第14話 海堂ルート3
拠点に戻ると海堂が土下座していた。
「俺のせいで余計な手間をかけさせてしまい申し訳ありませんでした……」
「海堂くん、ほんといいから……気にしなくていいよ」
逆にこっちが気を使うからやめてほしい。
「余計なんかじゃないさ。単純な組み合わせでは倒せないことがわかっただけ進歩だろ。それより海堂くん、今回の結果についてどう思う?」
一緒に戻ってきた霧島が椅子に座りながら言う。
海堂は立ち上がって席に戻ってから発言する。
「……七種の敵を適切な順番で倒すことで討伐できるという可能性がなくなったな、と思います」
「あん? ややこしい言い方するわね。順番は関係ないってことじゃないの?」
隣の陸が海堂に向かってガンを飛ばす。意外にも海堂は怯まない。
「そうとも限らない。……少なくとも可能性の上では、倒す順序が関係しないと決まったわけではない……低くなったとは思うが」
「はぁ」
海堂の言い回しが分かりにくかったのか、陸は曖昧な相槌を打った。
「つまり海堂くんは、模様のないテントウムシも倒す順序に関係あるかもしれないと言いたいのですか?」
空上が海堂に確認を入れると、彼は頷いた。
テントウムシたちは水玉模様を持つ個体七種ワンセットと、それを取り囲むただの黒い個体三十匹ほどで構成されている。
「えっ、黒い方も全部? だとすると……何パターン?」
「少なくともしらみつぶしにやんのは無理だなー。組み合わせ爆発する」
「……俺としては、黒い個体の中に特別な個体がいるかも、と思うのですが……それが何かについては何のアイディアもなくて」
「なるほど。そりゃありそうだな」
木を隠すなら森の中、というように特徴のないテントウムシの中に特殊な個体を隠しているということか。
「んー、でも見てて特に違いなさそうだったけどなぁ。海堂くんはピンとくる個体いた?」
主人公たちの勘は馬鹿に出来ない。ふとした思いつきに見えても、予知や分析能力のようにアーカイブから情報を自然と引き出している可能性があるのだ。大人の研究者が頭をひねって考えてもわからないことでも、主人公は何の根拠もなしに正解を引き当てることができる。
「いえ……すいません」
海堂はしばし考えた後、申し訳なさそうに頭を下げた。
「分かった。じゃあみんなで考えてみようか。なんでもいいから意見を出し合うっていう感じでどうかな?」
霧島の提案にみんなが賛同したため、ブレインストーミング的なやつをすることになった。実際の解法が誰かから出るとは思えないが、何気ない発言が海堂の思考のヒントになったりするかもしれないのでやる価値は十分にある。
三上が書記役を申し出て、移動式のホワイトボードを借りてきて挙がった意見を記入していく。
「こういうのは質じゃなくて量が大事だからな、本当になんでもいいぞ! じゃあ提案者のあたしから――――実は黒いやつの中に、体内に水玉模様があるやつがいるとか!」
「あー……割とありそうですね」
本人はトンデモ系の意見として出していそうだが、ありえない話ではない。
「研究班の方ってそういうのチェックしてくれてるんでしたっけ」
「えーっと……あ、してるみたいだな」
同じ部屋にいた研究員の一人がやってきて、内部まで解体して調べたがなかったと教えてくれた。周りにいる人はこちらを気にしていないようでいて、結構聞き耳立てているらしい。
「逆に、水玉模様じゃなくて黒い個体が重要なんじゃないですか?」
「一つの群れに対する黒い個体の数は一定じゃないらしいので、その可能性は低めかもですね」
「なるほど。群れってどうやって判断してるの?」
「行動で判別しているみたいですね。くっついていたがるので、引き離しても自分の群れに戻っていくらしいです」
「はいはいー。一つの群れだけじゃなく、ほかの群れもセットで倒さなきゃいけないとかどう?」
「……あり得てしまうが、それだったら死ぬな」
「そもそも倒す順序のヒントってホントになにもないのかなぁ」
「テントウムシがモチーフなのには何か意味がありそうですけどね。まぁ前回は関係なかったんですけど……」
「てん、とう……あ、水玉の点が十個の奴だけ倒すとか!」
「あったか? そんな模様のやつ」
「ないわね。うん。あんたもなんか意見言いなさいよ」
「そうだな……点の数は気になる。なぜか五個の点のやつだけいないだろ?」
「良い意見出してんじゃないわよ!」
「理不尽!」
みんなでひたすら検討していて、ヒントになりそうな意見は出ているがまだ核心にはいたっていない。研究員や軍の人たちも考えているらしいが、うまいこといっていないのは雰囲気で分かった。
