第17話 千歳ルート3


「でも結局なんも方法決まってないんだよねー……鬱」

「それをこれから考えるんでしょう。何言ってるんですか」


 会議室でぼやくと、卜部に辛辣だが的確なことを言われた。彼女は機嫌が良いほど辛辣なことを言うので、今日はまずまず機嫌が良いようだ。

 少し待つと宮沢が部屋に入ってきて、これで部屋の中には卜部と千歳、三上と宮沢の四人がそろった。


「待たせてすまない。では、対策会議を始めようか」


 席に着くとさっそく宮沢が宣言する。

 昨日、宮沢に戦う意思を伝えると、検討の進捗状況を教えてくれることになった。千歳の意見も聞きたいとのことだったので対策会議と銘打って集まることにしたのだ。


「じゃあ前提情報の統一も兼ねて最初にこれまでの経緯を軽くまとめておこうか。千歳くんルートの宿敵、【名称解析不能二三〇一】。当初、予知では千歳くんが宿敵を討伐したところが見えていたが、その先の展開があった。千歳くんが倒したのは神的存在であり、代わりに千歳くんが神的存在になる必要があると」


 改めて聞くと無茶なストーリーラインだ。

 大体、これまで相手してきた千歳自身の敵はどれも平凡な感じだった。友人の敵の方がよっぽど記憶に残っているくらいだ。とても神に関係する敵とは思えない。


「で、こちらが現状考えている作戦について説明したいんだけど、最初に予知内容について詳しく話しておこうか。予知の再現図を見てもらいたいんだけど、千歳くん大丈夫かな?」


 膝の上でぎゅっとこぶしを握る。


 予知は基本的に、予知能力者の頭の中で映像、もしくは静止画として提示される。その状態だと能力者本人に口で説明してもらうことでしか情報が得られず、解析もやりづらい。そこで予知能力者の脳内イメージを精神系・念写系の能力者が画像にして再現する。そうしてできあがるのが予知の再現図である。


 前の予知結果は見たことがあったが、未来が変わってから直接見たことはまだない。


「はい、お願いします」


 でもそれに立ち向かうと決めた。


 卜部が手元のノートパソコンを操作すると、その近くにあった移動式のモニターに画像が映る。彼女は意外と機械に明るい。


 映ったのは一枚の静止画。くすんだ白の背景の中央に、巨大な人型の白いなにものかが鎮座している。これが宿敵だ。背中から白い枝のようなものが何本も生えている。シルエットはわかるが、全体的に靄がかかって見えて詳細はよくわからない。

 そしてその手前に、銃を構えた人影。顔が見えるわけではないが、千歳はこれが自分だとわかった。


「この画像は見たことある……っていうか、前に見せてもらったのとあんまり変わんないですね」


 てっきりもっとショッキングな画像だろうと思っていたので拍子抜けしてしまった。

 ただ、卜部は動画で未来が見える。動画の場合、全体を再現するのは難しいので重要なシーンを切り取って再現図を作成するため、他にも何枚かあるのだろう。


「そうだね。前の図と比べると、少し敵の造形がはっきり見えるようになっているくらいかな。卜部、次にいってもらっていい?」

「はいはい」


 卜部がパソコンを操作すると表示画像が切り替わる。


 先程の画像と大きく違うのは、奥にいた宿敵がいないこと。いや、よく見ると地面に何か巨大な卵の殻のような破片が散らばっているので、おそらく倒された後なのではないか。地面が水色の液体で浸されているのもさっきと違う点だ。


