「センパイの温もりを感じたい」と言っていたが、本当のところは?

「あっ、遅いよナナー」

「こっちよ」

「ごめんごめん」


 体育館に入ると友達の阿津一望あつひとみ森五夢もりいつむもといトミとツムに手招きされたのでそこに向かう。

 

「あれ、ジャージブカブカだね?」

 

 トミが不思議そうに私の姿を見てそう言った。

 それもそのはず。私はセンパイのジャージを着ているからだ。

 

 センパイはやっぱり男の子とあってサイズは私より3サイズくらい大きい。そのため袖から手が出なく、下も半ズボンが半分隠れるほどだ。


「それもしかしてー」


 ツムは感づいたのか、ニヤニヤしながら私を見ている。


「……センパイの」

「ええ!? だから先に行けって言ったのか〜」

「相変わらずラブラブね。でもまたどうして?」


 どうして、って……。


「センパイの温もりを感じたいから。それと……」


 ジャージの袖をギュッと握り、また言葉を続ける。


「……これでセンパイが私の彼氏って思い知らせて、センパイを取られないようにする」


 少し恥ずかしかったのでジャージの首元を口元が隠れるくらいにあげる。


「うわ、なんか盛大に惚気られた気がする……」

「確かに、篠宮先輩はカッコいいものね」


センパイは謙遜しているが、普通にカッコいい。体格も良くておまけに面倒見も良く誰に対しても優しい。

 だから他の女の子にいつ取られちゃうが心配になる。


「クンクン……センパイ成分補給中……」


 そんなことを考えたら悲しくなったので、ジャージの匂いを嗅ぎ、すぐさまセンパイ成分を補充する。

 

 センパイのいい匂いがする……。落ち着く……。


「さすがナナ」

「過保護というより微ヤンデレね」

「うっ、うるさい……」


 自分でもわかってるけど……。

 

 手を入れようとした時、ポケットの中からガサッと物音がした。


「ポケットに何か入ってる? ……紙?」


 取り出すと二つ折りにしてある紙だった。試しにめくってみると文字が書いてあった。


『頑張れよバーカ』


「………」


「ナナ固まってどうしたの?」

「さぁ?」


 私は手紙に釘付けになる。


「センパイ、メッセージくれるのは嬉しいですけどバーカは酷い、むぅ……」


 どうせなら『可愛い』とか書いて欲しかった。これはジャージを返す時、一言言ってやらなければ。


 今日は筆記用具持参なのでペンケースからシャーペンを取り出して紙の裏面にメッセージを書く。

 

 うん、これでよしっ!

 

「いーただきー!」

「あっ、ちょっと!」


 書き終えたところでトミに取られてしまった。


「七瀬ちゃんは何を書いていたのかなー?」

「どれどれー?」


 2人が背を向けて隠しているため取り返すことができない。


 ペラっ


『バカって言う方がバカなんです!センパイも頑張ってください』


「「………」」


((何このカップル!?尊い!!))


「えーと、黙らないで欲しいなー」


 その後のバレーでは七瀬は大活躍だったとか。

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