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 楕円球が、まっすぐに飛んでいく。

 前半終了間際、東博多のペナルティキックが決まった。



途中経過(前半終了)

総合先端未来創世14-29東博多



「後半巻き返すぞ!」

 荒山が声を上げた。

 ハーフタイム。いつも通り、一年生たちの表情はそこまで暗くなかった。点差は15点。練習試合の時に比べれば、ずいぶんと食い下がっている、ように見える。しかし荒山は、そんなに楽観的ではいられなかった。

 東博多は戦い方を変えてきた。何点取れるかではなく、確実に勝利するというものだ。試合を全くコントロールさせてもらえなくなった。得点のにおいがしなくなったのである。

 何を変えればいいのか。荒山には、打開策が思いつかなかった。

 監督の方を見ると、二宮に声をかけていた。後半から出るということだろうか。近堂も準備している。酒井が下がって以来かみ合っていないプロップに、テコ入れをするのだろう。こちらはいつも通りだ。しかしいつもと違うのは、近堂の重さでもそれほどアドバンテージにはならないかもしれない点だ。東博多のフォワードは、皆重くて強い。

「後は頼んだぞ」

 肩をたたかれた。振り返ると、ウイングの林だった。

「えっ」

「俺が下がる」

「そうなのか」

「二宮が入って、犬伏がウイングに回る。まあ、賭けに出るんだよな」

 以前も一度、二宮を入れてテコ入れをしたことがあった。確かにキックの調子が悪いカルアよりも、二宮の方がスタンドオフの仕事をこなせるかもしれない。自分にはなかった発想だが。

「ここまで楽しめたよ。荒山のおかげだ」

「おい、次もあるぞ」

「……そうだな」

 林は、うつむきながら笑った。



選手交代

鷲川(PR 2)→近堂(PR 3)

林(WTB 3)→二宮(SO 2)



 カルアは様々なところを守ってきたが、ウイングはあまり好きではなかった。

 中学時代は弱小チームだったため、ウイングが活躍するという場面が作りにくかったのである。いつまでもボールが回ってこないということもあった。

 ラインを作ってもうまくパスを回せない。そんな中ではカルアのキック力も生かすことができなかった。

 しかし、今のチームは違う。荒山はすごいし、二宮はうまい。もう一人のウイングの金田は天才だ。センターの先輩たちも、きっちりとパスを回してくれるに違いない。

 調子が悪いと言っても、カルアのキックで打開しなければいけない場面も訪れるだろう。その時には、何としても決めなければならない。

 思わぬ伏兵の善戦に、会場は異様に盛り上がっていた。見る側にとっては、初出場のよくわからない名前の高校が、東博多に決定的な差をつけられていないのは全くの予想外だったのである。

「もっと、戦いたいなあ」

 カルアは、そう言いながらフィールドへと進んでいった。

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