 そして手前の人影がより大きく映っている。持っていたはずの銃が地面に落ち、その右手がなぜか白く染まっていた。


「これが討伐後の図。現在完成している再現図は以上の二枚だ。この続きは予知能力者に聞き取り調査させてもらって情報だけはまとめてあるんだけど」

「では私から説明します。よろしいですか?」


 卜部が小さく手を上げる。


「あぁ、うん。ほとんど卜部の予知から得られた情報だしね。よろしく頼むよ」


 彼女の予知能力は全能力者の中でも随一の性能を持つ。予知に精度という指標は存在しないが、得られる情報量が違う。

 普通の予知能力者では静止画、あるいは断片的な映像として未来が見えるが、卜部の場合は映画のワンシーンのようにかなり長い連続した光景が見えるらしい。


「予知では最初に、千歳が何かに話しかけられているところが見えました。その会話内容や誰と話しているのかはノイズが多くてよくわからなかったです」


 予知では、よく霞がかってみえたりノイズが走ったりするそうだ。まるで情報量を制限するようで、実際予知で見えなかったところが重要になることが多い。


「そのあと千歳が魔法で敵を倒すと、敵はばらばらに砕けます。それで、千歳の右手のところが白くなります。この画像でも見えますね」


 卜部はパソコンを操作して一部を拡大する。


「その白いところがどんどん広がっていって、さらに床からへんな水みたいなのが出てきて、どんどん水位が上がっていくところまで見えました。予知で分かったのはそんな感じです」

「へー……」


 相槌を打とうとして間抜けな声が出た。想像がつきづらいというか、よくわからないというのが正直な感想だ。


「え、ていうかそれでなんで俺が神になるとかならないとか分かったの?」


 説明された中では千歳の体が白くなっていくだけだ。確かに宿敵と同じ色に体が変色していくので、相手と同じ存在になって役割を交代するのだと言われればまぁそういう展開もあり得るだろうと思えるが、そんなノリで宮沢たちが判断するわけがない。


 聞くと、なぜか卜部に睨まれた。彼女は睨んだままで口を開く。


「千歳が倒す前に言ったんです。「俺が神になってみんなを救うよ」って」


 なんともコメントしづらい。


「わー……すげー言いそう」


 三上が声を漏らすと、卜部が大きく頷いた。


「ちょ、そんなことないでしょ」

「なら絶対言わないでください。絶対ですよ」


 卜部の圧が強くて思わずうなずかされてしまった。苦笑いの宮沢が話を繋ぐ。


「それだけじゃなく、敵の形状が前例と似ていたというのも判断材料だよ」


 卜部がパソコンを操作して画面を変える。

 灰色の空間の中に、濃い灰色の巨大な人型がある。ぼやけていてよく見えないし色も違うが、その敵に既視感があった。


「ありがとう卜部。これは数年前に他国で作成された予知の再現図。このルートの宿敵も神的存在とされているね」

「雰囲気似てますね……」

「ぼやけてるからじゃないか?」


 三上は冷静なことを言っているが感覚でわかった。これは自分の宿敵と同種の存在だと。


「このルートでも予知で何者かと主人公が会話している様子が観測されている。かなり断片的だが、「神」「代わり」「消える」などの単語が聞こえたらしい。まぁ、そもそも誰と会話していたかもわからないし、相手の声は一切聞こえていないんだが……」

「私の予知でも千歳以外の声は聞こえませんでした。もしかしたら錯乱した千歳の独り言かも」

「そ、そうだったら逆にいいんだけどね」


 自分が錯乱しているだけだったら一番いいが、それだったら人騒がせな感じになってしまうのでちょっと嫌だ。


「ちなみにこの人は、どうなったんですか」


 三上が尋ねる。

 それについては千歳も興味があった。怖さもあったが聞いておくべきだ。


「……彼は結局一人で宿敵に挑んだようだ。異界への入口のようなものが現れ、彼が入るとそこが閉じて、以降連絡が取れなくなった。今も帰ってきていなくて、行方不明だそうだ」


 そうだろうとは思っていたが、実際に聞くとやはり多少ショックを受けた。解決できていたのならその時の解法について詳細に話してくれるだろう。

 実際に神になるのがどういうことなのかまだ分からないが、少なくとも帰って来れないならこれまでの生活を送れないことになる。それでは、死んだのとそんなに変わらない。


「そうですか……」

「先行事例があるのは歓迎すべきことだ。少なくとも情報が手に入る」


 宮沢がしっかりとした口調でそういってくれて少し気分が晴れた。そうとらえるほうが建設的だろう。


「正直我々も神という存在についてよくわかっていないし、我々が宗教上で想像する神とは全く違うベクトルの存在である可能性も高い。勝てない相手かどうかは、まだわからないからね」

