センパイ、いっちゃやだ……っ
「センパイ、いっちゃやだ……っ」
潤んだ瞳、高揚している頬、俺の袖を握る手。まるでこれから遠距離恋愛になるみたいなシチュエーション、だが……。
「待て七瀬。俺は教室に戻るだけだ」
そう。俺は教室に戻ろうとしているだけなのだ。お昼を食べたら5時間目の授業があるのは当然だろ?
「でも、私は……片時もセンパイの側を離れたくないんです……っ!」
「んな女優ばりの名演技してないで早く教室に戻れ」
昼休み終了5分前になっても七瀬は俺から離れない。
「いやです!」
くっついてくる七瀬を剥がそうとするも力が強すぎて離れない。
こんな華奢な身体にこれほどの力があるとは……。だが手はすでに打ってある。
「やっと来たか……」
俺の目線の先には女子生徒が二人組で駆け足でこちらに向かってくる。
「すいませんウチのナナがー」
「すぐ回収するんでー」
「業者かよお前ら」
七瀬の友達の|阿津一望(あつひとみと》さんと
「センパイ、助けて……っ!」
素早く二人に両脇をガッチリホールドされ、離れていった七瀬。
「こーら。ジタバタしなーい」
「授業始まるよ」
「私はセンパイと授業をボイコットするの……っ!」
「いや俺、ボイコットするとか一言も言ってないけど!?」
「とにかく私は授業行きたくありませんっ!」
こんな抵抗する理由は他にもあるな。
「……トミツム次の授業何?」
「ナナの嫌いな化学ー」
「しかも今日は豚の目の解剖でーす」
「単に嫌いな授業に行きたくないだけだろ!」
「か、化学はその……薬品の匂いが苦手で……。今日は薬品を使った実験じゃないだけマシですけど、豚の目の解剖はちょっと……」
「気持ちは分からなくもないがっ!」
確かに豚の目の解剖は俺も多少の抵抗があるが……。このままじゃ埒があかないな。
「というか篠宮先輩。ナナが大人しくなるような呪文みたいなのないんですか?」
「んなもんねぇーよ」
いや、待てよ。これもネットに書いてあったな。
「……じゃあ一個試すか」
「お願いします。篠宮先輩がなにしようとナナは喜ぶので」
そんなことはないと思うが。
そうと決まればすぐさま行動に移す。
俺は七瀬に近づき、その前髪を上げておでこにキスした。
「ふぇ?」
七瀬はキスされたおでこに手を当てた状態でピタリと止まった。
「おお、すごーい」
「リア充見せつけられてムカつきますけど尊過ぎてグッの根も出ないです」
「じゃあトミツム、後は頼むわ」
「お任せを」
「お幸せにー」
5時間目の授業の前半は七瀬、律ともに恥ずかしくて頬が赤かったという。
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