「あの、よろしければ休憩にしません? 私、ジュースでも買ってきます」
空上の提案で一息入れることになった。誰が買いに行くか決めようと思ったが立候補者が多かったのでいっそのことと全員で行くことにした。歩くのは気分転換になっていい。
会議室を出ると少し空気が涼しい。中にいると気づかないが、かなり熱気がこもっていたようだ。
廊下には窓がついていた。もう午前一時過ぎなので外は当然暗いが、ところどころある街灯に照らされ、円形に浮かび上がるようにテントウムシのうごめきが見える。
「増殖速度が前回より格段に速いですね……」
「へー、そうなんだ」
確かに千歳たちが到着したころにはもう都市はだいぶテントウムシで埋め尽くされていた。
「拠点と避難所の結界強化したらしいからそんなに心配しなくても大丈夫だろ。あたしと千歳で数を減らしてもいいし」
最初にヘリポートが敵に占領されてしまったのは、千歳たちが来るのでヘリが侵入できるよう結界を屋上部分だけ解除してしまっていたかららしい。今は屋上まで結界を張ってあるので、さすがに室内まで入ってくることはないだろう。
「つーかさ、そもそも夜だし模様とかクソ見えづらくない? 無理じゃん」
陸が窓の外を見ながらぽつりとつぶやく。
「……そうか!」
それを聞いた海堂が大きな声を上げた。みんなの視線が彼に集まる。
「わかった、嘘、わかったかもしれない」
「どうでもいいのではやく続きを言ってください」
空上から促される。少々興奮気味な海堂は、落ち着くように唾を飲んだ。
「陸の言う通りだ。この敵を夜倒すのは難しすぎる。俺たちの中にライトアップするような能力者はいないし、懐中電灯で照らすのも無理がある」
海堂はいつもよりはっきりとした口調で、こう続けた。
「朝にしか倒せないんだ、この敵は」
***
急いで会議室に戻り、研究員を交えて続きを話す。
「これは推測でしかないが、太陽光の下でのみ見える模様があるのでは? 夜光塗料の反対のように」
「その可能性は……まぁないではないと思うけど、なんでそう思うの?」
「テントウムシだからだ」
「ん?」
「テントウムシは天道……太陽に向かって飛ぶ虫だからテントウムシという名前なのだ、というのをネットで見たことがある」
「それ本当なの?」
陸がいぶかしげに尋ねる。ネットが情報源というだけで妙に怪しい気がしてしまうのは少し分かる。
「それは後で調べてもらうとして、太陽に関係があるとしたら、太陽光によって答えが得られるというのもありえそうな話だろう」
「あれ、でも出現したのって夕方じゃなかった? その時のテントウムシたちの様子って記録してないのかな」
千歳たちが来た時、薄暗くはあったがまだ完全に日は落ちていなかった。その少し前から出現していたはずなので、太陽光でのみ見える模様があったとしたらその時誰かが気づいたのではないか。
ややあって、研究員から「日没前でも同じ模様しか検出されていない」との返答があった。浮足立っていた雰囲気が少し沈む。
「朝日限定ってのは可能性としてあるんじゃないか。変則的な時間限定型の敵かもしれん」
「あー、それはありえそうですね」
しかし試してみないとわからない。
「俺の考えは確実とは言えないが、確率は高いんじゃないかと俺は思う。……なぜならこのルート、基本バッドエンドが想定されているからだ」
海堂は息を吐く。
「一晩中手を尽くしても解決法が見つからず、虫が一帯を埋め尽くし手遅れになったところで日が昇り正解が露わとなるーーーー俺の心をばきばきに折るのに十分すぎる」
それはこれまでで一番力強い言葉だった。
「……んな弱気なこと自信満々に言ってんじゃないわよ」
代表して陸が突っ込みを入れる。
「でも試すとしてぶっちゃけどうするんです? 結局朝まで待つしかないじゃないですか」
続いて空上が現実的なことを指摘した。この三人組の役割が見えてきた気がする。
「それは……どうしよう」
「俺と霧島さんだったら、まぁ朝まで持たせられるだろうけど」
「正直、これが正解である確証がないんだからできれば今すぐにでも試したほうがいいと思う」
三上が言う。それは正論だった。
霧島もうなずく。
「そうだな、できればそうしたいな。第三都市には太陽を司る能力の使い手とかいたりしないか?」
「あー……」
朝日を再現できる能力者がいれば、朝を待つまでもなく実験ができる。
「さすがにそれはいないんじゃないですか?」
「あっ、います」
いた。
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