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 位置は悪くない。風も穏やかだ。それでもカルアは、いつになく緊張していた。

 東博多に先制した。もし勝てるとすれば、僅差しかないだろう。2点といえども、馬鹿にできない。

 この距離この角度。カルアにとっては、難しくない。それでも。

 カルアは、一歩を踏み出した。蹴られたボールは、いつもより勢いなく飛んでいく。なんとか高さを維持して、ボールはポールの間を抜けていった。

 成功。これで7-0。

「オッケー、犬伏」

 荒山が笑顔で肩をたたいたが、すぐにその顔は曇った。

「はい」

「どうした?」

「今日……調子悪いです」

「そうなのか」

「全部は入れられないと思います」

「そんなこと正直に言うやつは珍しいぞ。わかった、そのつもりで作戦を考える」

 カルアは「そうなのか」と思っていた。これまで、不調を隠したことはない。チームのためにならないし、得点できないことを覚悟させる必要もあった、

 何より、先輩たちがケガを申告する場面を見てきたのだ。荒山の態度から察するに、本当はもっと傷んでいる選手がいたということだろうか。

 カルアは、様々なことを考えた。



 まじか。荒山は焦っていた。

 先制したとはいえ、東博多の攻撃力から考えれば、簡単に逃げ切れるはずもない。まだまだ点を取らなければならない。

 荒山は心の中で、カルアに頼ることを考えていた。ペナルティをもらってペナルティゴール。余裕ができればドロップゴール。押し込まれたら陣地回復。

 どこまで頼るつもりだったんだ。彼は一年生だ。高校に入るまで勝利したことのない一年生だ。

 金田が5点。犬伏が2点。一年生二人で東博多から7点取った。それだけですごいことだ。

 ここからは、上級生で点を取っていかなければならない。

 そう荒山は誓った。しかし、東博多はそんな彼の思いを打ち砕いた。

 フォワードが重い。バックスが早い。タックルが強い。キックが飛ぶ。

 全てにおいて上回っていた。振り切られて、抜けられて、押し切られる。

 あっという間に二本のトライを決められた。

 7-14。何もさせてもらえない間に、逆転された。

「こっからこっから!」

 宝田が声を出した。必死に盛り立てようとしている。

 続かなければ。主将として、役目を果たさなければ。

「次は取るぞ!」

 何とか声が出た。本心は怖かった。合宿の時よりもさらに、怖い。先制することによって、東博多を本気にさせてしまったのかもしれない。

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