センパイ今、他の子見てませんでしたか……?

「はぁぁぁぁ……! センパイの制服姿、カッコいい〜」

「週に5回は見てるだろ」


 登校中なのだが、七瀬は俺の腕に自分の腕を絡ませ、うっとりした表情でいた。


「週に5回だけですよ?私は毎日でも見たいです」

「俺は毎日着たくない。特にネクタイが窮屈だ」

「じゃあ私のリボンと交換しますか?カレネクみたいでカッコいいですし」

「カレネクってなんだよ、カレシャツみたいに言うな。つかその場合、俺がリボン付けないといけないじゃん。はたから見たらヤバイ奴じゃん」

「ふふっ、確かに似合わないですねっ!」


 笑いながらさらにくっついてくる。

 むにゅんとした効果音と柔らかい感触が俺の腕を襲う。


 気を散らすために視線をそらす。目線の先には駅前に新しくカフェがオープニングしたというポスターが貼ってあった。


「センパイ。今、他の子見てませんでしたか?」

「見てねぇーわ。そこに人なんていなかったよな?それともお前には何か見えるのか?」


 ポスターですけど? 壁ですけど?


「本当ですかー? 基本的に私以外見るの禁止です。私だけ見ててください」

「事故るわ。道見ないと怪我するだろ」

「いいからこっちです」


 七瀬は俺の顔を両手で掴み、自分の顔の方に近づけようとする。そして俺は必死にそれを抵抗する。


 ……ブーン

 

 後ろから微かにそんな音がした。その音はエンジン音に近い。

 振り向いた時にはもう遅く、軽トラは猛スピードで俺たちの側を通り過ぎようとしていた。

 チラッと運転手の顔が見えたが、携帯を耳元に当てていた。


 この道路の幅は狭く、車1位分がギリギリ通れるくらい。


「っ!」

「きゃっ」


 俺は慌てて七瀬を壁際に押しつける形で危なげなく回避する。


「たくっ、危ねぇな」

「せんっ……ぱ、い……?」


 突然、壁に押しつけられた七瀬は何がなんだか分からない様子だ。

 

「ああいう奴いるから周りを見ないと危ないんだぞ?」

「あっ……すいません」


 去った車を見て察したようだ。

 ショボンと落ち込む七瀬に向かってもう一言言ってやることにした。


「さっき七瀬は自分だけを見て欲しいって言ったけど」

「それは……」

「じゃお前は俺の側から離れるな」

「………っ」


 七瀬の顔が急にボンっと赤くなった。そんな七瀬を見ているとこっちも恥ずかしくなり急いで退く。


「センパイカッコいい、センパイイケメン、センパイわたしのカレシ。センパイカッコいい、センパイイケメン、センパイわたしのカレシ……」

「七瀬? 七瀬さーん?」


 頬を両手で覆い、何やら呪文のように早口で言い始めた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……♡」

「お、おい大丈夫か?なんか疲れきった後に温泉入って気持ちぃーみたいな声になってんぞ?」

「あぁ……せんぱい……すきですぅぅ……」

「お、おう。俺も好きだから早く学校に行くぞ!」


 その後、俺の行動が逆効果だったらしく、七瀬は余計くっついてきた。

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