8
(前半終了)総合先端未来創世3-0北嶺
佐山(HO 3)→古龍(HO 2)
「えっ」
次なる交代に、宝田は思わず声を上げた。ちなみに監督に準備を告げられた時、古龍自身も同じ反応をした。
フッカーはフォワードの一番前、つまりチームの一番前にいる選手である。スクラムの中心になったり、ラインアウト時にボールを投げ入れたりと重要な役割が多い。そしてチームにとって、佐山は絶対的なレギュラーだった。
リードしているとはいえ、その差は3点。勝利を目指すならば、普通は外したくない選手である。
「驚いているのか、宝田」
鹿沢が、微笑みながら言った。
「そ、そりゃあ、まあ」
「お前が一番わかっているはずだぞ。古龍が出ざるを得ないことだってあると」
「う……」
宝田もまた、絶対的なフルバックのレギュラーだった。彼がいないチームなど考えられなかったし、誰もそういう想定でチーム作りをしていなかった。しかし宝田は怪我をして、能代が出ざるを得なくなった。
古龍が出ることもある。当たり前の事実を、監督はチームに突き付けてきたのだ。
古龍は、こぶしで両足を叩きながらフィールドに入っていった。中学二年生までの、活躍を思い出しながら。
彼は、ずっとサッカーをやってきた。華麗なドリブルと鋭いパスで、将来が期待される選手だった。しかし中学二年生の後半から、どんどん体重が増加。動きに切れがなくなっていった。
周囲は、「本人の管理不足」と捉えた。古龍自身も何とかしようと努力したが、元の体型に戻ることはできなかった。三年生になり、レギュラーを外された。サッカーはやめようと思った。
それでも、彼はスポーツが好きだった。高校に入り、「大きくなった自分」にあっていると思って入ったのがラグビー部だった。
もともと運動神経はいいし、キック力はある。並のチームならレギュラーになれただろう。しかし総合先端未来創世には、佐山という絶対的な選手がいた。佐山も高校からラグビーを始めたのだが、恵まれた体躯と頭の良さ、さらに気迫もみなぎり隙のない選手に成長していた。古龍の出番は、ほとんどなかった。
二年生になり、二宮と同じクラスになった。一年後半から出番を増やしており、スタンドオフのレギュラーになると思われていた。「あの日」までは、単にうらやましい存在で、本人にも言っていた。「二宮みたいに、いつも試合に出られるようになりたいよ」と。だが、突然へんてこな一年生が現れた。経験者で、やたらとキック力の強い、犬伏カルア。二宮の出番は奪われた。
クラスメイトと、似た立場になった。それでも、並んだわけではなかった。カルアのポジションは流動的で、スタンドオフ以外に入ったときは二宮の出番となる。それに対して、古龍は佐山を越えるしかない。他の位置で出ることもあるだろう。だが、最初からそちらに期待するのは絶対に嫌だった。体の大きさを言い訳にできないところにきた。絶対に、何からも逃げない。
「信也!」
ボールを持った二宮が叫んだ。古龍の名前だ。二宮がボールを蹴る。低い弾道で飛び出した楕円級は、相手守備の裏側に出てころころと転がる。古龍は走った。彼が最も佐山に勝るのは、脚力だ。サッカーで培った脚で、必死にボールを目指す。
敵味方入り混じって、不規則に転がるボールを追いかける。もう少し、あと少しで追いつく。だが、古龍の手は届かなかった。相手がボールを確保する。まだだ。古龍は思い切りタックルをした。サッカーには大きすぎる体で、ぶつかっていった。
タックルで倒されたら、ボールは手放さなければならない。今度はそこに向かって、両チームが集まってくる。総合先端未来創世の方が集合は速く、相手からボールを奪うことに成功した。
そのままパスをつないで、トライ。
その後、カルアがキックを決めて、7点追加。
古龍は、他の二年生たちに肩を叩かれていた。
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