第15話 海堂ルート4

 早速、太陽を司る系の能力者を連れてきて朝日が再現できないか試すことになった。夜中に叩き起こされると思うとちょっとかわいそうだが、きっと協力してくれるだろう。


 準備の間、長めの休憩をとることになった。みんなは仮眠に行ったが、短い時間寝るのが苦手なので千歳は起きていることにした。


 さっき飲み物を買いそびれたので改めて買いに行って戻ると、廊下の開けたスペースに海堂がいた。窓際に設置されたベンチに座り、ぼうっと外を眺めている。

 なんとなく声をかけてみる。


「寝ないの?」

「えっ、あぁ……眠れなくて」

「海堂くんが思いついたおかげで討伐進みそうじゃん。すごいね」

「……別に俺がすごいわけじゃないよ」


 彼は目をそらす。


「どうせこのひらめきだって、アーカイブから引っ張ってきてるだけなんだ……俺に価値なんてない」

「……そんなこと言ったら、ひらめかない俺はもっと価値がないってことにならない?」


 海堂のマイナス思考に対して千歳がさらに自虐したことを言うと、彼はおろおろしだした。


「す、すまない、そういう意味じゃ」

「こっちこそごめん。いやー、今ちょっと個人的にいろいろ悩み事があってさ」


 こちらへ来てから忙しくて忘れられていたが、落ち着いた今思い出してしまった。本当は少し、海堂たちが苦しんでいるのを見てほっとしていたのかもしれない。最悪な思考だが、人が自分と同じように悩んでいるのを見ると安心する感情が自分にあるというのは否定できない事実だ。

 でも彼らは前に進みつつある。


「そう……。やっぱり敵のことか?」

「うん。全然倒す方法見つかんないんだよ。どうしたらいいと思う?」


 きわめて軽い調子で聞いてみた。


「どうしたらって……そうだな。勝ち目が一切ないなら逃げればいいんじゃないか。詳しくないのに無責任なことを言うが。俺だったら勝ち目のない戦いなら逃げる。でも、少しでも勝つ目が思いついたら、まぁちょっとは頑張るか、って感じ」

「めっちゃ逃げようとしてたもんね」

「うん、まぁ」

「でも逃げなかった」

「分からない。これから逃げるかも」

「さすがにそれはやめてほしいな」


 冗談交じりにそう言ってみると海堂は苦笑いした。


「まぁ、逃げてる間に何かいい策が思いつくかもしれないし、無理やり勝負するよりとりあえず逃げておくほうがましってこともあるだろ。だから、えーと……ごめん、励ますの苦手で」

「いいよいいよ。俺は励まされるの苦手かも」

「俺もだよ」


 なぜか海堂とちょっと仲良くなれた気がした。


 ***


 着物の丈をいびつに短くしたような白い服を着た少女がビルの上に立つ。そして、神社の人が使う幣っぽいデザインの杖を掲げた。その後ろに立っていた霧島が、能力強化のバフを彼女にかける。


 すると杖の先に、大きな光の丸い塊が現れ、それは空に向かって浮き上がるとあたり一面を照らした。


 照らされた黒いテントウムシのいくつかに、新たな模様が浮き上がる。


 群れの中で一体だけ、黒い表皮の一部がきらきら光っている個体がいた。遠目で見るとわからないが、よく見ると光る部分が水玉模様になっている。海堂の推測通り、それは朝日によってのみ見えるようになる模様だった。


 事前実験で倒す順序は判明した。

 テントウムシたちは、それぞれ太陽系の惑星を模していたのだそうだ。水玉の数はサイズが大きい惑星がより小さくなるようになっており、色はその名前からイメージされるものが使われているのではないかというのが推測だ。例えば緑の水玉が一つのやつは木星、といったように対応しており、朝日によって新たに見つかった個体は、以前惑星から外された冥王星にあたる。

 そして討伐方法は、「太陽からの距離が近い順番に倒していくこと」だった。


「よっしゃ、ここまで来たらあともうちょっとだぜ海堂くん! いっちょ頑張ろうや!」

『はい……頑張ります』


 ここからは海堂にすべて討伐してもらうことになった。全パターン試したときと同様に順番に並べて倒してもらう方法をとり、千歳たちは並べる側に回る。

 そうして夜を徹した殲滅作業が始まった。



 討伐方法が見つかってからは早く、本物の朝日が昇るころにはすべて倒し終わった。

 千歳たちが帰り支度をしていると、疲労でへろへろになった海堂がわざわざお礼を言いに来てくれる。


「ありがとう、霧島さん、千歳くん。なんとお礼を言ったらいいか……もう一回土下座しようか? 俺、土下座得意なんだ」

「いらないいらない」

「お礼は言葉と気持ちで十分さ。遠慮しないで何かあったらまた呼んでくれな!」


 霧島は快活に笑い飛ばす。

 こうして海堂ルートの事件は終結した。


***


 帰りのヘリの中で、眠いはずなのになんとなく眠れないでいた。

 すると、霧島に話しかけられた。


「行きに聞いた相談の話だけどな、大切なことを言い忘れてた」

「なんですか?」

「生きているのが一番大事だぞ。すべてのことはその次だから、死にそうだったら逃げていいんだ」

「……海堂くんにも逃げていいって言われました」

「ははっ、そうだろう」


 霧島からしてもイメージ通りだったらしい。


「あたしの友達は、あたしたちを守るために死んだ」


 霧島のルートはすでに終結している。その中心人物の自己犠牲精神によって。

 そのころ、千歳や諧はまだ能力に目覚めたばかりだったし、その他に有力な能力者はおらず彼女の仲間が最高位だったらしい。霧島が強くなったのもエンディングの後に訓練を積んでレベルを上げたからで、今よりかなり弱かった。

 すべてがどうしようもないことだった。


「そのことが全くあたしは嬉しくない。死んだあと会ったらぶん殴ってやろうと決めてるくらいだ」


 霧島は顔をしかめた。


「千歳が自分を犠牲にして世界を守ってくれても全くうれしくないし、それはお前の周りの人全員がそうだと思う」

「……そう、ですね」


 諧が自分だけで死のうとしていこうとしたとき、自分も同じことを考えたのを思い出す。

 逃げることを海堂と霧島の二人に肯定され、少しほっとした。


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