第2話 遭遇と出会い

「グオォォォ!!!」

「え?」


 外に出た途端、巨大なクマの咆哮で木々が薙ぎ倒され、衝撃で飛んできた大木に身体を打ち付けて私は死んだ。


「最悪……」


 今度の生は死なない予定だったのにまさか初歩で死んでしまうなんて……。


 今までのバリアは接触していない全てのものを対象に消滅させるものだったから、油断していた。バリアは貫通すれども小屋には一切ダメージはない。

 通常であれば1日小屋で過ごして残機を増やして生きるのが良い。ただ、少しだけしか経ってないけど、今までと違うのはよく分かる。だから危険を犯してでも探索に行かなくちゃいけない。


 まずはこの邪魔な大木を退かして……。退か……ハァハァ。


「ぐぬぬ……んしょ」


 力不足で隙間を縫って出るしか無かった。ポジティブに考えればバリケードになったといえよう。


「ポイッ」


 私の投げた木の枝はそのままバリア内に入っていった……訳ではなくそのまま消滅した。


「厄介すぎるでしょ……」


 暫定的に敵の攻撃による物は入ってきて味方の投げた物は入っていかないって、厄介にも程がある。


「よし……よし……ポイッ……よしっと」


 一度接触して入った物であれば外に持ち出して再度投げ入れても消えないようだ。


 さて、私の死体はゴミ箱に入れて、探索を開始するとしよう。大木は所有物になってないみたいでゴミ箱に入れられないようだった。




 バリアは3日でエネルギーが切れ始める……が、さっきのような事もあるため、短い可能性も考慮に入れておく。バリアのエネルギーは今のところ10万。エネルギー貯蓄量は5000。いらない物はゴミ箱に入れてエネルギーを貯めておくべきなんだけど、死体が効率が良いっていうのがほんとアレ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ユミリア・フォース 女 e10歳

種族:人間 レベル1


〈基礎値〉

筋力:1(↓5)

耐久:1

敏捷:1

器用:1

運 :1


魔力量:1(↓1)

魔力質:Y(↑1)


〈職業〉

『王女』レベル0


〈スキル〉

『衝撃耐性』レベル1(New!)

『精神耐性』レベル1(New!)


〈恩恵〉

『王家のプライド+』(0)

『不滅の魂+3』

『不変の姿+』

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 せっかく上げたステータスが戻っている。魔力質は上がっているが……魂に依存するらしい。それなら転生しても変わるなよって思うが……欲してもしょうがない。恩恵は上がってるからまあ良しとしよう。


 トレーニングし直す時間もないしこのまま進む。っていうか疲労が残ってるのもほんとダメ。




 キノコを抱えてはバリア内に運び、また抱えては運びを繰り返す。一度に持てる量には限界があるから無理せず慎重に。

 バッグや剥ぎ取り用のナイフ、防具といったものがないのも最初との違いだろう。


 日が沈みかけてきた頃、ようやく無害な敵と出会った。というのもひたすら害のある敵を避けてただけだけど。

 クマは勿論のこと、集団で襲われると厄介なゴブリンやウルフは避けてきた。おかげで潜伏スキルはゲットして3になっている。


「よしよーし」


 出会った敵、スライムを撫でる。……撫でるというより撫で回す感じになっているが、仕方ないだろう。

 ここ最近、ペットと戯れる暇なんて無かったのだから。


 そのおかげか、割と早く懐柔できた。


「ピュ?」


 私を気に入ってくれているのは分かるも、中々契約に至れない。


「もしかして……」


 そう思い、素早く小屋とのリンクをスライムと入れ替えて元に戻す。


《スキル『魔力注入』を獲得しました》


 そういうの良いから。


 今のでスライムに魔力があるのは確認出来たけど、契約が出来ないか……。やっぱり私がテイムを獲得するしか無いのかな?

