全国大会2回戦

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 鹿沢は、観客席を見渡した。多くの人々が、試合を楽しみにしているのがわかる。東博多は、ファンも多いチームだ。

 ここは、表舞台だ。

 総合先端未来創世高校はわき役に過ぎない。皆、東博多高校の仕上がりに期待していることだろう。

 それでも。ここまで来られたことが、素晴らしい。

 大学では結局1部リーグに上がれなかった。チームメイトに一人、東博多出身者がいたがずっと2軍だったという。かなり早い段階で、トップ争いをできる人間は選別されている。

 総合先端未来創世高校のメンバーにしても、今後大学でトップ争いをできる者はいないだろう。荒山や宝田は、1部リーグで活躍ぐらいはできる選手だ。しかし、そこにはとんでもない猛者たちが集まってくる。選手権に行くようなチームには、おそらくは入れない。

 今からの試合は、選手たちが経験する「最も大きな試合」になるかもしれないのだ。

 勝てるとは思えない。相手は全国から有力選手が集まる強豪校だ。しかし、好きにやらせるつもりはない。

「おっしゃ、今度は驚かせてやるぞ」

 


選手権大会2回戦 対東博多高校オーダー 


酒井(PR 3)

佐山(HO 3)

鷲川(PR 2)

須野田(LO 2)

小川(LO 2)

甲(FL 3)

松上(FL 2)

芹川(NO8 3)

荒山(SH 3)

犬伏(SO 1)

鶴(CTB 3)

林(WTB 3)

金田(WTB 1) 

瀬上(CTB 2)

宝田(FB 3)



「はあ」

「あら、くそでかため息」

「いやいや、お恥ずかしい」

 能代は、森田に頭を下げた。

 試合が始まる。前試合では、古龍や一年生たちが出場した。作戦上のことでレギュラーがとってかわられたわけではない。それでも、その中に自分がいなかったことが能代は悔しかった。宝田がいない間、フルバックを守ってきた自負がある。カルアが回ってくる可能性もあった。それでも監督は、能代を使い続けた。それはある意味、スタンドオフの二宮に勝ったということでもある。二宮をどうしても使いたければ、能代を外してカルアを入れていただろう。

 復帰した宝田よりも、優先して使ってもらった時もある。しかし気づいてみたら、当然のように宝田がスタメンで使われている。万全の動きをすれば、それは当然のことでもあった。

 しかし、だ。わかってはいても、感情は抑えられない。

「能代君には来年があるんだから」

 来年。確かにそうだ。おそらくフルバックのレギュラーになるだろう。だが、三年生たちが抜けたチームで、再び県大会を勝ち上がることができるだろうか。荒山と宝田という二本の柱。力のあるフォワードの選手たち。鶴や林という、頼りになるバックスの面子。彼らがいなくなった中で、どれだけのチームを組めるだろうか。

 来年も、戦いは続く。だが、今この試合に出たい気持ちも当然ある。チームには勝ってほしい。けれども……博多東は果てしなく強い。

 ボールを受け取った金田が、ステップを切って走っていく。前回の対戦では、補講を受けていて来られなかった。相手も目の当たりにするのは初めてだった。

 まるで、そういうダンスであるかのように、金田は守備をすり抜けていった。誰も彼を止められない。

 ざわめきが、歓声へと変わる。金田は、そのままトライした。ノーホイッスルトライ。あの、東博多から。

 ベンチはしばらく、静かだった。目の前で起こったことが理解できなかったのだ。

「すげえ」

 能代は言った。そこから堰を切ったかのように、称賛の声が続いた。



途中経過(前半1分)

総合先端未来創世5-0東博多

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