「そうですよ、千歳。そもそも私の予知なんて全然当たらないんですからね」


 確かに予知を受けて対策を取り、負けるはずだった敵に勝つことがほとんどだ。しかしそれを卜部が言うとちょっと面白い。

 続いて前例のさらに詳しい情報を教えてもらうことになった。


「こちらの予知の場合でも、主人公の手が灰色に変色している。彼は左手だけどね。宿敵状の性質に変形しているとされていて、その原因としては彼の能力の影響が考えられるそうだ」

「能力の? 宿敵から攻撃を受けたとかじゃないんですか?」

「うん。彼は複数系統の能力を混合して使うタイプの能力者だったらしい。体内で能力を形成して発射することで能力を発動するイメージを持っていて、それは主に彼の利き手である左手で行われていた」


 思わず自分の右手を抑えた。彼と千歳の能力は似ている。複数の要素を組み合わせて魔法を体内で構築し射出する。


「体内で能力を生成するイメージを持つ能力者の共通点として、その能力の性質が体に多少影響することがある。例えば発火能力者だと熱さを感じて大量の汗をかいたりだとかね」


 千歳自身も氷系統の魔法を連続して使うと手が冷たく感じるので、その類だろう。


「その延長で、神的存在に関する属性の能力を使うと体にも影響が出るのではないか、宿敵を打ち倒すほどの強度で使用することで体全体が神と同等の属性へ変化するのではないかと――――これはあくまで推測に過ぎないがね」


 神的属性の魔法なんてこれまで使ったことがない。


 それでも、神と対峙しさえすれば自分になら使えるだろうと確信がある。思えばこれまでの敵も、新しい魔法の構成要素を使えるようになることで倒してきた気がする。それを一瞬で出来てしまっていたのであまり考えたことがなかっただけで。


 そして話は肝心の解決方法へと移る。


「まずこちらで検討中の方針について説明しよう。本来想定されているシナリオは、千歳君が神を倒してその過程で神となるという流れだと推測される。ここで疑問になるのは、なぜ千歳君が神にならないといけないのかってことだ」

「はぁ……代わりが必要だからとかじゃないんですかね?」


 それくらいしか考えられない。


「うん、一番可能性が高いのはそれだね。その場合、おそらく現在の神は故障しつつあるか寿命を迎えようとしていると考えられる。だから直す」


 宮沢はまっすぐに千歳を見据えた。


「神を修復し、存在し続けてもらう。これが我々の考えている中で最有力の計画だ」


 一言で表せるプラン。だが、引っかかるところは多い。


「えっと、そもそも……神的存在を修復するとかできるんですかね?」


 一番気になったところを指摘すると、宮沢は顔をしかめた。


「そう、そこの予想がつかないところがこの計画の最大の難点で……というか、もうこんなこと言ったら計画だなんて言えないかもしれないけど」


 なぜか彼は勝手に落ち込みだす。責任感が強そうなので、不安定な作戦しか立案できないことを歯がゆく思っているのかもしれない。


「宮沢、そもそも宿敵戦は全部行き当たりばったりじゃないですか。今更そんなこと言って何がしたいんです?」


 卜部が苛々した様子で突っ込みを入れる。


「そうですよ。不確定な要素が多いのはいつものことですし。それでも万全の準備を整えようとしてくれる宮沢さんたちのこと信頼してるんで」


 慰めもあったがほとんど本心だ。宿敵戦は事前に対策を取ろうが無駄になることも多い。

 もちろん八房たちのように順当に倒せる場合もあるが、柊木のように予測不可能な要素がやってみて初めて見つかる場合もある。

 予知や分析で得られる情報は、こちらが有利になりすぎないように調整されているのではないかという話も真剣に研究されているくらいだ。


「……申し訳ない。話を続けるね」


 宮沢は顔を引き締め直して息を吸った。


「神的存在を修復できるか否かは未知数だ。だが、回復能力によって敵を修復する実験は過去に成功しているし、建物などの無機物も直せるから、神が実体として存在しているなら可能であろう、というのが研究部の見解なんだが、実際どう思う?」


