第2話ダイエット

 ヒサメさんの実家は僕の家の隣り。だが彼女は今、駅前の分譲マンションに住んでいる。しかし親に買ってもらった訳じゃない。


「お邪魔しまーす」

 テレビの上に見慣れないものがあるな?と思いきや札束が無造作に積まれていた。合計2000万円位かな。


「月末だからお金無いって言ってませんでした?」

「あ~、それは来月になるまで動かせない分」


 悪い予感しかしない。僕は彼女の顔を覗き込んだ。

「ヒサメさん、僕の目を見てっ」


「あたいなんも悪いことしてないよ~、事務所に遊びに行ったら置いてあったんで持ってきただけだよ~」

「遊びに行ったら帰って来れるんだ……」

「うん、大体みんなトモダチだから~」


 読者のみんなはヤンキーとはいえ華奢な女の子がまさかと思うだろうが、県内でヒサメさんに喧嘩で勝てる半グレの人が存在しない。


 僕がまだ中2の時、彼女が6台のバイクに囲まれたところに居合わせたことがある。1台に2人。合計12人のヤンキーが全く同じ型の鉄パイプを持っていた。僕も巻き添えで肩を殴られてしまったが、ヒサメさんはひょいとひとりの鉄パイプを巻き上げて次々と殴り飛ばし、バイクを全て蹴倒して逃走防止を図り、その場にヘルメットを脱がせた全員を正座させてスマホで動画撮影し、「逆らったらネットに投稿すんよ~?」と恐喝して彼等の親から全額で5000万円位持ってこさせた。


 当時は僕も、あのマンションが5000万円くらいなんだなと漠然と思っていたが、調べたら8000万円超えの優良物件。別件で銀行口座に預けられないお金があったとは聞いているが、僕も詳細を知るのは恐ろしく、彼女が言うならそうなんだろうということにしている。


「自分の手持ちのカネでも手を付けられないカネってのがあって。そーだ、来月になったらハルマにお小遣いあげるよ~」

「いえ、遠慮しておきます。それより僕に見せたいものって」

「これをよく見るのだ~、えへ」


 ヒサメさんが制服の裾をぺろっとめくると、つるんとした白い肌と縦長のへそが丸見えになった。ドッキリ。

「ダイエットしたらウエストのサイズが減って腹筋が浮いてきた」

 生々しい。目のやり場に困るなぁ。

「指で押してみ?あ、スカート邪魔だったかな~?」

 スカートをあっさり脱ぎ、下半身スパッツ姿で仁王立ちのヒサメさん。2LDKにふたりきりなのに。異性を意識しているのを悟られたくなかったので素直にへその辺りを指で押してみる。


 見た目確かに腹筋は浮いているのだが触感はぷにっと女の子らしい。

「そこにサンドバッグあるだろ?あれ1日3,000回蹴ってたら痩せるのになんでみんなやらねえんだろうな」

「脛とか痛くならないんですか」

「慣れてくれば別に。今ケツ筋が筋肉痛だけどぉ」

「ジョギングとかしないんですか」

 一応会話はしているのだが、僕はうわの空でヒサメさんのへその周りを指でぐりぐりと押していた。


「ジョギング、はしたいんだけど痴漢が恐くてぇ」

「変なとこ触られたらヒサメさんも嫌ですよね」

「ん、うん」


 声が女っぽくなってきたので顔を見上げると、ヒサメさんはにやにや笑いながら額にうっすら汗を浮かべていた。


「ハルマ、あたしがこうやって両手挙げんだろ」

 ヒサメさんはファイティングポーズを取るように拳を握った。

「でも、両手首掴んで前に押すと」


 言われた通りにすると彼女はあっさり床の上に仰向けに倒れた。

「遠慮しないであたいの上に座っていいぞ~」

「重くないですか」

「女の子はこうやって押し倒せ~」

 幼馴染なのに、とためらい手首を握る力を緩めると、ころんと右横に転がされ、ヒサメさんの身体が覆いかぶさってきた。ピンク色の髪の毛先が首筋を撫でる。

「可愛いな、ハルマは」

 制服のズボンのベルトをほどかれ、チャックを下ろされた。

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