第8話 2022年9月15日
人の皮を纏ったばかりの私は、その高校生活の中において、いくつかの失敗もありましたが、基本的には、上手に生きました。
あの、中学では全く人と喋ることがなかった少年が、例えば授業間の十分休憩がくれば、近くのクラスメートたちに対して、不意に、
「教科書の37ページを開いてやぁ」
と、数学を担当している先生の独特な語尾を真似て、言います。
帰りの自転車で、クラスメートのひとりが、
「ラーメン食いてえな」
と言えば、
「あああん! 行くっきゃないっしょおおお!」
と、奇声じみた声をあげ、前方に向かって勢いよく自転車を漕ぎます。
学生のノリ。冷静に、第三者の目から、これらの奇行を想像すると、なんでしょう、見ても聞いてもいられないほど、さぶく、とてもつまらないことのように感じられますが、しかし、学生のノリです。こんなことが、腹を抱えるほど笑えることもあるのです。
実際、皆、私の行動に笑い、私は、いわゆる、クラス内のカースト、というのでしょうか、それの上に、いや、少なくとも、下ではない位置に、早くも収まっていました。
全て、演技です。
さなぎのころに、学んだからです。
利口で優しく、物静かな人間は、淘汰される、と。
時には虐めという暴力すら辞さず、徹底的に排除する。あるいは、排除をすることで快楽を得る人間がいる、と。
何が高校生。中学から一歩大人になり、入学式の日、檀上の私を、これから俺達は高校生だ、と、まるで芯から決意してみせるような、そんな凛々しい顔々を見せていた同級生たちは、また、虐めをします。
普段、私が先生のモノマネを見せたら、オウムのように、別の同級生が真似て見せて、また、笑って、そんな、絵に描いたような男子校の青春を謳歌していた人間たちが、ひとりのクラスメートを迫害します。
「アイツ無視しようぜ。キモイから」
です。
あぁ、女々しい! 鳥肌!
虐めの対象は時期によって人を変え、三年間、トータルでは五名ほどが餌食になったと記憶してます。
私は、参加しました。
はい。参加したのです。
内心の良心が破壊されていく音を聴きながら、です。(こんなことをいうと、自己の正当化が過ぎると、怒られそうですが)
だって、それが人間じゃないですか。
ずっと、そうでしたよ。
私が社会人になったら、オタク気質が感じられるブ男は引かれてましたし、失敗ばかりの阿呆は誰にも相手をされず、ひとりデスクに座ってましたよ。
何よりも、中学のころの私がそう。
当たり前の差別を、大した悪気もなく執行するのが、人間じゃないですか。
……。
あぁ、私は、なんて愚かな動物なのでしょう。
書きながら、少し気分が悪くなってきました。
人間に絶望したからと言って、自分もそんな人間になってやると言って、だから虐めに参加しました、僕は悪くないでしょ? だなんて。
こんな、人間への罵詈雑言、言わなければいいんです。
本来、誰も、触れなくていいことなのです。
粗を探せばきりがない。
陰鬱なことなど考えず、愚行を重ねながらも、ないことにして、自分だって本来人にものを言える立場じゃないとかは気にせず、好きな時に怒り、自然と迫害し、個人だけが幸せに生きればいいのです。それで世界は成り立っているのです。
自分は仕事を頑張っている、あるいは出来る方だ、だから働いていない人間を馬鹿にしていい。その迫害に罪は無い!
先方がバカなミスをした、だから怒っていい。自分だってミスはするけど!
自分のことを棚に上げる。
自己愛。
ふたつの、人間が持って生まれる習性。
私には、それが、ない。
理解出来ない。
だからこそ、そんな人間の習性に絶望してしまい、憎しみが湧き、人間の皮を被るという判断に至ってしまいました。
ヒーローになれば、よかったですか。
中学の虐めを乗り越えた私は、高校での虐めを見たならば、黄色のマントでも背中に纏い、青色のスーツを着て、颯爽と現れればよかったですか。
出来るわけないじゃないですか。(恰好はただの比喩ですが)
それは、決して、そんなことをしたらまた迫害されてしまうから、という理由ではありません。
あくまで人間が、憎かったからなのです。
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