 話を振られたので、首を傾げつつ回答する。


「いや……想像つかないですね……」

「千歳くんは物体の損傷や簡単な怪我なら治せるだろう。それの延長線上ということで」

「ま、まぁ、でも本当に簡単なのだけですし」


 能力的には可能というだけだ。時々訓練でやっているだけで、実践で使ったことはほとんどないし治療班のようにはいかない。


「正直あんまり自信がないです。苦手分野ですし、相手が相手なので、試してみないと」

「そうだよね。そこでもう一つ提案がある。神的存在を人間に近い存在にできたら、勝率は上がりそうかな?」


 質問の意図が読めず困惑しながらも、率直に答える。


「そうですね、もうちょっと回復魔法の訓練したら、人間ならある程度治せると思いますけど。でも神的存在を人間にするとかは、多分俺の魔法じゃできないですよ」


 言いながらもしかして人間にするのも魔法で出来ると思われているんじゃないかと考え付け加えた。


 できるイメージが湧かない。そもそも普段魔法を使うときは、敵と対面したら自然に相手の弱点属性が思い浮かぶ。おそらく一種の分析能力で、相手の属性を無意識に解析しているのだろうと以前言われたことがある。


 しかし、人間と向かい合ったところでなんの弱点も思いつかないのだ。いや、人間は弱すぎるから何の魔法を叩きこんでも倒せるだろうと言われたらそれまでなのだが、自分の魔法には人間に対応するような構成要素が備わっていないのではないかと感じている。つまり【氷】とか【炎】とか【拘束】はあっても、【人間】はないみたいな感覚だ。


「諧さんの能力だったらそれができるんじゃないかな?」


 宮沢の言葉に、はっと息をのんだ。


「諧さんの能力は相手に正々堂々を要求する能力。ざっくり言うと敵や攻撃を、彼女の攻撃が通用する性質に変容させてしまう力だ。以前彼女は、斬りやすそうな素材にならなんにでも変質させられると言っていた。しかし印象が似ている素材に変質させる方がやりやすく――――人型の敵なら、人間に近づけているそうだ」


 そのことは以前から知っていた。彼女が堅そうな鎧も小さな刀で一刀両断にできるのはこの能力が原因だと。


「それこそ諧ちゃんに聞いてみないとわかんないですけど」


 しかし彼女なら「出来る」と言いそうだ。自信満々に言い切る姿が想像できる。


「この後諧さんにも打診してみるつもりだよ。これが出来るなら作戦の幅は大きく広がる。まず神を人間にして修復し、再度神に戻す」

「でも、神に戻すのはどうやってやるんですか?」

「そうそう、それを千歳くんが出来るかどうかも聞きたかったんだ。どう思う?」

「えぇ……まぁ、自分が神になっちゃうってことは神的存在に関する要素を使えてるってことだから……神と会えばできるかも、です」


 【氷】の魔法を使えば手が冷たい。なら、神になってしまうなら【神】の魔法を使っているのだろう。


「つか、千歳っていつも敵を倒すとき、敵と正反対の要素を組み合わせることで倒してるんだろ。じゃあ神を倒すんだったら神と反対の要素を使うんじゃないのか? ……神と反対の要素って何?」


 三上は自分で言っておいて訳が分からなくなっているらしい。なんだかおかしくて笑いそうになった。


「そこは研究部でも疑問が出てたな。最強属性には最強をぶつけるんじゃないか、みたいな意見が出てはいたけど冗談に近いね」

「「ドラゴンの弱点はドラゴンじゃん?」って騒いでる馬鹿もいましたね」


 卜部が鬱陶しそうな顔で付け加える。


「あとはそもそも神になることが目的で魔法を使うから、宿敵を倒すのは儀式的なものでしかないのでは、みたいな意見もあったね。崩壊しつつあるという説が正しいなら倒さなくても自然と消滅するわけだし、自分で自分を壊したのかもしれないと」


 割とどちらもありそうだ。


「えーっと、話を戻すんですけど、俺が修復したやつを神に戻したとして、神関係の魔法を使ったら俺も神っぽいやつになってしまうと思うんですけど」

「そうしたら、諧さんに人間へ戻してもらう。そうすれば、神は別で存在するし千歳くんは人間に戻れるだろう」


 案外、希望が見えてきた気がする。

 自分が半ばあきらめていた間も、諦めず考え続けてくれた人がいるのだと知ると心強く感じた。


「……あと問題なのは、多分隔離型の異界だってことですよね。そもそも、諧さんが入ることができないんじゃないですか」


 三上がためらいがちに意見を言う。確かにその視点は抜けていた。

 異界には様々なタイプがあり、最初に入った人や特定の人にしか入れない異界もある。勿論八房の時のように誰でも行き来できる異界の場合もあるが。

 しかし前例から見れば、一度入ったら出入り不可能な隔離型の異界である確率が高い。


「その可能性もある。だが隔離型でも、異界に入るときに一緒に入ることができればルート外の人間が戦闘に参加できた例もあるし……もちろん諧さんの同意が必要だがね。かなり危険な作戦だ」


