないの?」
そう、『だった』だ。今のこいつはクソ生意気なメスガキになってしまっている。有り体に言って調子に乗っているのだ。そしてこいつこそが、俺を後ろ向きにする最大の原因だ。
「負けたってなんだ! 数週間も前のことをまだネチネチと言いやがって! お前に戦士としての誇りはないのか!?」
「数週間って、ほんの十日前じゃん。そんな経ってないよ。ライルくんこそ、全然負けとか認めないし。誇りはないの? って私は聞きたいよ」
ラナとの闘いにおける俺の無敗記録であるが、それはもう一年も前に止まってしまった。6歳の頃から俺に追いつき始める兆しを見せていたラナだが、それから月日が経つ毎に、俺との差をだんだんと着実に縮めていった。そんでなんとか逃げるように無敗記録を更新していった俺であるが、去年ついに追いつかれてしまった。その当時の俺は、不思議とそれほどの悔しさはなかった。抱いた感想は『ついにこの時が来てしまったか』だった。
それを思い出す度に、俺は自分に対して情けなさを感じた。だって最強とか天才とか神童とか主人公とか神とか、色々自分のことを大袈裟に誉めそやしてたのにこれだ。こんなどこにでもいそうなただの幼馴染に敗北したのだ。そんでその敗北に納得してしまっていたのだ。それを自覚した俺は暴れた。暴れて叫んで喚いて走って、村の東にある森の中を抜けて、さらに先にある山脈へと全速力で突っ込んでいった。まあ、そこで怖い思いをしたのですぐに帰ってきたのだが。
とにかく、俺はラナに負けたままではいられなかった。自らを鍛え直すことに決めたのだ。それでそれからちょくちょくラナに挑んでいるが、勝率は八割だ、ラナの。嘘やん。十回戦って二回しか勝ててない。しかも勝てた二回は最初の三回のうちの二回だ。現在七連敗中である。終わりやね。
そんで負ける度に再修行を繰り返している俺は、ラナとの闘い自体がこの一年でグンと減っている。前回闘ったのは十日前で、その前が二ヶ月くらい前だ。つまり俺は前回五十日ぶりの挑戦で敗北したのだ。鍛え直したのに。おかしいだろ! なんでこんな強いんだよ! ドーピングしてんのか! 助けろWADA!
「それで誇りあるライルくんは、なんで今日は八つ当たりしてたの? 私に話してごらんなさい」
うぜー。こいつほんとこの一年でうざくなったわ。なんか急に年上ぶってくるんだもん。マジでうぜえわ。つーか性格変わりすぎだろ。以前のラナさんはどこ行ったんだよ。あの引っ込み思案だけど、根性と優しさを併せ持った初期のラナさんを返してくれよ。
こいつ性格も変わったけど、容姿も普通に変わったんだよな。以前は顔中にそばかすつけたドブスだったのに、なぜかそれが全部綺麗サッパリ消え去ってるし、意味がわからん。絶対おかしいわ。整形疑うレベルだわ。んでこいつ自分の容姿に自信持ったのか、こんな態度取ってくるし、マジでうっぜえわ。可愛くなっても可愛げは無くなったわ。憎さ生じてウザさ百倍だわ。
この現在のラナさんは、強くて頭が良くてカッコ可愛いと、下級生に大変人気がある。番長の俺がいるのに、裏番みたいな扱いを受けてる。特にラナの強さを知ってる同級の連中から。
俺は憂さ晴らしも済んだため、スランプから脱するために、このドウザラナをボコすことを決意する。
「話して欲しかったら俺に勝ってみろや。通算だと借金地獄のお前が俺より上に立とうなんざ百億万年早いわ。完済してからそうしろや」
「はいはい。分かりましたよ、七連敗中のライルくん。あ、間違えた。八連敗になるライルくん」
「ぶっ殺す」
俺とラナの死闘が、今始まった。
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