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 東博多がハイパントを多用し始めた。しかもスクラムハーフ、フルバック、ウイング、ナンバー8とあらゆるところから蹴っていった。

 ハイパントをあまり使わないチームもある。ボールを空中に長く滞空させその間に前進する作戦だが、すでに前に行っていた選手はボールを触れない。ラグビーでは待ち伏せ行為が禁止なのである。そのため、ハイパントで着々と前進していくという作戦は取りにくい。

 東博多は、ボールを奪われてもいいと考えていた。強いタックルでぶつかっていく。元々フォワード陣は優勢なうえに、手ごわかった酒井が負傷退場した。相手の傷は、どこまでも攻めるつもりだ。

 ボールを持たされる。そのような状態に総合先端未来創世は追い込まれた。ボールを持ちながら、じりじりと後退させられる。苦しくなり蹴ると、相手もまた蹴ってくる。

「あああ、なんかじらしプレイ……」

 ベンチでは、西木がオロオロとしていた。

「あれは違う。東博多が、本気で勝利を狙いに来たんだ」

 そう言ったのは二宮である。

「本気で、勝利を?」

「多分、東博多は今後のことを考えて、『控えメンバーで100点取れるかな~』ぐらいの気持ちでいたはずだ。それが14点取られて、嬲り殺す方向に作戦を変えたんだ」

「ひー」

「ノットリリースザボール」

 レフェリーが手を挙げた。倒れてもボールを離さなかった反則だ。

 この反則から、博多東はトライを決めた。そして、キックも決まり、再び得点差は7点となった。



途中経過(前半22分)

総合先端未来創世14-21東博多



「はー、やばいとられ方したな」

 蔭原は嘆息した。

 今日は、テレビで観戦している。父方の実家に帰省しており、花園からはとても遠かった。

 ここ二年間は、冬休みは花園にいた。今年もそのつもりだったのだが、一回戦が終わった後、家族にここに連れられてきた。

 総合先端未来創世が惨敗する姿は見たくなかった。東博多はとんでもなく強い。全国から一流の選手が集まっている。太刀打ちできるはずがない、と思っていた。

 それが、先制して、逆転されても追いついた。しかも、犬伏のキックに頼った戦い方ではない。いけるのか、と思わせた。

 だが、そんなにうまい話はなかった。作戦を変えてきた東博多は、試合を完全にコントロールし始めた。トライの後、二つのペナルティゴールを決めた。14-26。点差はまだ12点だが、なんとか高校にとっては苦しい点差でもある。ドロップゴールやペナルティゴールは、5本決めないと逆転できない。その間に全く点を取られないとしても、だ。

「こりゃいかん」

 さらに一本、トライを決められた。キックは外れ、14-26。

 もうすぐ前半が終わろうとしている。


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