 テイマーは私が最も素質のある職業で、自信があったんだけど……。死なせないように気を付けよう。


 サモナーと組み合わせると召喚枠に組み込んで、死んでも時間さえ経てば復活出来るんだけど……。それも厳しそうだ。


 とりあえず頭に乗せる……と衝撃で死にそうだから胸に抱える。


 ムニムニムニムニ……。どうしてスライムってこんなに柔らかいんだろう。この柔らかさがとても癖になる。




「ここで待っててね。このバリアの中なら走り回ってて良いからね。あと誰も居なかったらこの外に集めてるのをバリアの中に入れてもらえると助かるなぁ」


 スライムを抱えたまま入り、小屋に登録を済ませ、物を持たせて出入りをさせてアイテムが消滅しないのを確認した後、スライムに頼む。


「んー。スライムだと呼びづらいからスラちゃんね」


 名前が変わる可能性があるけどスラちゃんでいこう。昔の仲間と合流出来たらその時はその時だ。まあ……この雰囲気だと記憶持ってない可能性の方が高いけど。


「ピュイ!」


 元気な返事だ。走り回って、願わくば敏捷が上がればといったところ。今の私だと逃げるしか出来ないから。


 そしてスラちゃん以外は仲良くはするけど、犠牲にはすると思う。そうしないと……生き残れないから……。


「「「ピュ?」」」


 そう考えてるうちに3体も!! あーもう! Aちゃん、Bちゃん、Cちゃんね! Aちゃんだけ頭に乗っけよう。後は歩いてもらう。


 水さえあれば分裂出来るはずだけど、貴重なエネルギーを水に使うかどうか……。一応エネルギーはバリアの他に携帯食糧や水、壊れかけの装備といった物に交換出来るけど……正直バリア以外は要らない気がする。


「ワウ!」


 あーあ、ついに出会ってしまったウルフ。1体だけならなんとかなるか?


「ワウウ……!」

「……よしよーし」


 ゆっくりと近付いて頭を撫でる。テイムは出来なくてもテイムする為の技術は身体が覚えてる。相当ステータスが離れてなければ大丈夫なはず。後は近付ければ……ね。

 今回は足を怪我しているようで、後ろに回り込んで撫で落とした。


「ワウ!」


 Bちゃんに怪我してる方の足にくっついてもらう。動きは遅いものの、歩けるようにはなった。


 そして暗くなる前に小屋に戻る。


「おおー」


 誇らしげに身体を伸ばしているスラちゃん。どうやら全部中に入れてくれたらしい。


「大木はどうしたの?」

「ピュー!」


 私がそう言うと吐き出してくれた。


「ピュ?」

「適当なところ置いといていいよ? 他に入らなくなるでしょ?」

「ピュー!!」


 すると、バリア内にあるものを全部飲み込んでくれた。どうやらスラちゃんの体内倉庫はだいぶ大きいらしい。


 Aちゃん、Bちゃん、Cちゃんも試してみたけど、大木の時点でダメだった。


「適当に休んじゃっていいからね」


私は勿論トレーニングをする。疲れては休憩し、また疲れては休憩し……そうして朝を迎える予定だ。眠れない子には技を教え、吸収出来そうならその子にあったものを教える。

 なお、スラちゃんは合う合わないに限らず全部。スパルタかもしれないが、これから生きていく上では必要だから仕方ない。


 ウルフちゃん……あー名前付けてなかった。


「あなたはフリルね」

「ワウ!」


 改めてフリルには噛みつきの練習をしてもらっている。私が運んで敵を噛ませる戦法を足が治るまで使うからだ。これだと私の筋力アップにも繋がるしね。

 問題は足が治るのが早いか私が持って走れるようになるのが早いかだけど……どちらにせよ良いかな。後者は夜練習すれば良いし。


「あ」

「ピュウ!?」


 スラちゃんの身体が発光した。


「ダメっ」


 核を抑え、進化をキャンセルする。


「スラちゃんとフリルは身体が光っても我慢してね。あなた達は種族で一番強くするつもりだから、言うことを聞いてね?」


 とある特殊進化の為、相当長い期間進化しないでいる必要がある。進化してもなれるっちゃなれるけど、素の状態の方が長期的に見れば獲得できるスキルが多いからだ。

 進化によって得意、不得意が出来るけど、素の状態の方は良い意味でも悪い意味でもほとんど習得出来る。


 それに特殊進化ルートを辿ると他の進化ルートも辿れるようになる。それは一度進化したら二度と獲得出来ないような進化もだ。

 そこら辺は回帰前に実証済み。人間以外で一番長く一緒に居たのがスライムだから、手に取るように分かるんだ。


「ピュ!」

「ワウ!」


 そして私はまたトレーニングを再開した。

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