第6話試し合い

「それで舐め合ったのかよ?寝る前に『特に用事はないけどお休みなさい』みたいな連絡来ないかな~と期待してたら......頭ダイジョーブか?」

 高校の屋上で僕に奢らせた焼きそばパンとコーラを僕に食べさせ、そして飲ませてもらいつつヒサメさんは呆れた。


「すみません、形はアレでも味が女の子だったんで」

「あたいはサキュバスだから、カノジョヅラ出来ないんだよ。付き合うってんなら身を引いて魔界に消えるよ」

「それは寂しいです」

「魔界って、焼きそばパン売ってないらしいんだ」

「そこですか」


「食わなくても死にはしないけど、人間の食いもんで一番好きなのが焼きそばパンなんだよな~」

「入鹿コロネさんは中学が僕とヒサメさんと同じだって言ってました」

「学年でハルマのふたつ下。顔に見覚えなかったのか?」

「中学時代は高校受験で頭が一杯でした」


「そういやぁ、あたいの中学時代の仲間で、高校進学した奴がいねえなぁ」

「ヒサメさんがこの高校に合格した時、母が『あら奇跡が起きたわ』と」


「ハルマの母ちゃん、あたいのこと嫌ってないかな?」

「そんな素振りは無いですよ」

「ハルマの家に遊びに行きにくくなってマンション買ったってのもある。ほら、搾精した帰りに何食わぬ顔して挨拶するってのも変だろ」


「僕、資金洗浄って言葉知ってるんですよ。とりあえず不動産に換えるんですよね」

「ぶっ」

「コーラ噴き出さないで下さい、ほらじっとして」

 ヒサメさんの薄い唇から顎を伝い、喉に垂れたコーラをハンカチで拭いてあげる。


「わりい、洗って返す」

「いいですよこれくらい」

 ハンカチの奪い合いをしていると人影が。


「仲がいいのね、本当にうらやましいわ」

 公立中学校制服姿の入鹿コロネが嫉妬全開の面持ちで、腕組みをして立っていた。


「へえ、これが噂の魔女様ですかい」

 ふらりと立ち上がるヒサメさん。右足をさりげなく後ろに引いている。僕は見たことがある。油断させ、相手が前に出たら左ジャブで牽制する。相手が素手なら左ジャブだけで大の男も倒してしまうのがヒサメさん。


「すねた眼をしていますね」 

 腕を組んだままヒサメさんの顔を見上げる入鹿コロネ。1.2メートル離れてるけど身長差15センチくらいか。

「他にもなんか言えや。おやぁ?性格の悪さが眉に出てるね~」

「胸がサキュバスにしては小さいですこと」

「あ?ダイエットしたら胸から痩せんだよ、覚えとけやこの幼児体型」


 女同士の体型ディスりになってしまった。入鹿コロネは左ジャブで吹っ飛ばされる。


 しかし。拳を上げかけたヒサメさんの左ひざに腕組みしたままで先手の右ローキックを放ったのは入鹿コロネ。うわ、痛そうと思いきやヒサメさんは左足を上げ、すねでガードし、踏み込んで右上段回し蹴りを放った。


 入鹿コロネは冷静にふっと頭を下げ、蹴りをかいくぐり、サウスポースタイルからワンツー。左ストレートがヒサメさんの顎をかすった。だがヒサメさんも表情を変えず、左ひざ蹴りを入鹿コロネの鳩尾に。のけぞってバク転でかわす女子中学生。見た目優等生の女子中学生が、ヒサメさんと互角?


「午後の授業に間に合わなくなるわ、今日の18時に海浜公園駐車場で」

「お、あそこか。いいだろ」


 小走りに出入口に向かう入鹿コロネ。いつの間にか集まっていたヒサメさんの子分達10人余りが左右に分かれ、怯えたように道を譲った。


「アネゴ、何か待ち合わせしてましたね?」

「関係無いだろ」

 ツーブロックの高校2年生の子分の問いにそっぽを向くヒサメさん。顎にかすり傷。それを彼女は僕のハンカチでさりげなく押さえた。


「ハルマ、これは綺麗に洗濯して返す。このままじゃ呪いのハンカチになりかねねえからな」


「ハルマくん、いつもの神社裏手かな?」

 ツーブロックの先輩が僕に追いすがった。決闘場所に仲間を連れて駆け付けるつもりなんだ。迷惑だなあ。

 返事をすると却って面倒くさいことになるので黙ってやり過ごし、自分の教室に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る