 彼女ならきっと一緒に行くと言ってくれるだろうが、意思確認は必要だ。本当は直接話したいが、そういう訳にはいかないので宮沢にお願いした。


「あとは空間移動系能力者にも協力をお願いしてみるつもりだよ。入口が閉じてしまうから線での移動はできないが、点での移動ならできるかもしれない」

「おぉ……瞬間移動とかって見えない場所に人を移動させるの、やっちゃいけないんじゃないですか?」


 瞬間移動は便利な能力だが、移動先座標の設定を少しミスると壁にめり込んだりする。物資なら笑い話で済むが人間だと重大な事故になるので、移動先が目視できる場所での使用が推奨されていると友人から聞いたことがある。


「条件を満たせば見えない場所に移動できる能力者もいる。都市間をつないでいる緊急用のワープホールがあるって話は聞いたことがあるだろう?」

「あぁ、なかなか使わせてもらえないやつですね」


 三つの都市を自由に行き来できるポイントがあるというのは有名な話だ。しかし使ったことがある人にはお目にかかったことがない。大体都市間の移動はヘリだ。


「あれは第一都市の能力者によるものなんだが、自分の体の一部――――髪の毛だとかがあるところであれば遠隔地にもワープホールを作成できる。だから千歳くんにその一部を持って行ってもらえば、異界の中でもワープホールが作れるかもしれない」

「すげぇ」


 本来自分の近くにしか作れなかったが、切り離した体の一部も自分の体だと解釈を拡大して遠隔地でも発動できるようになったらしい。


「しかし、問題はまだまだある。諧さんと千歳くんの敵を討伐する順番だ」

「順番ですか?」

「そう。討伐完了後、主人公たちは能力を失う。大体は徐々に弱まっていく形だけど、突然能力が使えなくなるケースもある。千歳くんの敵を先に処理して千歳くんが能力を失った場合、諧さんは敵に一人で挑まなきゃいけない。もし千歳くんの能力が討伐に必要だったら、困ったことになる」

「そうですね……」


 神になることを回避する以外にも意外と懸念点は多い。


「あとは千歳くんたちが宿敵戦に挑む時、混線した他のルートの敵がどうなるかだね。二人がメインだと認識されているルートも結構あるから、もしかしたら一緒に出てきてしまうかも」


 千歳と諧が混線した以外にも、以前様々な敵をやたら倒しまわっていたせいで混線しているルートがいくつもあった。そのうち何個かは宿敵を討伐してエンディングを迎えたがまだ残っている。


 元々そのルートの主人公だった人たちが戦闘から離脱することを選ぶと、なぜか自然と千歳たちのイベントに沿って現れるようになったので、そういうルートの宿敵は最終戦前後に出てきそうだ。


「まぁ能力が万全ならそこは問題ないと思いますねー」


 倒すこと自体は簡単にできるだろうし、レベル的には低いから霧島などに手伝ってもらうことも可能と選択肢が多い。


「諧さんの討伐方法はまだ案すら出来上がっていない。こちらについても検討を進めているけど時間がかかりそうだ」


 当面千歳がすることは回復系統魔法の訓練だ。


「勿論準備は万全にする。ただ、結局本番にかける部分が大きいから、千歳くんは心の準備をしっかりしてほしい。あと体調整えて」 

「一番大事なやつですね……わかりました」


 そう答えたものの、もう一つ大事な準備が残っていることに気付いた。


 宿敵を出現させる。準備が追い付かず時間経過により出現するかもしれないが、そうではなく意図的に出現させるとしたら。待っているのは告白だ。

 このようなことに思い煩っている場合ではないのは承知の上で、それでも想像するだけで緊張する。多分どんな風に告白しても諧は笑って受け止めてくれるだろうが、どうせなら事前にちゃんと考えておきたい。


 決意を胸に、彼らは準備期間に入る。

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