第7話マスコット参上

「海浜公園駐車場にはあのJC魔女も車で来るんだろうけど、大学生のお兄ちゃんにでも車出してもらうのかな~、気になんな~」


 僕はヒサメさんの運転する黒のドイツ車の助手席に座っていた。彼女が無免許じゃないことは乗る前に確認したけど、どうして窓ガラスが防弾仕様なんだろう。


「僕ちょっと勉強したんですけど、サキュバスって搾精した相手を奴隷に出来るんですよね」

「あんまりあてにしねえほうがいいぞ~、ネットの情報は」

 シートに背中をあずけ、前を見ながら慣れた様子で運転する上下赤のジャージ姿のヒサメさん。夕方の国道の下り車線はすいていた。


「ハルマはあたいの奴隷じゃないだろ、ごはん食べさせて貰ったら感謝するしかねえ。ちょっと食べ過ぎたか?」

「僕は大丈夫ですけど、この車の元のオーナーって今どこにいるのかなと」


「あんま細かいことは気にしないほうがいいと思うけどな~、ファミレスで見かけたからとりあえず車のカギを奪ったらこの車のカギだった」

「え、車検とかどうなってるんですか」

「通ったんじゃねえのぉ。借りてるだけだから今度訊いてみる」


 デタラメな人だなあ。僕も細かいことは気にしないようにしよう。


 ヒサメさんが運転するドイツ車が海浜公園駐車場に着いたら、クリーム色のワンボックスカーから入鹿コロネが降りてきた。昼間と同じ公立中学校制服姿。家には戻らず、放課後誰かと待ち合わせたのかな、と思っていたら彼女の後ろに人影が。


 身長2メートルはある国籍不明の外国人男性、と思いきや横に尖った耳。人間じゃないのか。白のタンクトップに黒いスラックス。正視できない荒んだ目付き。


「ヒサメさん、知り合いですか?」

「いや~、初めて見る顔だな。コロネちゃん、彼は喧嘩の見届け人か?」

「あたしのマスコットのドルゴーです。魔法のバトンはこのコから受け取りました」


 しばらく彼女の言っていることが理解できず、ぽかんと立ち尽くしてしまった。

「ハルマが昨日の夜舐めたもの、本来はこの妖怪のモノだって」

 ヒサメさんの解説を聞いて吐き気がこみあげた。


「うええ、酷いよ」

「ちょっと我慢してろや、人によってはごほうびなんだから」

「入鹿コロネさん、僕に一体なにをしたいんだよ」

 気を取り直し、抗議してみた。


「ドルゴーがこのやさぐれサキュバスを倒したら、あたしはハルマさんのお尻に入れてラブラブカップル成立ぅ」

 とろけた眼差しで女子中学生が声を上ずらせた。止めてくれ、想像するだけで痛い。


「コロネちゃんよお、なんかあると思ったらおめえ、あたいと戦わねえってのかよ」

「魔女がマスコットを戦わせてなにが悪いんですか?」

 ヒサメさんが僕を後ろに庇い、入鹿コロネと睨み合った。

「中学生はスポーツで発散してろや」

「へえ、中学生の時スポーツで発散してたんだぁ」

「ぐぐっ」

 言い返せず、悔しさで両手の拳を握りしめるヒサメさん。


「めんどくせえ、やってやるよ。手加減はしねえぞ」

「ドルゴー!」


 入鹿コロネが右手をすっと上げると彼女のマスコットがのっそりと巨躯を動かした。見た目の体積はヒサメさんと比べ4倍。これが魔女のマスコット?アニメとずいぶん違うぞ。


「入鹿コロネさん、ちょっと卑怯だよ、なんだよこれ」

「あたしとカップルになってくれれば、無駄な戦いも回避できますねぇ」

「そしたらヒサメさんがこの世に居場所なくすんだろ?なんでそんなに意地悪になれるんだよ」

「人のカレシを奪う快感、分からないですよねぇ」


 何かを思い出すような女子中学生の面持ち。前にもやったことがあるのか......

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