第4話二次元から魔女
マンションを出るともう薄暗かった。
「あそこに防犯カメラあるの分かるか」
派手なTシャツにデニムの短パン姿のヒサメさんが指差すところを見上げれば、確かにそれらしきものがあった。
「女の子の家から帰る時は、『また来るよ』と言いつつ首筋をさらっと撫でて軽くキスするのが掟だぞ~、やってみ」
「えっと、また来るよ」
首筋をさらっと撫でて軽く、キスが難しいなと悩みつつ唇を突き出したらヒサメさんは目をつぶり、やはり唇を突き出してきた。
「おうち帰ったら練習しとけよ~、試験に出るからなぁ」
「今の防犯カメラに」
「うん、写ったんじゃないかなぁ」
上機嫌のヒサメさんだが意味が分からない。
「このマンション管理組合がいい加減で。頭来たからあたいが勝手に取り付けたんだよ、あれ」
「それって魔法使いの組織対策?」
「言っとくけどヤバい組織ってそれだけじゃないからな」
サキュバス以前の問題で半グレみたいですね、と口にしかけて悩んだ。あれ、半グレ以前の問題でサキュバスなんですねかな?
「ま~いいや、また明日学校で会おうな」
近所のコンビニに買い物に出かけたヒサメさんの後ろ姿を目で追いながら家路についた。もう1回したかったけど「これ以上食べたら太る」って言われたからな。
自宅の自室に戻ってパソコンの電源を入れた。Vtuber水間ナミのライブ配信を観るために。ついさっき童貞を拾ってもらったのに二次元カノジョですか?と問われたら、このコは二次元じゃなくて実在するんだ、と主張しておく。
「世界のみんなぁごきげんYo、ワールドフェイマスな14歳水間ナミの時間だYo」
紫色のセミロングを振り乱しナミちゃん登場。中の人は33歳という噂もあるが、それについては「中の人なんていないYo」と本人が否定していたのでファンとして気にしないようにしている。
「ワールドワイドで野球拳、みんな揃ってジャンケンポーン」
あれ、これ公式だよな?と思いつつチョキを出した。おお、勝ったぞ。まずはスカートを脱いでもらおう。某非公式18禁ギャルゲーみたいに理科室で四つん這いにさせ「あ、あ、赤ちゃんできちゃうYoooo」と言わせるのだ。
チョキを出した僕の右手を、パーを出した水間ナミちゃんがぺしっとはたいた。
「設定14歳が、そんな簡単に脱ぐ訳ないじゃない」
とうとう水間ナミちゃんとお話出来るようになった!と浮かれはしなかった。だって声が全然違う。
モニターから出てきたのは細身の人間の女の子。なぜ人間?異常事態発生に頭が混乱。
ゴツッ。僕の背中にドアがぶつかった。あまりの出来事にビビり、知らず知らずのうちに後ずさっていたようだ。
「信じて下さい、男の人とふたりきりになるの、これが初めてなんですぅ」
落ち着いて女の子を観察。たれ目気味の二重まぶた。高くはないけど細い鼻筋。アイドルユニットセンター系の顔立ち。カワイイな。でもこの人誰?
「あたしは魔女の入鹿コロネ、あさって14歳の誕生日を迎える中学2年生でぇす」
彼女がポーズをつけてニッコリ微笑むと、星のようなものがキラキラとその周りに舞った。
「魔法少女、ではないんだ」
「古代ハルマさん、サキュバスなんかといちゃいちゃしてたら将来ろくな人間になりませんよ?」
入鹿コロネはコンパクトミラーを僕の顔の前にかざした。鏡の中にはおじさんになった僕がパソコンのモニターを眺めている光景が映し出されていた。
「なんだか子供部屋おじさんっぽい......」
「子供部屋おじさん独身35歳です」
「あの、初対面の人に言われて素直にそれを信じろと言われても」
「そしてぇ、子供部屋おじさんな未来を回避するには、そのっ」
彼女は僕の話を全く聞いていなかったが面持ちが真剣。何しに来たんだろうと不審に思いつつ、固唾を飲んで言葉の続きを待つ。
「あたしをカノジョにすれば、サキュバス不用の健全な人生を送れますっ」
「健全な人生って、どんな人生?」
「あたしのような美少女と共に歩む人生です」
このコ今、自分で自分のこと美少女って言った。確かにカワイイけど、自分で言うかな。
「君は魔法使いの組織の人?」
「あなたにカノジョが出来たら、あの女はこの世界に居場所を失い魔界に帰るしかなくなるの。まだ行ったこともない魔界に」
また僕の話を聞いてない。明らかに何回も練習した台詞回しだけど、ちょっとオーバーアクション。
「僕はヒサメさんの味方をすることに決めてるんだ、悪いけど帰ってくれ」
「あたしも14歳の誕生日前に男性と体験しないと魔女から魔法少女に格下げされちゃう」
思い詰めた顔で入鹿コロネはブレザーを床の上に脱ぎ捨て、ネクタイを慌ただしくほどいた。
花柄のブラジャーの谷間がチラ見えした時、ごくっと生唾を飲んでしまった。だが僕はさっきヒサメさんに4回搾精されたので容易に賢者モードを取り戻せた。
「魔女とは取引しない、もう一度言うけど帰っ......」
少女は僕を横目で睨みながら舌打ち。ネクタイを中空で一振りし、黒いトンファー型警棒に変化させた。
あっと思う間も無く、警棒の先が僕の左こめかみに飛んできた。転がってかわしながら机の上のスマホに手を伸ばしたが、手の甲を叩かれ、スマホは床に落ちた。
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