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「ここまででさ、上出来じゃん」
中学三年生の時、決勝戦で敗れた後児玉は言った。泣き崩れるキャプテンの代わりに、自分が何かを言わなければならないと思ったのだ。
実力以上の結果だった。でも、みんな本気で悔しがっているように見えた。
なんとなく、「サッカーはここまでか」と思った。熱が冷めていったのだ。
かと言って、何もしたくないわけではなかった。スポーツは好きだ。自分に何かあっているものがあるか、それを考えた末に、高校ではラグビー部に入った。
ラグビーは素人だったうえに、選んだナンバー8というポジションには芹川というレギュラーがいた。控えメンバーの気楽さで、一年間は楽しかった。
チームの成績が「そこそこ」なのもよかった。変に決勝戦に行ってしまっては、あの時の二の舞だ。夢を見てしまったら、夢破れる。
そう思っていたのに。
学校の名前も変わって、推薦入学も減って、安泰だと思っていた。楽しい部活。
それなのに。なんとか高校と言われながら、決勝戦まで行って、勝ってしまった。
花園は、児玉の憧れの地ではなかった。上出来すぎるんだよ。一度きりの夢なんだよ。そう思っていた。
能代の前では、出場したいなんてことも言った。嘘ではない。けれども、芹川に比べて自分はとてもへたくそだった。だから冷静に考えて、出られるとは考えていなかった。
でも。
出てみたい、と思ったのだ。
正確には、当たったみたいと思った。全国トップの東博多とは、どんなものなのか。
荒山や宝田は、すごく喜んでいるようでどこか冷静だとも感じた。中学時代からの経験があるからだろう。何をしても全国に届かなかった自分には、全国大会なんてのはとんでもないものだ。そこで、昨年度準優勝と対戦するなんて、本当にとんでもないことだ。
「えいやー」
児玉は思い切りタックルに行った。しかし、相手は止まらなかった。後ろで、星野と二宮がしがみつくようにして何とか食い止めた。
いいじゃん。児玉は思った。全然ダメじゃん、俺。伸びしろありまくりじゃん、俺。
この試合は負けるだろう。だからこそめぐってきた機会だ。ほかの選手には悪いが、悔しくはない。負けるべくして負けるのだ。
それでも児玉は、こうも思っていた。来年も来たいなあ。来年は、もっと出たいなあ。
「はしゃぎすぎだぞ、児玉」能代が声をかけた。
「そう見えた? いやーん」
児玉は舌を出して見せた。松上ににらまれた。
楽しもうぜ。児玉は思った。もう10分しかないんだから。花園を、味わいつくそうぜ。
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